ダコタの Sioux インディアン(スー族)には雷獣の伝説がある。天に棲む巨大なウマが嵐の空を駆け回り、その蹄の音が雷鳴となって轟くのだという。彼らはサウスダコタやネブラスカで巨大な動物の骨を見つけ、落雷を雷獣が落ちたものと考えた。興味深いのは発見した骨から作り上げた雷獣のイメージが Thunder Horse、天に棲むウマだったことだ。
当時、ロッキー山脈はまだ噴火を続けていた。そして稀に大爆発が起こり火山灰がブロントテリウムの家族を呑み込んでしまった。そのようにして死んだブロントテリウムの集団の化石が発見されている。インディアンはサイを知らなかったし、蹄の骨はウマのそれによく似ていたからだろう。
ブロントテリウム科の動物は始新世後期から漸新世前期にかけて、3000〜4000万年前の北アメリカや中央アジアで多数発見されている。ブロントテリウム Brontotherium(ティタノテリウム Thitanotherium ともいう)はその中でも代表的な一群で、10種以上がコロラドやサウスダコタから知られている。 最大種 B. platyceras は頭骨の長さ88cm、体長4.6m、肩高は2.6mと見上げるほどの大きさになり体重も5tと推定されている。 |
Y字型をした角はサイとは異なり中に骨があり(サイの角は皮膚が変化したもので中に骨はない)、また鞘で包まれているウシの角とも異なり、キリンの角のように皮膚に覆われていたと考えられている(Josef Benes, 1979)。 この時代、北アメリカにはブロントテリウムを脅かすほどの強力な肉食獣は存在しなかった。大きな角は、子を外敵から守るためにも、また雄同士の戦いにも使われただろう。肋骨に強烈な一撃を受けたらしい傷跡を残す化石も見つかっている。 ブロントテリウムはあちこちに沼や池がある草原に群をなして生息していた。彼らの歯は硬い植物を食べるのには適していなかったので、水辺に繁茂する柔らかな草を多く食べていたようだ。このため、気候が変化して乾燥化が進み、水辺が少なくなると絶滅していった。 リノティタン Rhinotitan mongoliensis 肩高2-2.5m |
北アメリカにおける雷獣の進化の頂点ブロントテリウムに対し、モンゴルにはそれに劣らず巨大で奇怪なエンボロテリウム Embolotherium が生息していた。肩高2.5m、体長は4mを超え、頭骨も80cmほどあり、大きな角はブロントテリウムのY型のそれが融合したような平たいへら状になっていた。目はその角の根元に近いところにあり、角が邪魔になって前方が良く見えなかったのではないかと思われるほどだ。
ブロントテリウム類は巨体ながら頭骨は小さめで、脳はごく小さかった。人の拳ほどの大きさだった。知能も低かったはずだがゴビ砂漠のエンボロテリウムをはじめ、中央アジアにも多数の種が出現しているのはこのなかまが繁栄したことを示している(Savage, 1988)。
同時代に同地域に分布していたとはいえ、種によって環境への適応は微妙に異なっていたはずである。同じような生活をする類縁の近い動物は、同じ地域には生息できないのが普通だからだ。カザフスタンやモンゴルで見つかっているプロティタン Protitan は、四肢が短く肋骨が長く、カバのように水棲に適応していたと思われる。一方やはりモンゴルで発見されたリノティタン Rhinotitan は今のサイよりも前脚が長い体型をしていた(Smithsonian Institution)。