ブラジル南部のマット・グロッソ。ある日系人がウマを木につないで川へ降りていった。男が立ち去ると近くに潜んでいたジャガーがウマに上から襲いかかった。首筋に咬みつき、自分の体を激しく捻る。すると凄い力が生じ、頑丈なウマの頸骨が折れてしまった。
 ウマをつないでいた手綱を咬みきると、ジャガーはウマの首を咬み、逞しい頭を持ち上げ、どっしりした脚を踏みしめてずるずると運び去った。ジャガーの体格を考えると驚くべき力である。
 当の日系人が近在の人の協力を得て捜索し、やっと見つけたウマは後頭部を咬み裂かれ、太い頸骨が折れ、脚も1本折れていた(実吉達郎、1964)。

 ラトヴィアの冒険家、Sasha Siemel は1923年からほぼ30年にわたって、ブラジルのマット・グロッソでジャガー狩りをおこなった。彼は200頭以上のジャガーを殺したと伝えられるが、彼を有名にしたのはそのうち30頭以上を槍でしとめたからだ。
 彼が使った槍は柄の部分が長さ1.8mほどで、それに約30cmの刃が付いていた。刃の根本付近には深く刺さり過ぎるのを防ぐために十字型になるよう横棒が渡してあった。
 Siemel が地元のインディアンから習った槍術は強靱な意志と体力を要求した。
 大事なことはジャガーの注意をそれを持った人ではなく、槍に向けることだった。柄の端のあたりを持って槍を構え、高くかざした槍にジャガーを飛びつかせた瞬間、槍を大きく振り回してジャガーを地面に串刺しにするのだという。追いつめられたジャガーがいつ攻撃してくるか、そのタイミングを的確に捉えることが正否を左右する。

 Hans Krieg(1939)はパラグアイでは世界最大の齧歯類、カピバラ(体重50kg)がジャガーの好む獲物だといっている。カピバラのごく近くまで接近したジャガーは、1回か2回のジャンプで飛びつき、地面に抑えつけ、牙で喉を引き裂く。

 ジャガーはバク、ハナグマ、サル、ウサギ、ナマケモノそれにカメや大型の鳥、魚などいろいろな食物をとる。地域によってはシカやペッカリー、アルマジロが大きな比重を占めている。
 家畜を襲うこともある。大型獣が少ないので力をもてあましたジャガーがウシやウマを殺すのだ!? とさえ言われたことがある。
 ライオンやトラは獲物の首筋や喉に咬みついて殺すことが多いが、ジャガーにはそれに加えて他の大型ネコ類には見られない第3の攻撃法がある。獲物の頭、両耳の間に牙を突き刺すのだ。
 カピバラの死骸にはしばしば頭骨を貫いて脳に達する咬み跡が見られるし、ジャガーに殺されたウシやウマの頭骨にさえ穴があいていたことがある(Sunquist, 2002)。


 ジャガー(左)はヒョウ(右)に似ているが、もっと大型でより頑丈な体格をしており、頭が大きく肢が太く尾はかなり短い。斑紋も大きく、その中に斑点がある。南米(スペイン語圏)ではアメリカトラ el Tigre Americano、ブラジルではオンサ onca と呼ばれる(リンネは1758年にジャガーを Felis onca と命名している。彼はブラジルでのジャガーの呼び名を知っていたのだろう)アリゾナからアルゼンチン北部まで分布し、南のものほど大型だといわれる。

 ジャガーは同名の車とは違ってあまり格好がよくない。ネコ科でまったく不恰好だといえる種は一つもないが、ジャガーはそれに近い。頭が大きく、胴は酒樽みたいで、尾は体に比べて短すぎる。歩く時はせかせかと体をくねらせる。ずいぶんな言われようだが Michael Boorer(1970)の主観と理解しよう。
 確かにジャガーにはヒョウのような優美さはない。しかし逞しい。牙でさえ太く頑丈で咬む力は他の大型ネコをしのいでいる(Sunquist,2002)。


全長(cm)尾長(cm)体重(kg)備 考
24267132ブラジル
23464121ベネズエラ
233120ベネズエラ
2256880ベネズエラ
21661104ベネズエラ
2146196ベネズエラ
21255119ブラジル
2116493ブラジル
20862105ブラジル
2085893ブラジル
2006396ベネズエラ

