一応はまともに飛翔できる鳥類の中で、体が最も重いのはオオノガンのなかまである。見たところ首と脚が長く背の高いこれらの鳥が、ハクチョウやペリカンよりも重量があるとは思えないかもしれない。しかしオオノガンの中には飛行できる鳥として限界に近い体重のものがいる。

 ツル目ノガン科には23種ほどあるがその内5種は大型でオオノガンと呼ばれる。代表的なのは、ヨーロッパや中央アジア、それに東アジアに分布するオオノガン Great Bustard で雄は全長1.2m、翼を拡げた時の差し渡しは2m以上になる。雌はやや小さい。草原や砂漠に群をなして棲み、しばしば地上生になったツルと呼ばれる。
 東シベリアや中国東北部で繁殖する亜種が迷鳥として稀に日本にも渡来することがあり、北海道・本州・九州で見つかっている。
 雄の体重は普通11−16kgほどある。最大のものは21kgもあったが(満州産)、この鳥は飛べなかったかもしれない(Carwardine, 1995)。
 アラビアオオノガン Great Arabian Bustard もオオノガンに近い大きさで、イラク産の雄19羽の平均体重は11kg、最大のものは16.8kgあった。また雌18羽の平均は7.7kgだった(Meinertzhagen, 1954)。
 インドオオノガン Great Indian Bustard には18kgに達するものがあったといわれる。現在は著しく数が減少し生息数は700羽以下と見積もられている(birding.in)。国際保護鳥となっているインドオオノガンだが、1809−1830年にはボンベイ近くのアーマドナガルで961羽が捕獲された。その体重は雄で8−14.5kg、雌はその半分くらいだった(Oriental Sporting Magazine 1830)。
 オオノガンの雄は繁殖期になると独特のディスプレイをおこなう()。
 喉にある空気袋で首を膨らませ、頭を背の方に引き、長い顎の羽を跳ね上がらせ、翼角を左右に垂らし、その下面の白い羽を表面に展開する。この間僅か数秒で、突如としてこの姿勢をとり、また元に戻る。そして奇妙な声を発するという。


 オオノガンは広大な生息地を必要とするので、草原や耕地の開拓が進むと生活環境が失われてしまう。インドオオノガンだけでなく、ヨーロッパでも各地で絶滅し、現在ではイベリア半島や東ヨーロッパに少数が残存するだけになっている。イギリスでは繁殖は1832年が最後といわれ、その後は迷鳥としてときおり飛来する程度になっていたが、1975年にポルトガルから11羽を輸入し、復活の試みが始まった。2007年には野生の雌が営巣しているのが初めて確認されている(AFPBBNews )。

 オオノガンのなかまでも最大の種は、東と南のアフリカに分布するアフリカオオノガン Kori Bustard で、Carl Schneritz が1899年にトランスバールで撃ったものは、全長1.4m、翼開長2.7m、体重16.8kgあった。またダーバン博物館の一行は、1959年に南アフリカで15.9kgの個体を採集している(Wood, 1982)。
 William Baldwin がトランスバールで撃ったものは翼開長2.5mもあり、彼はその体重を24.5kgと推定している。Wood(1972)はいささか過大な見積もりではないかと疑っているが。
 確かな記録として受け容れられているのは、H. T. Glynn が南アフリカで記録した18kgでこの鳥の頭部がロンドンの大英博物館に保存されているという。

 アフリカオオノガンは夏の間にアカシアの木から流れる高カロリーの甘い樹液を貪り非常に太る。背中の皮下脂肪はほとんど1インチ(25mm)の厚さに達する。地上ではかなりのスピードで走れるが、飛ぶことには消極的で、危険を感じた時に短い距離を飛ぶだけである。
 体の重いこの鳥が飛び立つためにはかなりの助走が必要である。その飛翔は力強いがゆっくりとしており、あまり高いところまで上昇することはない(通常オオノガン類は地上から10−50mの高さを飛ぶ)。

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