かつてヨーロッパのナマズは(乱獲されて数が激減するまでは)非常に大きくなり、不穏な噂が絶えなかった。いわく人間の子供やイヌが食べられてしまったという。
ハンガリーで川に落ちた二人の女の子が巨大なナマズに呑み込まれ、ブリガリアでも捕獲した大きなナマズの腹から若い女性の死体が見つかったことがある。
19世紀にはロシア西部のドニエプル川で長さ4.6m、体重336kgもあるものが捕獲され、世界最大の淡水魚とされていた。しかし最近では2mを超えるものは稀になっている。
長さ(m) | 備 考 |
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3 | ルーマニア。標本がパリ自然史博物館に保存されている (Pellegrin, 1931)。 |
− | 256kg。1918年に旧ソ連のウクライナで捕獲された。 |
− | 250kg。ハンガリーで捕らえられ、1907年にイギリスの Hercules Bath に展示されていた(Flower, 1929)。 |
2.85 | ルーマニア、170kg |
ドイツ東部、ポーランドとの国境近くの小さな湖でここ数年、1.5mほどのナマズが目撃されていた。そして最近、ダックスフントが水中に引き込まれて呑まれてしまったと伝えられる(Berliner Kurier newspaper)。ナマズは人手によって湖に放たれたものらしい。このナマズを捕獲しようとの試みはこれまでのところ失敗している。
オランダの Kempervennen ではオオナマズ Big Mama がダイバーたちを脅かしている。2.3mのヨーロッパオオナマズは1日に2、3羽のカモを食べる。時には小型のイヌが襲われた記録もある。しかし人を食べるわけではないと現地のダイビングスクールの Remco Visser はいう。
セントラルパークの管理事務所ではパトロールをおこなって夜間にフェンスを越えて侵入し、ナマズを捕獲しようとする者を取り締まっている。このあたりのオオナマズは、豊かな水量と餌に恵まれていて非常に大きくなるという(ANANOVA)。
夏の行楽地に巨大なナマズの影
ドイツ・ベルリンの Schlachtensee 湖では水浴中の人々がナマズらしい巨大な魚に咬まれるという事件が起きている。友人と共に湖に来ていた17歳の Katharina Saxe が脹ら脛を咬まれ、長さ17cmの裂傷を負う事件があって以来、現地の人々はオオナマズ を警戒して湖に入るのを止めているという。
被害を受けたのは彼女一人ではなく、Jonas Wegg という近在の若い男性も夜間に泳いでいてやはり脹ら脛を咬まれている。またオオナマズの専門家 James Holgate は少女が受けた傷から推して当のナマズは1mくらいのものだろうという。ドイツでは2000年に Rottenburg で長さ239cm、体重89kgのオオナマズが捕獲されている(SPIEGEL)。
↑ 2010年2月、イタリアのポー川で長さ248cm、体重114kgもあるオオナマズ Wels を釣り上げている。これはヨーロッパで釣り上げられた淡水魚の重量の新記録になると見られているほか、この種のナマズ(Wels)としてはオールタックル(スポーツフィッシング)世界記録になるという(Gigazine)。
2012年12月末に北イタリア・ポー川で捕獲された巨大ナマズの映像。全長255cm、体重117kg。まさに魔物、川の主といった感じ。こういった巨大ナマズは釣り人たちのあこがれのよう(Youtube)。これは同じくポー川で釣り上げられた上の記録(114kg)をしのぐ大物。↓
2015年3月、河口湿原地帯が広がるイタリアのポ川で、また巨大なナマズが捕獲された。長さ267cm、体重127kg。同じポ川で以前捕獲された278cm、136kgまでは届かなかったものの、ロッドとリールで釣られたナマズの中では世界最大だと言われている↓
実際には被害はないものの、この大きさのヨーロッパオオナマズであれば人間の大人を飲み込むことも可能だという、釣りに使用した餌もハト一羽丸ごとだったというからいずれにしても規格外である(AOLNews)。
