ペルム紀前期の盤竜類から派生した獣弓類は、ペルム紀後期から三畳紀まで−2億6000万年前から2億2000万年前まで−4000万年にわたって繁栄した。一部はジュラ紀まで生き延びていた。一般に哺乳類型爬虫類と呼ばれるのはこのなかまで、後には草食動物となった異歯亜目と肉食を続けた獣歯亜目に分岐した。
 異歯亜目にはまず恐頭類(ディノケファルス)と呼ばれる頭に顕著な特徴を持つグループが登場した。頭に派手な装飾があったり、大きな角を持っていたり、また頭骨が異常にぶ厚くなったりした。この仲間はペルム紀の終焉と共に姿を消したが、遅れて現れた双牙類(ディキノドン)は適応力が高く、ペルム紀末の環境悪化にも耐えて生き延び、三畳紀に入って再び勢いを盛り返した。
 獣型類の歯は分化してゆき、臼歯は咀嚼するために、犬歯すなわち糸切り歯は攻撃や防御に、門歯は咬むためのものになっていった。双牙類では上顎の牙(犬歯)を除いて全ての歯がなくなっていた。顎はおそらく角質の嘴になっていたようだ。

シノカンネメイリア
シノカンネメイリア Sinokannemeyeria yingchiaoensis
 中国産。全長1.8m。福井県立恐竜博物館

カンネメイリア
Kannemeyeria latifrons

 三畳紀初期に南アフリカに棲んでいたカンネメイリアは全長3m、重厚でカバ形、重々しい脚を持っていた。1対の大きな牙はあるが、他には歯はなく、嘴のような口で木の葉や根をすりつぶして食べていた。似た種類はインドやアルゼンチン、オーストラリアでも見つかっており、この時代の大陸が地続きだったこと(ゴンドワナ大陸の存在)を示している。

スタレケリア  Stahlecheria potens

 スタレケリアは全長3m、やはりカバ形で肥厚し重々しい。尾は短く、四肢は重厚で、特に前肢はよく発達する。頭は短く、後頭部が横に広がり、口の先が尖っている。カメか鳥のような嘴。歯はなかった。藻類やサボテンを食べていたと思われる。骨格標本がドイツのチュービンゲン大学にある。
 ディキノドン類の歴史の最後を飾るスタレケリアは三畳紀後期にブラジルに生息していた。

 古生代ペルム紀の終わり−2億4800万年前−地球史上最悪の環境異変を迎える。気候変動により砂漠が拡大する一方で、海岸線が減少した。動植物の生育に適した環境が縮小するにつれて、陸でも海でも生存競争が激しくなり、一説に全生物種の95%が姿を消したとされる(BBC、2006)。

 クルテン(1968)によれば全獣形類のなかで、そしてペルム紀の陸生動物の全てのなかで最大のものは恐頭類 Dinocephalians だというが、その中のどの種であるかは明記していない。
 ペルム紀後期に南アフリカにいたモスコプス Moschops capensis はその有力な候補かもしれない()。
 これも重厚な体格で胴は太く肥満し、四肢は重々しい。肩も腰も大きく頑丈でサイのような生活をしていただろう。頭骨は上から見ると三角形で頭蓋は厚い。草食性で南アフリカに多い多肉植物をむさぼり食べていた(鹿間、1979)。
 全長4mに達し、頭は大きく前額部は極めてぶ厚く、雄同士が頭をぶつけ合って戦ったのかもしれない。

 同じ頃やはり南アフリカにいたジョンケリア Jonkeria vonderbyli も巨大だった。全長4.3m。胴体はモスコプスほどではないがずんぐりと太く、四肢もクマのようだった。頭は細長く、1対の歯が大きく牙となっている。

スクトサウルス  ペルム紀中期、南アフリカに現れたパレイアサウルス類は、その後ユーラシアに広まった。モスコプスなどの恐頭類と似たような生態的地位を得ていたが、獣形類ではなくカメに近いとされる頬竜類 Cotylosausia に分類されているが(古脊椎動物図鑑、1979)定かではないらしい。
 このなかまでペルム紀後期にロシアにいたスクトサウルス Scutosaurus karpinskii は全長2.7m。後にカメの甲羅に進化したともいわれる装甲に覆われた背中、どっしりとした頑丈な四肢、そして頬には数個の大きなイボ状突起があり、しかも全身多数の瘤で被われたかなりグロテスクな姿に復元されている。その恐ろしい外見にもかかわらず、同じ頃ロシアにいたイノストランケヴィアの餌食となっただろうと考えられている。