 Rowland Ward(1914)が挙げている特に大きな2頭は全長282cm、253cmもあった。また、Sasha Siemel がしとめた最大のジャガーは158kgだった。
 アメリカ自然史博物館の Hall と Kelson によれば:
 雄(6) 全長173〜242cm(尾は52〜67cm) 雌(5) 全長157〜219cm(尾は43〜60cm)
 Hoogesteijn と Mondolfi(1996)によれば:
ベネズエラ産
 雄(16)体長126〜170cm(平均157cm)、尾長60〜80cm(平均68cm)、体重(26)68〜121kg(平均105kg)
 雌(12)体長116〜147cm(平均130cm)、尾長50〜67cm(平均62cm)、体重(31)51〜100kg(平均 67kg)
ブラジル・パンタナル産
 雄(11)体長120〜164cm(平均140cm)、尾長55〜66cm(平均62cm)、体重(36)71〜119kg(平均96kg)
 雌( 7) 体長127〜142cm(平均134cm)、尾長49〜61cm(平均55cm)、体重(22)64〜 93kg(平均77kg)
 シートン(1925)によるとメキシコ産の大きな雄で体長146cm、尾長53cm、肩高71cm、体重80kg(健康体ではなかったという)。Jack O'Connor(1961)がメキシコで撃った雄は平均体重55kg、最大でも75kgにすぎなかった。


 2013年11月26日、神戸の王子動物園で2頭のジャガーの子(雄と雌)が誕生した。どちらも両親と同じ黒いジャガーだ(王子動物園)。ジャガーだけあって子供のうちからどっしりした感じで頭も大きめである。今年3月から限定公開されている。
※ ニュースと写真(上)はロブ君さんから提供していただきました。

 2016年7月、王子動物園のジャガーの雌が死亡した。6歳だった。2013年に生まれた2頭の子は2014年の7月と11月にそれぞれ別の動物園に転出しているため、今はやはり6歳の雄1頭だけになってしまった(神戸新聞)。

 黒いジャガーは、クロヒョウと同じく毛色が黒いだけで他には通常のジャガーと変わらない。現地ブラジルでは黒いジャガーは普通のジャガーより気が荒いといわれている(実吉達郎、1967)そうだが、クロヒョウ同様見かけから来る印象だろう。
 ひとつの地域のジャガーはお互いに血縁が近く、よく似ている傾向がある。黒いジャガーはアマゾンで多く見られるといわれる。またある時期にはコスタリカの一部で特に多いという報告があった。



 ジョン・オーデュポンは1845年ごろ、テキサスのサン・アントニオに滞在していて、あるとき、ムスタング(野生化したウマ)を食べているジャガーを目撃した。そして8〜10頭のオオカミがジャガーを取り巻いていた。オオカミたちはあえてジャガーの邪魔をしようとはせず、近づこうともしなかった。
 この後警備隊がジャガーを射殺したために(なんで撃つんだ?)興味深い展開には至らなかったのだが、今日、テキサスではジャガーは絶滅し、オオカミもそれに近い状態にあるだけに両者の対峙は今後見られないだろうからまことにもったいない話だ。この時代、ジャガーはオオカミと並んで牧場のウシを減らしてしまう害獣だったのだが。


 ジャガーがアメリカ合衆国内で見られなくなって随分と経過しているようだ。1855年にはロサンゼルス北方の山地で1頭の子供を連れたつがいのジャガーが目撃されている。そして1860年にパーム・スプリングスで殺されたジャガーがカリフォルニアでの最後の記録となった。
 ニューメキシコでは1910年頃が最後といわれる。1946年にテキサスで、1949年にはアリゾナで最後の記録が残されている。アリゾナではその後もメキシコから放浪してくるジャガーはいたことだろう。1971年や1986年、さらには1996年にもアリゾナで捕獲された記録があるが、これらは定住者ではなかったと考えられる。

 更新世には北アメリカに大型のライオン Panthera atrox が生息していたが、ジャガー(もしくはその祖先)もベーリングを越えてアジアから北アメリカに入ってきた。そして現存種のジャガーの亜種とされる Panthera onca augusta の化石はフロリダやテキサス、テネシーなどライオンが少なかった地域で多く発見されている(Turner, 1997)。
 更新世のジャガー P. o. augusta は今のジャガー(の最大亜種−ブラジル南部産)より15-20%ほど大きかった(Garcia, 2006)。トラほどもあったわけだ。
 アメリカ自然史博物館(ニューヨーク)の George Gaylord Simpson(1941)は Panthera atrox をライオンよりもジャガーに近いとして Giant Jaguar と呼んでいる。この説を Guggisberg (1975) も支持しているが、他では採り上げられていないようである。

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