地球の歴史上最大の陸生哺乳類は、新生代漸新世(2000〜4000万年前)に中央アジアにすんでいた角のない首が長めのサイ・バルキテリウム Baluchitherium grangeri である。現在のキリンよりも背が高く肩の高さで5mもあり、体重は今の世界では最大の陸生動物であるアフリカゾウの3倍もあった。

 1907年、一部の骨がバルチスタンで初めて発見され、1922年にはモンゴルで頭骨(1.4m)が見つかった。これらの断片からニューヨーク自然史博物館で肩高5.3mの模型が作られた。それはウマのようにも見える巨大なサイの姿をしていた()。
 1999年5月、パリ自然史博物館の Jean-Loup Welcomme 教授に率いられた一行がパキスタンの Dera Bugti Hills で保存状態の良い骨格を発見し、全貌がより明らかになった。これによると従来の復元は重々しすぎた(つまりサイを意識しすぎた)ようで、新しい復元ではもっと細長くよりウマ的になっている。大きさの推定も下方修正され、高さはやはり5m以上といわれるが、体重は15−20トンに見直されている。以前は30トンともいわれていた。

 よくにた種類にインドリコテリウム Indricotherium parvum があり、同じ頃にやはり中央アジアにすんでいた。
 古代の哺乳類を紹介した本にはインドリコテリウムだけしか解説せず、バルキテリウムについては言及していないものが多かった。B. クルテンの「哺乳類の時代(1976)」にもインドリコテリウムの記載しかなく、訳註に「最大の哺乳類としては、同じく巨大サイ類のバルキテリウムをあげるのが普通であるが、本書でそれに触れていないのは何故なのかよくわからない」とあるくらいだ。
 しかし最近になってバルキテリウムの復元が見直され、両者は同一の動物を指している可能性が高くなった。もっとも以前にも同一だとの指摘はあったが。

パキスタンで発見されたバルキテリウム(Pakistan.com

 バルキテリウムは1923年にアメリカの Henry Fairfield Osborn によって命名されたが、インドリコテリウムの方は1922年に Maria Pavlova が命名しているのでこちらの名が優先されるのだろうか(学名は先取優先となっている)。
 インドリコテリウムも最近、カザフスタンで良好な化石()が見つかり、再復元され、肩高4.5m、体長7.5mの骨格が展示されている。

 バルチスタンからはバルキテリウムとは別の動物と思われる化石も見つかっている。これは1911年にイギリスの Clive Forster Cooper によってパラケラテリウム Paraceratherium と名付けられたが、はたして別物なのだろうか?(Mikael Fortelius

 バルキテリウムがスリムになったことで、史上最大の陸獣としてマンモスが浮上してくる。ステップマンモスは肩高4.5mに達した。1980年に内蒙古で発見された松花江マンモスは肩高4.7mあり、その胴体はステップマンモスよりも幅が広いという。これらのマンモスにはバルキテリウムに比較しうる体重(〜14t)を持つものがいたかもしれない。

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