Turnbull-Kemp(1967)は大きな雄のヒョウが全力で走りながら幅6.7mほどの峡谷を飛び越えるのを見ている。また小柄な雌が高さ3.4mの樹上に飛び上がるのも見た。この時ヒョウは高さ2.4mほどの所にいったん足をかけ、一瞬の後体を引き上げたのだった。彼は別のヒョウが高さ7mほどの所から飛び降りて、反対側の土手(高さ3m)に飛び上がるところも見た。
Turnbull-Kemp はヒョウが獲物を追う時のスピードは時速64kmに達すると考えている。
ジャック・D・スコット(1966)はヒョウが猛獣の中で最も利口であると確信できる機会を得たことがある。彼は毎日5、6時間も双眼鏡を手にしてインドのジャングルに囲まれた草深い空き地の近くで待っていた。時々白い斑点のあるアクシスシカがそこへ草を食べにやってきていた。
ある日、ヒョウがまるで仔猫のように自分の尾と戯れながら地面を転がり回っている光景がスコットの目に入った。好奇心の強い3頭のシカがじゃれている動物を検分しに近づいてきた。そのうちの1頭が射程範囲に入った時、ヒョウは地面から離れたと思う間もなくそのシカの背に飛び乗ったのだった。
ある時バートラムはシママングースが勇敢にもヒョウに抵抗するのを見た。マングースは灌木の根元から、遙かに大きなヒョウの鼻や前足に鋭い歯で突進し、つかみかかろうとするヒョウを相手に30分も持ちこたえた。ヒョウは咬まれて痛い思いをしてまで捕らえなければならないほどの相手でもないと判断したのか、ついには諦めてしまった。
ヒョウは野良犬を捕獲するために村の中をうろつくことがあり、更に家の中に入って、飼われているイヌや、人間の子供をさらうことがある。
インドのある村で、両親の間に寝ていた幼児がヒョウにさらわれたという。父親と母親は全く気が付かなかった。この悲劇以来、村では、昼間は人間で夜はヒョウに変身する妖怪がいると信じ始めた(サンカラ,1977)。
ヒョウは捕らえた獲物をよく木に引き上げる。これは他の大型の肉食獣、つまりライオンやハイエナから横取りされないようにだ。アフリカのサバンナではこの習性がよく見られるが、どこでもというわけではないらしい。競合する肉食獣が少ない地域ではあまりやらないようだ。
ガゼルやリードバックなどの小型のレイヨウ、時にはもっと大きな動物さえ木に運ぶ。スティーブンソン=ハミルトンはクルーガー公園でキリンの子供(推定90kg)が高さ3.6mほどの樹上に載せられていたことを保護区の監視員から聞いた。スーダンでは一人の兵士が木の枝からぶら下がっていた。半分ほど食べられて。
樹上でヒョウは何度かインターバルを取りながら食事を繰り返すが、この間ヒョウは死体を移動することがある。同じ木のより高い所に運んだり、低い所におろしたりする。その理由はよくわからない。また獲物を別の木に移すこともある。これもかなりの大仕事なのだが理由はわからない。
バートラム(1984)は雌のヒョウが雄のインパラを殺してその場で食べるのを見ている。獲物が大きすぎて樹上に運べなかったと彼は考えた。そして2、3時間食べた後に2頭のハイエナに横取りされてしまった。
ずいぶん前のことだが、テレビの記録フィルムでヒョウがレイヨウを殺して木に運ぶシーンがあった。ところがうっかりと落としてしまった。直後、待ってましたとばかり1頭のハイエナがやってきてレイヨウを持ち去ってしまった。狩で疲れていたのか、ヒョウはその後を追いかけようとはしなかった。
雌のヒョウがインパラを捕らえた時、1頭のハイエナが横取りに来た。獲物をひったくろうとしたハイエナに、ヒョウは爪を立て、首筋に咬みついた。並ぶ者なき強力な顎を持つハイエナもすぐには引き下がらない。しかも当のヒョウよりかなり大きかった。
2頭は小さな獲物を奪い合うライオンのように激しく争ったが、ついにヒョウがインパラを守り通し、ハイエナを退けた(Jonathan Scott, 1985)。
