アメリカ大陸では剣歯トラ・スミロドンが食物連鎖の頂点にいた更新世、メガテリウム Megatherium americanum と呼ばれる巨大な地上性のオオナマケモノが棲息していた。
 更新世は世界の哺乳類が南アメリカに押し寄せ、多数の南米固有の動物を駆逐していったが、貧歯類はほとんど影響を受けず、それどころかむしろ北米に進出していった。
 現在の樹上性ナマケモノはニホンザルくらいの大きさで中南米のジャングルに住み、もっぱら樹上をのんびりと移動する姿がよく知られているが、このオオナマケモノは肩高2m、全長6m、体重3トンもあったので、さすがに木には登れなかった。
 しかし骨組みは頑丈かつ柔軟にできており、尾と後脚で体を支えて上体を起こすことができ、木の枝を鉤爪で引き寄せ、木の葉を長い舌でしごき取って食べていたようだ。
 メガテリウムは前歯がなく、頬の内側に杭のような歯が並んでいるだけである。彼らは栄養価の低い木の葉を大量に食べる必要があった。メガテリウムの頑丈な顎には逞しい筋肉が付いており、口に入れた植物を強く磨り潰して食べることができた(Savage, 1988)


 メガテリウムは1796年、アルゼンチンで初めて発見され、その後ブラジルから中央アメリカ、さらには合衆国東部にまで分布していたことがわかった(北アメリカで見つかったほぼ同大の種はエレモテリウム Eremotherium laurillardi )。大草原パンパスを悠然と闊歩していたことだろう。
 この時代、アメリカ大陸では地上性ナマケモノが繁栄していた。サルくらいの小さなメガロクナス Megalocunus からサイよりも大きかったメガテリウム Megatherium まで多くの種類があり、いずれも長いふさふさとした毛に覆われていたようである。

 当時の南米で最大の陸生動物だったメガテリウムには外敵はほとんどいなかっただろう。同じ時代の南米には体重350kgにもなった最大種のスミロドン Smilodon populator が生息していたので無敵ではなかったかもしれないが。
 メガテリウムは動きは遅かったが守りは堅固だった。手足には大きな鉤爪を持っていた。これで木の葉を引き寄せ、また土を掘り起こしたりしたようだが、戦いの際には前足の鉤爪は強力な武器になったはずである。
 また長い毛の下の皮膚は多数の骨板で補強されていた。これは敵の牙や爪から身を守る鎖帷子の役割をはたしたという(BBC, 2006)。
 パタゴニアの洞窟で見つかったミロドン類の皮膚から無数の小さな骨片があったことがわかっている。このような骨片はメガテリウム科では知られていない(クルテン、1971)。そのため、爪以外に防御器官を持たず多分夜行性で樹林中に隠れていたのかもしれない(鹿間時夫、1979)といわれていた。しかし後年、皮膚や毛の化石も見つかり、メガテリウムにもミロドンと同様な装甲が装備されていたことがわかった。

 糞化石の調査により、メガテリウムは70種以上の植物を食べていたことがわかっている。旱魃時には死肉をあさった可能性もある(BBC)。

 一部の古生物学者はー極端な意見だが−メガテリウムや他の地上性オオナマケモノは、栄養不足を補うサプリメントとして肉食もしたのではないかと考えている。そして死肉をあさるだけでなく、肉食獣からの強奪も行なったという(Prehisitoric wildlife)。
 モンテネグロ大学(ウルグアイ)の Richard Farina はメガテリウムの肘の骨を調べて、腕を素早く動かすことができたことを発見した。これは肉食獣であることを示唆するという。Farina は立ち上がると高さ3.7mのオオナマケモノが、グリプトドンに襲いかかり、それをひっくり返して柔らかい腹部に爪を突き立てたかもしれないと考えている(unmuseum.org)。


 アルゼンチンのパンパス層より完全な骨格が発見されたグロッソテリウムMylodon とも呼ばれる大きな地上性ナマケモノで、300万年前頃に南米から北米に進出した。有名なロサンゼルスの Lancho Labrea からも見つかっている。更新世には北アメリカでも普通に見られたようだ。
 グロッソテリウムは全長3〜4m、肩の高さ1.4m、ウシほどはあった頑丈な動物だった。大きな頭と太くて長い尾をもち、また長い爪は内側に曲がっていて、ゴリラのような歩き方をしていた。少なくとも11000年くらい前まで生存しており、当時の人類とは深い関わりをもっていたようだ。

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