ティランノサウルスよりも大きかった?

 史上最大の肉食恐竜として定着した観がある白亜紀(9500万年前)のギガノトサウルスは1993年にアマチュアの収集家、Ruben carolini によってアルゼンチンのネウケン盆地で発見された。見つかったのは頭骨や、大腿骨、骨盤、肩甲骨、一連の尾骨など全身の約50%だが、その後の発掘によりさらに大きな顎の骨なども見つかっている。ティランノサウルスの最大の標本(全長12.5m、頭骨の長さ1.5m)よりも大きく、全長12.2−13.2m、体重は6−8tと推定された。1995年に Giganotosaurus carolini として正式に命名されている。
 発見当初から史上最大の陸棲肉食動物として盛んに喧伝されただけでなく、早くも1998年には全身骨格が完成しフィラデルフィア自然科学アカデミー博物館に登場した。


ギガノトサウルスの組立骨格(レプリカ)−大阪自然史博物館・大恐竜展


 ギガノトサウルスの頭骨は1.8mもある(後から見つかった別の顎の骨はさらに8%ほど大きい)。しかし金子隆一氏(2002)によるとギガノトサウルスの頭蓋骨は水増しされている可能性が高いという。
 眼窩の後ろにある外側頭窓と呼ばれる開口部が不自然に大きく、それで頭骨全体が長くなっているように感じられる。頭骨は完全な状態で出土したのではなく、ばらばらだったものを復元したのだが、その時手心が加えられているようだという(発見された当時は約1.5mといわれていた)。


 ティランノサウルス(左)とギガノトサウルス(右)の頭骨。横からだとあまり差はないが、正面から見ると幅がだいぶ違う(メガ恐竜展2017)。


 ギガノトサウルスの後脚は、脛の骨と大腿骨がほぼ同じ長さである。走るのはあまり得意でなかっただろう。それ故、動きの速くない大型のティタノサウルス類を捕食していたと考えられる(Dougal Dixon, 2007)。
 一般に巨大な竜脚類がいるところには、巨大な獣脚類が現れた。お互いにその大きさを競うようにして、巨大化していったと考えられる(ニュートン・ビジュアル恐竜事典)。ギガノトサウルスがアルゼンティノサウルスを襲ったかどうかはわからないが、同じ地域に棲んでいたのなら少なくとも幼体は捕食しただろう。

ティランノサウルス(上)とギガノトサウルス(下)の歯の比較(冨田幸光「恐竜たちの地球」)

 ギガノトサウルスの歯は、頑丈で厚いティランノサウルスの歯に比べ、薄くて鋭い。ティランノサウルスが骨も噛み砕く大きな歯を持っていたのに対し、ギガノトサウルスは獲物を切り裂くタイプだった。ティランノサウルスはしばしば骨まで砕いて食べていたと考えられ、一方ギガノトサウルスは骨は食べず肉や内臓だけを食べていたと思われる(冨田、1999)。

大恐竜展 2010

Paul Sereno(シカゴ大学)がモロッコで発見した頭骨
 1995年、モロッコで長さ163cmもある肉食恐竜の頭蓋骨が見つかった。他には脊椎の一部や骨盤、および後足の一部などで、推定全長13m。これも最大の肉食恐竜の有力な候補だ(Guinnes Book, 1997)。
 カルカロドントサウルス Carcharodontosaurus saharicus は1925年にホオジロザメ Carcharodon に似た大きな歯だけによってメガロサウルス科の新種として発表されていたが、この発見によって全貌がよりはっきりした。ギガノトサウルスに近い大型獣脚類で同じ科に属し、かなり良く似た恐竜だったようである。時代も同じ白亜紀前期(9500万年前)。またギガノトサウルスの頭骨は少々破損していたので当初は1.5mといわれていたから、カルカロドントサウルスはより大きな肉食恐竜の発見として話題になった。


Carcharodontsaurus saharicus の頭骨(大恐竜帝国 2009)

 1997年にニジェールで9500万年前の地層から発見されたカルカロドントサウルスの化石は、シカゴで数年間研究されていた。頭骨は175cmもある。これまで見つかっているものとは別種との見解が示され、Carcharodontsaurus iguidensis と命名された(BBC)。
※ Yamada さんから知らせていただきました。




シアッチ Siats meekerorum

 2008年にユタ州のシーダー山層で白亜紀、約9800万年前の巨大なカルノサウルスの化石が見つかった。全長9m、体重4tと推定されている(AFPBB)。
※ テタヌラさん、Yamadaさんから知らせていただきました。
 Siats meekerorum と名づけられたこの恐竜は、カルカロドントサウルス科に属すると考えられ、このグループとしては北アメリカで発見されたのは初めてである。そして1億年前にはカルカロドントサウルス類が汎世界的に生息していたことを示すものだといわれる。
 同じ時代の北米のティランノサウルス類は、シーダー山層から発見された歯の化石から推してシアッツよりずっと小さく、競合することはなかっただろう(SCI-News)。

チランタイサウルス

 キランタイサウルス Chilantaisaurus ?tashuikouensisチランタイサウルス)は、中国北部・内蒙古の吉蘭泰塩湖の近くと南部の広東で見つかった白亜紀後期の大型獣脚類で、中国の Hu が1964年に記載した。ただし化石は断片的でその分類ははっきりしていなかった。
 デビッド・ランバート(1983)は、メガロサウルス科かもしれない、と書いている(恐竜の百科)。グレゴリー・ポール(1988)は、非常に大型のアロサウルス類としている(肉食恐竜事典)。一方、トーマス・ホルツ(2007)は、おそらくはスピノサウルス類(メガラプトルに近い系統かもしれない)と述べている(最新恐竜事典)。
 見つかっているのは頭骨の僅かな破片と、腕の骨、後脚の大部分など。頭骨は極めて分厚い。大腿骨の長さ119cm、脛骨の長さ95cm。これらから腰までの高さ2.7m、全長10-13m、体重は最大4tと推定されている。

吉蘭泰サウルス  キランタイサウルスの腕はきわめて逞しく、極端に曲がった大きな鉤爪を持っていた。大きな腕を振り回して襲い掛かり、強力な爪で獲物を引き裂いた(Donald F.Glut, 1992)。

キランタイサウルス

 キランタイサウルスは数種が区別されているが、その代表種 Chilantaisaurus ?tashuikouensis は他の種に比べて著しく大きく、またその歯の形状からカルカロドントサウルスに近い別の恐竜であると、Stephen L. Brusatte(2009)によって指摘されている。そして中国語で shark toothed dragon を意味する Shaochilong との属名が与えられた。しかし袂を分かち合ったとはいえ、ShaochilongChilantaisaurus は互いに近縁であるという。

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