※ たか@渓道楽さんから知らせていただきました。
2008年10月、イギリスの釣師 Alan Melhuish がバルセロナ近くの River Ebro で長さ2.4m、体重103kgのオオナマズを釣り上げた。 彼は巨大な魚を引き上げるまでに30分を要した。その間、艀から川へ引っ張り込まれないよう、全力で踏ん張ったという→ これまでのところ、ヨーロッパで釣られた最大の淡水魚は、イタリアで記録されており、109kgあった(MailOnline)。 |
2011年7月、長さ2.4m、体重88kgの黄金色のオオナマズがスペインはバルセロナ近くの Ebro 川で釣り上げられた。思いがけない大物で釣り上げるのに30分を要した。アルビノのオオナマズとしては世界最大とのこと。それまでのタイトルホルダーは昨年10月に捕獲された87kg。また計量した後、このナマズは川に戻されたそうである(MailOnLine)。
※ たか@渓道楽さんから知らせていただきました。
↑2013年1月、ロシアで195kgもある巨大なナマズが捕獲された。大人の男5人でどうにか持ち上げることができたほどデカイ! ※ ロブくんさん、Biff さんから知らせていただきました。 |
ヨーロッパの川や湖に100kgを超すオオナマズが今も存在することは驚くべきことかもしれない。彼らの食欲を十分に満たすだけの餌があるということだが。 ドイツでは川や湖の魚を食べ尽くしてしまうのではと懸念されている。ババリアのIsen River では、カモやハクチョウがナマズに襲われる危険に晒されている。 ナマズの数が増え、本来の餌が不足してくると共食いの可能性さえある。元来オオナマズには共食いの習性は知られていなかったが、今それが始まるつつあるというのだ(The Local)。 |
かつて4m、300kgを超えるものさえいたとされるヨーロッパオオナマズは、最近ではずっと小さくなってしまった。現在では世界最大の淡水魚のタイトルホルダーはタイからベトナムにかけての川に棲むメコンのナマズ Pa beuk かもしれない。長さ2.5m、胴回り1.7m、体重180kgに達する。昔は3m、242kgもあるものがいたという。
このナマズはごく稀な種類で、たとえばラオスでは毎年4月から5月にかけて少数が捕獲されるだけである。1974年には14頭しかとれなかった。これらの体重は135〜200kgだった。 いまや数百匹しか生存していないともいわれ、2000年以降、メコン川全域で年に5〜10匹が偶然に捕獲されるだけになっている。 ←2007年11月、カンボジアで長さ2.4m、体重204kgもある個体が捕獲されている。この年、捕獲されたメコンオオナマズはこの1匹だけだという。この巨大なまずは、データを取った後、川に戻された(ナショナルジオグラフィック)。 タイには別にメナムのナマズ Pla tepa が棲んでいてこれも3mに達するものがあった。しかし最近では1.5mを超えるものは珍しくなってしまった。 |
メコン川は、生息する巨大淡水魚の種類が地球上のほかのどの河川よりも多いといわれる(ナショナル・ジオグラフィック)。2007年7月17日、タイのバンコク郊外にあるブンサムラン湖で、約116kgもある Siamese giant carp パーカーホ Pla Caho が釣り上げられた。もっとも彼(タイの漁師)が持参していた秤では正確には計量できなかったので、公認記録とはならなかった(DaylyMail)。
※ Yui さんから知らせていただきました。
pla はタイ語で「魚」。現地ではパーと発音する。ほとんど魚名は「pla ***」となるようだ。Caho は carp と思われ、つまり、パーカーホとは「鯉」。ちなみに日本にもいるコイは英語では Common Carp(青魚倶楽部)。
※ パーカーホのことは上田さんから知らせていただきました。 |
