2009年3月、東京・上野の国立科学博物館で開催された大恐竜展に新種の肉食恐竜・マプサウルスが登場した。あのティランノサウルスやギガノトサウルスに勝るとも劣らない、全長約13mの世界最大級の肉食恐竜と謳われた。自分よりはるかに大きな40m級の巨大竜脚類、アルゼンチノサウルスを果敢に襲っただろう。同じ場所から7個体以上もの骨が発掘されたことで、「巨大な肉食恐竜は単体で行動する」という定説を覆す物証になっているともいわれる。  知られざる南半球の支配者
 大型肉食恐竜は単独で発見されることが多いが、この恐竜は1997年から2001年の発掘で、子供(幼体)から成体まで少なくとも7体の骨がまとまって見つかった。世代の異なる個体が集まって一種の群れを作っていたのかも知れない。
 重量級のティラノサウルスと比べると、大きさは同等だが、体はやや細身で歯も細く薄い。獲物の食べ方など生態はかなり違っていただろう(大恐竜展)。


 Carmen Funes 博物館(アルゼンチン)の Rodolfo Coria とアルバータ大学(カナダ)の Philip Currie がパタゴニアで1億年前のマプサウルス発見をアナウンスしたのは2000年のことだった。
 見つかったのは5.5mの子供から12m以上とおぼしき成体まで7−9個体分の骨で、その中には肉食恐竜として最長の腓骨(86cm)も含まれていた。それは近縁の恐竜、ギガノトサウルスの腓骨よりも薄かったが僅かに(2cm)長かった。また頭骨は、ギガノトサウルスのそれよりも低く、軽量にできていた。ギガノトサウルスと同様、ナイフのような鋭い歯を持っていた(ScienceDaily)。

 マプサウルスの化石は年齢の異なる複数の個体が一緒に見つかっている−他の肉食恐竜には例がない−ことから家族から成る群をなしていたのではと考えられている。そして自分よりも大きな草食動物を狩っていただろうとするのも自然な推測だ。しかし同時代に同じ場所に、史上最大の陸生動物・アルゼンティノサウルスが生息していたというだけでこの100tもあったかもしれない恐竜をも獲物にしていたというのは目下のところ全くの想像にすぎない。ただロドルフォ・コリアとフィリップ・カリーはマプサウルスが埋まっていた同じ岩石の中からアルゼンティノサウルスの化石も見つけている。おそらくたまたま一緒だったということではないのだろう。

 群で狩をしていたとの直接的な証拠はないものの、マプサウルスはおそらく協力してして獲物を追いかけただろう。鋭い歯で噛みつき、出血させてから相手が死ぬのを待っていた。
 マプサウルスの頭骨は、ティランノサウルスより長く、軽くできていた。顎をより速く閉じることができたようだという(Philip Currie)。ティランノサウルスの歯はバナナのように太く骨まで噛み砕いたが、マプサウルスの歯は、薄く鋭く、口を閉じると同時に獲物の肉を噛み切っただろう。

 マプサウルスの脚は、ティランノサウルスよりも太く短いのであまり速くは走れなかったのではないか。それ故、大きくて動きの遅い大きな動物を狩っていた(ScienceDaily)−アルゼンティノサウルスまでも?
 大型のカルカロドントサウルス科恐竜は竜脚類の内でも特に大きなものと一緒に見つかる例がある。アクロカントサウルスはサウロポセイドンと、カルカロドントサウルスはパラリティタンと、ギガノトサウルスはアンデサウルスと。そしてマプサウルスがアルゼンティノサウルスと−である。これらはいずれも捕食関係があったのかもしれない。

大恐竜展  ギガノトサウルスが史上最大の陸棲肉食動物の座をティランノサウルスから奪取したのは1995年だった。その5年後にマプサウルスが登場したわけだが、これら3者の間には、発見者が強調するほどの明確な差はない。全長12.5m、体重7tに達したマプサウルスも史上最大の陸棲肉食動物に挙げられる。メリーランド大学のトーマス・ホルツ博士は、ティランノサウルス、カルカロドントサウルス(マプサウルス、ギガノトサウルス)、スピノサウルス……これらは肉食恐竜として最大限の大きさに達したのではないだろうかという(TechNewsWorld)。

 全長15mというのは超えがたい分水嶺だろうか(スピノサウルスを除いて)。体重の方はこれらの間にも差がありそうだが、全長は接近している。

ギガノトサウルス12−14m
カルカロドントサウルス13−14m
マプサウルス12−13m
アクロカントサウルス12−13m
スピノサウルス15−18m
ティランノサウルス12−13m

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