2頭以上のハイエナがヒョウを追い払って獲物を奪うことはしばしばあるが、1頭のブチハイエナがヒョウから強奪を試みることは珍しい。
←1頭のヒョウが、チーターの親子から殺したばかりの獲物を奪う(Taylor, 1999)
ヒョウは他の肉食獣を獲物とすることがある。1957〜1965年のセレンゲティにおける観察ではチータやジャッカルが餌食になっていた。1966〜1969年ではジャッカルとオオミミギツネ、サーバルが含まれていた(Guggisberg,1975)。
バートラムの観察でもチータ、ハイエナ、リカオン、ジャッカル、サーバル、ニシキヘビなどが入っている。しかも彼は、記録した比較的少数のヒョウの獲物の中で重要な役割を果たしていたと書いている。
インドではヒョウはドールを獲物にすることもある。Singh(1973)は一度、ヒョウが群から離れたドールを殺して樹上に引き揚げるところを目撃している。
クルーガー国立公園で4頭のリカオンがヒョウから殺したばかりの獲物を奪った。しかしいったんは逃げたヒョウが突然戻ってきて食べ始めていたリカオンに突進し、自分が殺したインパラを奪い返すとそれをくわえてすぐさま近くの木に登ってしまった。(Turnbull-Kemp, 1967)
バリ島のヒョウ
ヒョウはマレー半島およびジャワ島にも分布している。またジャワ東方のカンゲアン諸島にもいるといわれる。しかしスマトラ島からは見つかっていない。スマトラはいわばマレー半島とジャワとの架け橋であるのに、ヒョウがいたという痕跡さえないのは謎である(Hanak and Mazak,1979)。
Guggisberg(1975)もスマトラにヒョウがいないことは理解しがたいといっている。そして彼は、ヒョウがカンゲアン諸島に到達していながらバリ島にいないことも同様に謎だとしている。しかしバリ島にもヒョウが生息しているとの報告がある。
1975年、インドネシア自然保護局の二人の監視官が Prapat Agung 地域でクロヒョウを目撃していた。1979年には動物学者がバリ島北部の干上がった川床で新しい足跡を見つけている。夜にはヒョウの吼え声も聞かれた。
同じ年、北部の山間部を調査していた学者の一団が、半年から1年半くらい前のものと思しき爪痕を木の幹から見つけた。この爪に一致するのはトラしかいない、つまりバリトラがまだ生き残っていると彼らは考えた。ヒョウの可能性は考慮されなかった。バリ島にはヒョウはいないことになっていたからだ。
↑フィンランドのエンジニア、Hannu Soini がバリ・サファリパークで昼寝中のジャワヒョウを撮影(MailOnline)。
ヒョウはアフリカとアジア中南部に広く分布する。地理的に広汎なだけでなく、適応力も強く、半砂漠や高山から熱帯降雨林までさまざまな環境に生息している。体の大きさにも変化が著しいが、クルーガー国立公園産の雄8頭の平均で、体長137cm、尾長79cm、体重61kg。雌11頭は、体長122cm、尾長77cm、体重37kg。また Meinertzhagen(1938)がケニヤで計量した雄6頭は60〜65kg、雌3頭は44〜58kgだった。
以下は雌の測定例
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↑タンザニアで Marrs Bowman がしとめた大きなヒョウ。全長282cm、体重86kg。頭骨(長さ+幅)445mm。
体重で最大のヒョウは、ナミビアで麻酔銃で生け捕りにされた雄で96kgあった(Taylor, 1999)。 ジンバブエで2003年に体重100kgのヒョウが撃ち取られたという。 Rowland Ward に掲載されている最大の頭骨は長さ291mm、幅184mm(チャド)、長さ286mm、幅181mm(ガブーン)など。 |