メコン川流域に棲むパーカーホもまた世界最大の淡水魚の一つで頭がかなり大きいのが目立つ。長さ3m、体重300kgに達するものがあるといわれる。草食性で水草や藻、植物プランクトンなどを主食とし、水位が高い時期には浸水した陸上植物の果実を食べてその巨体を維持している。 アンコールワットにはパーカーホの彫刻があり、カンボジアの国魚にも指定されている。パーカーホも例に漏れず、最近では100kgを超えるものが稀であるという。生殖可能な年齢まで生き延びるパーカーホがあまりいないという状況まで個体数が減ってしまっていることだ。カンボジアからメコン・デルタまで広がる本来の生息域全体で、深刻な絶滅危機に瀕している。理由としては、水質汚濁、川の交通量の増加、そしてとりわけ乱獲が挙げられる(ナショナル・ジオグラフィック)。 |
アマゾン川にも大型のナマズが生息している。なかでも Piraiba とよばれる種はヨーロッパの Wels や東南アジアの Pa beuk と並んで世界最大の淡水魚だとさえいわれる。一説では320kgに達したものがいたそうだが、公式記録は116kgだというからかなり過大か(bassmex.com)。 |
インドでは人が亡くなると火葬したのちに遺体をガンジス川へと流す風習がある。この流れてくる遺体の焼け残った部分を食べて大きくなり人の味を覚えた Goonch が生きている人をも襲い始めるといわれる。 1988年4月、17歳のネパール人の男性が最初の犠牲者となり、その後も何人かが犠牲になったと住民は証言している(デジタルマガジン)。 生物学者で漁師でもある Jeremy Wade が捕らえた巨大な Goonch。長さ1.8m、体重73kgもあり、これまでで最大級の個体であるという (skynews)→ |
アラパイマ Arapaima
ヨーロッパや東南アジアの巨大ナマズに匹敵する淡水魚が南米のアラパイマ(現地名 ピラルク Pirarucu)でオリノコ川やアマゾン川に棲んでいる。これも世界最大の淡水魚とよくいわれる。
19世紀の初めブラジルを訪れたドイツ人の探検家 Schomburgk はリオ・ネグロの現地人から長さ4.5mもあるアラパイマを仕留めたことがあると聞いた。しかし彼はそんなに大きな魚を見ることはできなかった。
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↑2015年3月、ガイアナの Rewa 川で、釣師の Richard Hart がフライ・フィッシングで416ポンド(188kg)もあるアラパイマを釣り上げた。IGFA(国際ゲームフィッシュ協会)認定のオールタックル世界記録は2010年、Jakub Vagner が釣り上げた339ポンド(154kg)、長さ295cmで、Hart はこれをを大きく更新することとなった。また Hart が釣り上げたアラパイマは全長410cmもあったという。だいぶ細長い体型だがもしこれが間違いでなければ、大げさだとされていた過去の大記録(4.5m)が現実味を帯びてきたことになる。
※ ジュンイチさんから知らせていただきました。
ピラルクは世界最大の淡水魚で、今までで最大の記録は5.2mである。南アメリカのアマゾン・オリノコ川に分布する。胞状の浮き袋を持っていて、水中の酸素が少なくなると口を水面から立てて空気を吸い込む(空気呼吸をする)。川岸の浅いところで産卵し、孵化した稚魚が一人前に泳ぎだすまでは親が保護する。現地では住民の重要な蛋白源の一つとして食用に供され、美味とされている(日本動物図鑑、1981)。
アラパイマは水中に10〜20分ほど留まっていられるが、普通は水面近くを泳いで(他の魚を)捕食し、また咳のような音を立てて呼吸する。時には水面近くで鳥を捕らえる(NationalGeographic)。
実吉達郎氏によるとピラルクはたいへんおいしいらしい。
サケの切り身くらいに切って吊したり、板の上に並べたりして、やや軟らかみが残るくらいまで干し上げ、焼いて食べる。黄色い肉で、塩が効いて鱒の燻製に似て実にうまい(アマゾン動物記、1964)。
これを読んでるだけで食べたくなってくるが、21世紀になってもアマゾンは遠い。ピラルクのランチはここで食べられるそうだが。