 ペルム紀後期の恐頭類や遅れて出現した双牙類には中生代の角竜や剣竜に劣らぬほどに武装した大物がいた。また、ペルム紀には獣形類とは別にパレイアサウルスという、ぶ厚い皮膚で堅牢にガードを固めていた怪物もいた。
 当然これらを捕食していた肉食動物も存在していたわけで、ペルム紀後期には当時の剣歯トラともいうべき強靱な肉食動物ゴルゴノプスが現れた。オオカミのようなしなやかな体と長く鋭い歯を持ち、自分よりはるかに大きなパレイアサウルスをしとめることができた。

 ゴルゴノプスはペルム紀後期の代表的な肉食動物だった。気温が高い半砂漠地帯をまっすぐ伸びた脚で活発に行動し、12cmもあった牙で獲物をしとめていた。ゴルゴノプスには3-5種が記載されており、最大種 Gorgonops longifrons では頭骨長35cm、全長2m以上。さしづめ当時のライオンだった。
 ゴルゴノプスは南アフリカ産だがこの仲間(ゴルゴノプス下目)は世界各地に広がっていた。中でもヨーロッパロシアにいたイノストランケヴィア Inostrancevia alexandri は頭骨の長さ45cm、全長3mもあった(一説では4.5mに達したという)。また南アフリカには当時のオオカミともいうべきリカエノプス Lycaenops がいて、Savage(1988)は群をなしてモスコプスのような大型の草食動物を襲ったと考えている。



イノストランケヴィアの頭骨(大阪市立自然史博物館・大恐竜展)

リカエノプス Lycaenops ornatus
 ペルム紀後期に南アフリカにいたリカエノプスは全長1.3mほど。イヌのように見えるが、頭は比較的大きい。均整のとれた哺乳類的な四肢を持ち、快走したと思われる。コルバートはサーベルトラのような捕食生態をしていただろうという。



ペルム紀後期、2億6000万年ほど前にヨーロッパロシアにいたエオティタノスクス Eotitanosuchus olsoni の頭骨。まだ幼体のものとされるが長さ35cmあり、推定全長2m以上。
 成体では頭骨の長さ1mに達したといわれる。そしてロシアの Ocher Province で見つかっている Eotitanosuchus ensifer という種がその成体なのかもしれない。全長6mもあったと推定されている 。
リカエノプス(大阪市立自然史博物館)


 エオティタノスクスの化石は恐頭類のエステメノスクスと共に水辺で見つかっており、泳ぎが巧みでこれらの大型動物を狩っていたと推察される。

 2012年1月、古生代の肉食獣の頭骨化石がブラジル南部のペルム紀中期(2億7000万〜2億6000万年前)の地層から発見された。哺乳類型爬虫類と呼ばれるグループの新属新種に分類された。
 頭骨化石はほぼ完全で、長さは約32cm。上顎から長さ約7cmの鋭い犬歯が突き出ている。ギリシャ語で「殺し屋」を意味する言葉などからパンパフォネウス Pampaphoneus biccai と名付けられた。
 この肉食獣グループは現在のロシアから東欧、南米ブラジルを経て南アフリカに勢力を拡大したと考えられるという。(時事ドットコム)

※ nekoさんから知らせていただきました。

サウルクトヌス Sauroctonus progressus
 これもゴルゴノプスのなかまでペルム紀に東ヨーロッパに生息していた。頭骨の長さ25cm。

 繁栄を誇った獣弓類の大半は三畳紀に絶滅したが、キノドン類だけはジュラ紀まで生き残った。そしてこのグループから最初の哺乳類が登場する。石炭紀の盤竜類に始まる哺乳類型爬虫類の長い歴史はキノドン類で終わりを迎えたが、絶滅の前に最初の哺乳類を産み出していた。
 1949年にイギリスの三畳紀後期の地層から発見されたモルガヌコドン Morganucodon watsoni がそれだ。もっとも恐竜の出現とほぼ同時期だっただけに、哺乳類の時代を迎えるのはそれからさらに1億5000万年も先のことなのだが。


(福井県立恐竜博物館)

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