日本にはヒグマは多数(といっても3000頭くらいだが)いるので、動物園などで飼われているのもたいていエゾヒグマだから、白浜のアドベンチャーワールドでヨーロッパヒグマを見た時は少々驚いた()。富士、群馬などのサファリパークにもいるそうだ。しかし北海道のエゾヒグマと特に違った点はない。
 日本ではヒグマは危険な動物とのイメージが強い。人口密度の高い地域に比較的多くのクマが棲んでいるために事故がしばしば起こるせいだろうが、ヨーロッパではあまり悪い印象はない。童話・民話の世界ではむしろおっとりした存在だ。


 ヨーロッパヒグマでも大きさには地方差があり、雄の体重はピレネー産では145〜210kgくらい、カルパチア産だと250〜320kgほどもある。最大の記録は100年以上も前にウラルで捕獲されたもので全長243cm、体重480kgあった。
 最大の頭骨は1991年にルーマニアで記録されており、長さ422mm、幅254mmだった。(www.trophyhunt.ru)

412kgブランデンベルグ
360kgKarachev County 内臓を取り出してからの計量
実際の体重は415kg以上あっただろう。
360kgノルウェー
335kgVesegonsk
290kgL. E. Vinnitskii が射殺した約800頭の内で最大の雄(雌の最大は176kg)
261kg中央ロシアでの717頭の内で最大の雄
208kgM. V. Andreeskii が26年の間に射殺した82頭の内で最大

 ヨーロッパではヒグマは早くから人類に圧迫を受け、生息域はきわめて狭くなってしまった。イギリスではスコットランドに1057年までヒグマがいたらしい。ドイツでは1838年に絶滅したとされている。

 ロシアを除くとヨーロッパでヒグマがまだ生存しているのは、東側ではカルパチア山脈、バルカン山地、ピンドス山地などに約6000頭、西側ではピレネー山脈やカンタブリア山脈に200頭以下、中央部ではイタリアのアルプスやアブルゾ国立公園に100頭以下といわれる。

 北欧ではフィンランドに1300頭、スウェーデンに400頭いるが、ノルウェーでは絶滅寸前である。ヨーロッパロシア(ウラル山脈以西)にはまだ2万頭以上いるようだ。


シリアグマ

 コーカサスからシリア、トルコ、イラク、イランにかけての山岳地帯に住み、ヒグマのなかで最も小さいといわれる。明るい毛色をしたものが多いので Yellow Bear ともいう。
 シリアグマは大きな雄で体長1.8m、体重180kgくらいといわれるのでエゾヒグマと比べてもだいぶ小さい。コーカサス西部産の頭骨1点は292mm。
 しかし www.trophyhunt.ru によれば1989年にトルコで頭骨全長406mm(幅254mm)の記録があるという。

 2016年12月にレバノンの Bekaa Valley でシリアグマの親子がハイキングしていたグループによって撮影されている。レバノンでのシリアグマの目撃は1958年以来で、すでに絶滅したと考えられていた(Independent)。
 この亜種名を冠しているシリアでも絶滅したといわれていたが、2004年に、ほぼ50年ぶりに見つかっている(IUCN)。



イラン北部のクルド人自治区ドホーク近郊で、個人に飼育されていたヒグマが地元のNGO によって救出され、クルド人兵士たちが見守る中、野生へと放たれた(AFPBB)。


2014年、イスラエルの Ramat Gan 動物園で腰痛の治療を受けるシリアグマ(19歳、250kg)。痛みのために歩くのが遅くなり、起き上がることさえ嫌がるようになった。椎間板ヘルニアの手術はうまくいったようである(Haaretz)。

ウマグマ Tibet Horse Bear

 中国の奥地にはかつては別の種とされたこともあるウマグマがいる。ウマに付ける鞍のような形をした黄色い毛が肩に生えいているためこう呼ばれる。またオオツキノワグマともいう。
 体の割に頭が大きいのと毛が長いので大きく見えるがカンスー省産の雄では全長158cm、肩高102cm、体重110kg(Rowland Ward, 1914)しかない。もっとも王子動物園で飼われている個体()はこれよりもっと大きいようだ。王子動物園ではクマのストレスを避けるために、檻の前に木を植えている。そのためあまり常同行動(檻の中を行ったり来たりすること)をしないという。



 ウマグマ(Blue Bear とも呼ばれる)は非常に稀でその生態もよくわかっていないが、一方で Yeti(雪男)の有力な正体としてはよく知られている。1960年にイギリスの Edmund Hillary 卿が持ち帰った毛(現地人がYeti の毛だと認めた)がウマグマの毛だと確認されたからだ。
 Yeti が目撃されている高山の雪に覆われた山頂付近をウマグマが棲家としているわけではない。しかし厳しい環境に棲むクマは行動圏が広い。高山帯の草類を食べるため、ヒマラヤでは夏には6000mの高地にまで上ってくる。

 中国では年間1500人 !? がウマグマによって殺されているという。襲われたほとんどが、チベット高原を新たに耕している農民だ。中国では銃器の使用が認められていないので、大きなクマとの接触、争いとなるとたいていの場合、クマが勝利する(ハート&サスマン、2005)。

カシミールヒグマ Snow Bear

 Tien Shan Brown Bear チベットからヒマラヤを経てアフガニスタンまで万年雪の残る山岳地帯に住んでいる。クリーム色の下毛に灰色がかった長い毛を持つ。これも雪男の正体の有力な候補とされている。
 カシミールで全長234cmの測定例があるので上の2亜種よりも大きい。また Shaw-Stewart 大尉がカシミールで撃った小柄な雄(毛皮の長さ224cm)の頭骨は345mm。

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