白亜紀後期−7600万年ほど前−に、カナダのアルバータやモンタナ、ワイオミングにすんでいた大型の肉食恐竜ゴルゴサウルスは1914年、Lambe によって報告され、シカゴのフィールド博物館や、ニューヨークの自然史博物館に見事な組立骨格が展示されている。全長8.6m、頭骨の長さ1m、腰の高さ2.8m(ニューヨーク自然史博物館)。推定体重2−2.5t。

 Lambe は歯のすり減り具合から柔らかい肉、つまり屍肉を食べていたと考えたが、攻撃者でカモノハシ竜などの草食恐竜を屠っていたとする見方の方が多い。ゴルゴサウルスも他の大型獣脚類同様、頭を起こし、長い尾を垂らした復元がされていたが、最近ではスマートな体型と長い後脚を持つ、足の速い恐竜だったと考えられている。
 ゴルゴサウルスは、先に発見されていたアルバートサウルスと同じであると考えられ、Russell (1970) によって Albertosaurus libratus と改名されていたが、最近、ロイヤルティレル博物館の Phillip Currie はこれら二つの属には明らかな違いがあり、別物であると提唱、再びゴルゴサウルスの名に戻りそうな気配だ(dinodata.org)。
 ゴルゴサウルスは同じ時代の角竜類や鴨竜類を食べていたようで、そのように復元された標本が各地の博物館に見える。また、ティランノサウルスとは獲物の違いによってすみ分けていたといわれる。ティランノサウルスとは、しかしながら生存年代に少しズレがある。どちらも白亜紀後期の恐竜だが、ティランノサウルスは白亜紀末の Maastrichtian 期、ゴルゴサウルスはその一つ前の Campanian 期に棲んでいた。競合したのは、同時代の住人でほぼ同大、しかしよりがっちりしたダスプレトサウルスだろう。
 ゴルゴサウルスは、さまざまな年齢の保存状態の良い化石がたくさん見つかっているので、ティランノサウルス科の中では最も多くのことが判明している種である。

※ ゴルゴサウルスが昔の名前に戻りつつあることはわたぴーさんから知らせていただきました。

ロイヤル・ティレル博物館

 千葉市の幕張メッセで開催された「世界の巨大恐竜博2006」にはゴルゴサウルスが展示もあった。しかもこれは Gorgosaurus libratus とは別の(まだ命名されていない)新種だった。33mのスーパーサウルスのおかげで目立たなかったかもしれない。
 ブラックヒルズ地質学研究所に収容されたのは、全長7.6m、7200万年前というからやや新しい時代のゴルゴサウルスだ。腓骨、肋骨、肩胛骨などに骨折の痕が見られ、また細菌に感染した痕跡もあった。さらに頭骨には脳腫瘍が疑われる変形まで認められるというから満身創痍である(日経)。
 化石になる過程において、骨が変形する例はしばしば見受けられる。しかし脳腫瘍だと鑑定されたのはこれが初めてである。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。
恐竜博2006



 ゴルゴサウルスが抜けた後のアルバートサウルス属には3種があるが、いずれも標本が少なく、またそれらも断片的である。代表種とされているのはオズボーン(1905)が記載した Albertosaurus sarcophagus で、カナダのアルバータから化石が見つかっている(ウィーン自然史博物館所蔵)。ゴルゴサウルスとほぼ同大で(頭骨の長さ1m)、その直系の子孫と見られている。白亜紀後期 Campanian 期から Maastrichtian 期(7600−6800万年前)にかけて生息していた。

 1928年にはやはりアルバータから別種の Albertosaurus arctunguis が発見され、トロントのロイヤル・オンタリオ博物館に収納された。その後に見つかった頭骨や骨格の断片がロイヤル・ティレル古生物学博物館などにある。arctunguis の方がやや華奢な造りといわれるが、両者は同じ恐竜かもしれない。

 モンタナで見つかり、ラルフ・モルナー(1978)によって新種として報告された Albertosaurus megagracilis は頭骨の長さ90cm、全長約7.5mで少し小さいのだが、G. ポール(1988)によれば、骨の融合が極めて緩く、まだ十分には成長していない個体である。年代は Maastrichtian 期末でありティランノサウルスと同時代である。Carr (1999) はティランノサウルスの幼体であるとしている(tolweb.org)。

Albertosaurus sarcophagus の下顎

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