今からおよそ1800万年ほど昔の中新世、北アメリカにはダエオドンと呼ばれる巨大なイノシシのような動物が棲んでいた。体長3.3m、肩高2.1m。現在のバイソンやスイギュウをしのぐ巨体だった。頭骨は90cmもあり、これは現在のイノシシの最大型(東ヨーロッパ産)の2倍の大きさだ。
 雑食性で今のイノシシのように大きな牙で植物の根を掘り起こしたり、また他の動物の死体を食べていたようだ。
 ダエオドンの頭骨には穴が開いたり、破損しているものが少なからずあり、雌を巡る雄同士の争いや、テリトリー、あるいは死骸を奪いあったと考えられる(keltationsart.com)。

 大草原が発達していた当時の北アメリカ。19世紀にネブラスカの Agate Springsで多数の化石が見つかっている。ここで多くのダエオドンが天災、それも干魃で死んだようで、川が干上がって小さな水たまりとなってしまった所に多くのダエオドンが集まり死んでしまったことを窺わせる。


ダエオドンとニホンイノシシ(手前)。ゆうに親子ほどの差がある。

 ダエオドンは以前はディノヒウス Dinohyus(terrible pig)と呼ばれていた。恐るべきブタという意味だ。両者は別々に記載されたのだが、後に同じ動物だと鑑定され、先(1879年)に発見されたダエオドンが優先されることになった。
 ダエオドンの歯形が残されたモロプスの骨が見つかっている。これはダエオドンが捕食者だったことを意味するのではなく、死骸を食べたものと思われる。

モロプス Moropus elatum
 中新世の北アメリカに棲んでいた独特の奇蹄類。かぎ爪を備えた頑丈なウマといったかんじで、肩高2mもあった。鈎爪は植物の根を掘り起こすのに使われたか。ネブラスカ産の化石には傷を負ったものが見つかっており(Kubacska, 1962)、肉食獣に襲われたことを示している。鈎爪は身を守る武器だったかもしれない。


 ダエオドンを含むエンテロドン科は、カバやイノシシと同じ偶蹄類の不反芻類に属し、新生代第3期に北アメリカやアジアで栄えた。脚の長いイノシシのように見えるがイノシシそのものではない。大きな頭骨は後頭部が幅広く、頬が下向きに突き出していた。また下顎の下面には3対の瘤があり、容貌はイボイノシシに似てグロテスクだった。
 巨体だったが四肢が長かったことからかなり速く走ることができただろう(クルテン、1971)。この仲間の化石は日本(長崎県)からも見つかっている。

アルカエオテリウム Archaeotherium scotii
南ダコタ産。体長2.6m、肩高1.7m(鹿間、1979)→

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