ヤギュウの歴史は更新世前期、約150万年前のヨーロッパから始まっている。その後、分布が東に広がり、体も大きくなり、一部は日本にも到達した。当時は陸続きだったベーリング海峡を渡って北アメリカに侵入してからは、ますます繁栄して大小の角を持った多数の種類が現れた(野生ウシ類でアメリカ大陸まで進出したのは、バイソンだけだ)。

 ステップ・バイソンはイギリスからカムチャツカに至る広大な地域の草原に住み、北アメリカにも進出した。シベリア北部の凍土層からは角の付いた頭骨がよく発見されているし、冷凍死体が見つかったこともある。
 今のバイソンよりも一回り大きく、肩高2m、体長3.5mもあった。しかも胴が太く頑丈で体重は2トンもあったと推定されている(ヴェレシチャーギン、1979)。ステップ・バイソンの角は左右の開きが1.8mもあった。その角の間に4人が楽に座れるほどだった。


 この時代のヤギュウを語る上では必ずその角の大きかったことが強調されている。たとえばヘルシンキ大学の B. クルテン(1971)はジャイアントバイソン Bison latifrons は角の開きが1.8m以上に達したと述べているが、体の大きさには触れていない。現在のアメリカバイソンは最大の角でも左右の開きが90cmであるから、過大な印象を与えかねない。もっともジャイアントバイソンは確かに体も最大級の野生ウシであり肩高2.3mにもなった。

ジャイアント・バイソンは合衆国各地で発掘されており、カナダからも知られている。50万年ほど前に現れ、2万年前までは生存していたと見られる(McDonald, 1981)。ステップバイソンとは違って森林に棲み、あまり大きな群をなすことはなかったという(J. Hoganson)。

 同じ時代、アメリカには別に Bison antiquus という種類もいた。こちらは角があまり大きくないタイプで、またジャイアントバイソンよりは小型だったが、それでもアメリカバイソンよりも大きかった。コロラドで見つかった骨格は肩高2m、体長3.2mもある。推定体重は1トン半という(texnews)。
 このバイソンは少なくとも1万年前まで生存していた。

 ワイオミング Draper 自然史博物館の Charles R. Preston(2000)は当時(更新世後期)のバイソンにはスミロドンやホモテリウム、カリフォルニアライオン、ショートフェイスベアなどの敵がいたという。またダイアウルフの群もバイソンを襲ったと考えている(PointsWest)。
 一方、ヴェレシチャーギン(1979)は、当時1頭だけ離れているおとなのヤギュウを倒せる肉食獣は一つもいなかったと書いているが、はたしてどうだったろう?

 1979年にアラスカのフェアバンクスでカリフォルニア・ライオンに殺されたとおぼしきステップ・バイソンの(ほぼ36000年前のものと思われる)冷凍死体が見つかっている。頭部と後半身には牙や爪による傷も残っており、それは明らかにホモテリウムなどのサーベルタイガーによる咬み痕ではなかった(Alan Turner, 1997)。

Bison antiquus の骨格

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