今からおよそ3000万年ほど昔の新生代第三紀漸新世、ユーラシアや北アメリカにはネコに似た、大きな牙を持つ肉食獣が栄えていた。これらの動物は、見かけが似ているところから似非サーベルネコ False Saber Toothed Cat と呼ばれる。


Eusmilus cerebralis

 ユースミルスは最初ヨーロッパ(フランス)に現れ、その後西へ分布を拡げて北アメリカに進出した。10種ほどが区別されているがこの中には種の鑑定が不明瞭なものや、ホプロフォネウスと混同されているものがある。
 小型種はボブキャット(ヤマネコ)くらいだったが、大型種では尾も含めて全長2.4m、ジャガーほどはあった。胴が長く四肢が短めだった。大型のものでは牙は18cmに達した。
 下顎には下向きに突起があり、口を閉じた時に長大な牙を納める鞘となっていた。それによって牙を保護すると共に、自分自身や仲間を傷つけない仕組みになっていた。また顎を90度まで開くことができた。また歯数は26でこれはネコ科よりも少ない(現在のネコ科の大半は30で一部は28)。

 額の左側に穴があいたニムラブスの頭骨が北アメリカで発見されている。その穴は同時期に生存していたユースミルスの牙の大きさと一致しており、両者が戦ったと推察される。そしてニムラブスは大きなケガをしながらも致命傷とはならず、半ば治癒していた(クルテン、1971)。

 漸新世から中新世にかけて(2000〜3000万年前)、ヨーロッパや北アメリカに棲んでいて5種を数えるニムラブスは False Saber Toothed Cat の主要な一員だが牙は他のメンバーのようには大きくはなく、今のネコ科のそれと変わらず、それを咬むのに使い、サーベル牙を持つものたちのように突き刺す使い方はしなかった(クルテン、1971)。
 ニムラブスは体が細く、どちらかといえばイヌに近い足をしていたが、爪は薄く鋭く、それをある程度は(ネコ科ほどではないが)隠すことができたようだ(R. J. G. Savage, 1988)。
 合衆国のカリフォルニア、ダコタ、オレゴン、ネブラスカ、それにカナダのサスカチェワンで発見された Nimravus brachyops体長1.2mほどでほぼヒョウ大だったが華奢な体格をしていたので、ジャガーのように逞しかったユースミルスは強敵だっただろう。

 似非サーベルネコは後年のマカイロドゥスやスミロドンなどのいわゆる剣歯トラとは類縁は遠い。剣歯トラはネコ科の動物だが、False Saber Toothed Cat はニムラブス科として区別されている。これにはホプロフォネウス Hoplophoneus、ユースミルス Eusmilus、ニムラブス Nimravus、ディニクチス Dinictis などがあり、いくつかの種は同時代に同じ地域で競合していた。
 もっとも比較的最近までニムラブス類はマカイロドゥスなどの遠い祖先と考えられ、ネコ科に入れられていたが、Alan Turner (1997)は頭骨内部の形状にはニムラブス類を別の科とするに充分な差異が認められるとしている(The Big Cats and Their Fossil Relatives)。R. J. G. Savage(1988)も両者を別の科に分類している(Simon & Schuster Encyclopedia)。


 漸新世の北アメリカにいたホプロフォネウスは8種以上が区別されている。オオヤマネコからヒョウくらいの大きさで(体長1〜1.4m)、もっと頑丈な体格をしており、かなり大きな牙を持っていた。
 鹿間氏(1979)はディニクチスがホプロフォネウスへ進化し、剣歯トラ(原文のまま)のユースミルスに移行したとされている。3者は共通の祖先を持つが、ホプロフォネウスとユースミルスはさらに緊密だったようだ。漸新世後半の新しいタイプのホプロフォネウスはユースミルスとかなり混同されている。

Hoplophoneus sicarius 漸新世中期(3000万年前)にサウスダコタやワイオミングにいた中型種(頭骨の長さ21cm)。ユースミルスの1種とされることもある。

バーバロフェリス Barbourofelis fricki


 ニムラブス科では最も新しく、中新世後期(600〜1500万年前)になってからアメリカやスペイン、トルコなどに現れたバーバロフェリス(3〜9種)は、ニムラブス科では最大でクマのように頑丈な体格をしていた。体長1.6m、牙は24cmに達した。四肢は短めで(肩高65cm)、爪はネコのように引っ込めることができた。Turner(1997)は、当時、北アメリカに多数生息していた半水棲のサイ、テレオケラス(Teleoceras fossiger、体長3m、肩高1.2m)を捕食していたのではないかと考えている。

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