更新世(300−1万年前)のホモテリウムは、体長2m、肩高1.1m。ライオンくらいの大きさで、スミロドンやマカイロドスがサーベルタイガー Saber-toothed cat と呼ばれるのに対し、ホモテリウムはシミタールキャット Scimitar-toothed Cat と呼ばれる。薄い研ぎ澄まされた半月形の牙は獲物を切り裂く方へと進化し、後側は鋭い刃となっている。

 ヨーロッパとアジア、アフリカに広く分布していて、多くの種が区別されている。フランスで発掘された頭骨は基底全長302mm(Turner, 1997)で、インドライオン(299−313mm)とほぼ同大だった。中国では基底全長234mmの頭骨が見つかっており、これはキタペルシャヒョウ(185−223mm)よりいくらか大きい程度だ。しかしこれらを個体差、年齢差と見てユーラシア産すべてを同一種 H. latidens とする説もある。
 また北アメリカからも発見されている(H. serum )。化石はそう多くはなく、またたいていは断片的なようだが、テキサスの Friesenhahn Cave から保存状態の良好な標本が見つかっており、しかもそこからはさらに30体以上の子供を含む様々な年齢層の骨が一緒に発見されている。

ホモテリウム from Venezuela

南米にもホモテリウムが

 ベネズエラからホモテリウムの化石が見つかったことが、2008年の8月に発表された。2006年にモナガス州で石油探査を行っていた際に発見された。ともにヒョウやオオカミ、ラクダ、コンドル、アヒル、ウマなどの化石も出土し、すべて約180万年前のものだと推定された。ホモテリウムの6頭分の化石のうち一つの頭蓋骨は完全な状態だという。ホモテリウムが南米まで分布していたことがこの発見により明らかとなった(AFPBB)。
※ 上田さんより知らせていただきました。

 イギリスとヨーロッパ大陸の間の北海から、ホモテリウム Homotherium crenatidens の骨の一部が発見されている。Wilrie van Logchem と Dick Mol(2009)によれば、漁船の乗組員が海底から引き上げたのは左上腕骨の末梢部で、更新世初期(260−85万年ほど前)のもので、1963年にフランスで発掘されたホモテリウムの全身骨格(リヨンの ClaudeBernard 大学所蔵)と比較すると、北海産の上腕骨は著しく大きく体重400kgもあっただろうという。もっとも四肢の骨からの体重の推定には大きな誤差(範囲)が避けられないので即断は禁物だろう。

 
 ホモテリウムは、先祖筋に当たるマカイロドゥスと比べると胴が短めで、尾も短く、前脚が後脚よりも長い。ハイエナのように体の前方から後方にかけて傾斜した体型である。
 クルテン(1971)による復元では、前脚が長い上に後脚は短くて蹠行性だったので、奇妙な半直立姿勢をとっていた(右)。
 しかし Turner(1997)は今のライオンに似た前脚のよく発達した姿勢としている(下)。

 テキサスの Friesenhahn Cave からはホモテリウムの数頭の成獣と幼獣の遺骨と共に、70頭分以上に相当するマンモス(幼獣−ほとんどが2歳)の骨も見つかっている。ホモテリウムがマンモスの子を捕食したことはほぼ確実だが、しかし洞穴まで運ぶことができたのか? との疑問が残る。四肢の骨が多かったのならこれらを噛みちぎって運んだと考えられるが。現在のハイエナやジャッカルは、どこか他の場所で食べるか、子供に食べさせるかどちらかの目的で、獲物の断片を運んでいくが、こういうことはライオンはまずしない(B. バートラム)。
 2歳といえどもゾウ、体重は少なくとも600kg以上あったはずだ。もしホモテリウムが群をなしていたのなら、狩りをした成獣が食べた後、残りを子供たちが待つ洞穴に運んだと考えることはできる。現在のライオンやトラは、必要な時には獲物を丸ごと(あるいは一度食べた後)運ぶことはある。獲物の首をくわえて、前脚の間に引きずって前進する。とても重ければ後ずさりで引きずっていく。しかし運ぶ距離はせいぜい数百メートルである。


 北アメリカではスミロドンと比べると数は少なかったようだが、だからといって彼らが種として成功しなかったとはいえない。ヨーロッパでは3万年前、北アメリカでは14000年前まで生き延びていたという生存年数の長さはむしろ繁栄したことをを示している。またベネズエラからの発見により、ホモテリウムの分布は、マカイロドゥスとスミロドンの双方のエリアをカバーしていたことになり、剣歯ネコの中では最も広汎な地域に生息していたといえるだろう。
 ホモテリウムは北方や標高の高い地域を好んで、スミロドンと棲み分けていたのかもしれない。寒冷な気候に適応するために冬毛は長く厚かったと考えられる。

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