デイノテリウムはゾウのなかまでは特異なグループで、中新世初期、およそ2400万年前にアフリカに現れ、しばらくして中央ヨーロッパや南アジアにまで拡がった。
 他の多くのゾウとは異なり、上顎には牙はなく、一方下顎は下方にカーブしていて、それが途中で2本の牙になっている。胴が短く、四肢が長くて背が高い体型はゾウそのものなのだが、断片的な骨しか知られていなかった頃には、カバかバクのなかまではと考えられたほどだ。
 1832年、ドイツの Eppelsheim で完全な頭骨が発見され、Kaup や Klipstein がこれを長鼻類に分類した。1853年と1883年にボヘミアで全身骨格が見つかって彼らの正しさが証明されることになる。
 Kaup が記載したデイノテリウムは鮮新世後期から更新世初期にかけて(200−400万年前)のヨーロッパにいた最大種 giganteum肩までの高さが3.5−4.5m、頭骨から尾骨までの長さは5.5−7mもあり、この時代の陸生動物では最も大きかった。
 東アフリカの Olduvai 層からは古代人類の化石と共に見つかったので、当時の猿人はデイノテリウムを狩っていたのかもしれない。

 デイノテリウムこそが史上最大のゾウであるとする説も少なくない。たとえば National Geographic はギリシャのクレタ島で見つかったデイノテリウムの頭骨を語るにあたり、地球上に現れた最大の陸棲哺乳類の一つとしている。
 ブルガリアの古生物博物館(1992年開設)には高さ4.6m、長さ6.8mのほぼ完全な組立骨格がある。1965年に D. Kovatchev によって Ezerovo で発掘されたもので同博物館の名物になっている。600−800万年前のもので推定体重は10tという。

ルーマニアの国立博物館にも高さ4.5mのデイノテリウムが展示されている。 Moldavia で発見されたもので、この種の骨格としては世界で最も完全な標本であるという(右はアメリカ・マストドン)。



これも1965年にブルガリアで見つかった Deinotherium thraciensis の骨格(giganteum と同一ともいう)。
 高さ4.2m、長さ7m。骨は70%以上完全。※Wikipedia の Asier Larramendi さんから知らせていただきました。

 やや内側にカーブした下顎の牙はどんな役目をはたしていたのだろうか? デイノテリウム科は2000万年以上も生存していたので、繁栄したグループだったといえるが風変わりな牙の用途はまだよくわかっていない。森林に棲んでいたデイノテリウムは、この牙を使って樹皮を剥いで食べていたのかもしれない。あるいは木の葉を食べる時に枝を折り曲げるのに使ったとも云われる。
 この牙を鍬のように使って地面を掘り起こし、木の根を食べていたのかもしれないとの説もあるが、それでは牙の向きがおかしい。牙の構造はゾウよりもカバに似ていて強靱であり、かなり硬いものでも削り取ることができたようだ。


 変わった牙を持っていたという点ではこのゾウこそが一番だろう。鮮新世(600〜1100万年前)のモンゴルに棲んでいたプラティベロドンは体長2.6m、肩高1.7mくらいの小型のゾウだったが、非常に長い頭骨を持っていた。下顎はシャベルのように幅広く、先端は2本の牙となっている。この牙まで含めた頭骨の長さは1.8mもある。
 プラティベロドンはゾウの長い鼻は持っていなかったが顎は上下とも巨大だった。おそらく水辺にすみ、下顎の牙をシャベルのように使って草根類を掘り起こして食べていたようだ。
 長鼻類の研究で有名なオズボーンが、中央アジアを探検した1929年にモンゴルの Tung Gur 層で発見したもので、ニューヨーク自然史博物館に骨格が展示されている。正面から見るとかなりグロテスクだ。

 プラティベロドンによく似たゾウが、鮮新世の北アメリカにも棲んでいた。これはアメベロドンと呼ばれ、1927年にネブラスカで発見された。プラティベロドンよりだいぶ大きく、体長4m、肩高3mくらいになった。下顎の牙はもっと長く、シャベル状はより顕著だった。

 古い型のゾウ、マストドン類のうち、シャベル状の牙を持ったゾウはプラティベロドンに始まるが、その主要な展開は北アメリカで起こった。このグループに共通した特徴は、下顎と牙が鍬またはスコップのような構造をなしていたことで、明らかに土を掘るために使用された。
 この特徴にはいくつかのバリエーションがあり、グナタペロドン Gnathabelodon になると下顎の牙がなくなり、下顎自体が非常に長く伸びてスプーンのような形をしている。これはたぶん軟らかい泥を掘るために使用された。そしてプラティベロドンやアメベロドンはもっと硬い土を掘っていたと考えられる。

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