チョウザメはサメの仲間ではないが、外見からだろう、そう名付けられている。
 チョウザメを世界最大の淡水魚というと抵抗があるかもしれない。硬骨魚類(魚類の大半を含む)のうちで最も体が長い魚のひとつではある。最も重いのはマンボウだから最大とはいえないが。
 チョウザメは北半球の温帯、冷帯に分布し24種ほどあるが、種類によってはその生涯の殆どを淡水域で過ごす。

 オオチョウザメ Beluga(Great Sturgeon)はアドリア海や黒海、カスピ海などにすみ、産卵のためにボルガ川やドナウ川に入り込む。
 成長した雌は長さ3m、体重230kgに達する。岡田弥一郎氏(現代生物学大系,1965)によればこれくらいのもので年齢は75歳くらいだ。チョウザメの数が多かった昔はもっと大きくなったようで、19世紀にはドナウ川では7m以上に達するものが珍しくないと言われていた。もっともこれは少々(かなり)大袈裟かもしれないが。

1813年1452kg ボルガ川流域の Krasnoarmeisk
1827年1474kg ボルガ川河口付近、7.3m
1836年1460kg カスピ海
1869年1252kg サラトフ(ボルガ川沿い)
1922年1200kg ボルガ川河口付近
1924年1228kg Tikhaya Sosna 川
Gerald L. Wood(Animal Facts & Feats,1982)による

 オオチョウザメは世界で最も価値のある魚類かもしれない。産卵数は5万前後だが、慎重に粘液を削ぎ取り、ワインやビネガで洗ってから乾燥させたり塩漬けにした卵は世界で最も高価な魚料理−キャビアとなる。
 1924年の1228kgのチョウザメからは245kgのキャビアが採取されたが、その価格は今日なら20万ポンド近いと言われる。日本円なら3800万円くらいか(2003年5月2日現在のレートで)。
 アムール川やその周辺の湖に住むカルーガ Kaluga(Daurian Sturgeon)にも時には巨大なものが現れる。最大の記録は541kgで長さ418cmあったが(Soldatov,1915)、一説では820kgおよび1140kgのものがいたといわれる(Berg,1932)。
 1992年、揚子江でミニバスほどもあるチョウザメが捕獲されたと世界に報道された。しかしこれは若いレポーターの冗談であることがすぐに判明した。このレポーターがまだ Chinese News Agency に勤務しているかどうかは定かでない。

 岡田弥一郎氏は北アメリカの太平洋岸にすむ淡水性のシロチョウザメ White Sturgeon が最大種で、ブリティッシュ・コロンビアで体重800kgもあるものが採れたとしている。
 しかし公平に見たところシロチョウザメがベルーガより大きいとは言い難い。カルーガと良い勝負ではないだろうか。
1892年900kg オレゴン州のコロンビア川(アストリア)
1898年680kg オレゴンのウェイザー川
1912年583kg ワシントン州のコロンビア川、381cm
1928年680kg オレゴンのスネーク川

www.anglingbc.com によれば2000年にブリティッシュ・コロンビアで4.3m、725kgもあるものが捕獲されている。


2008年1月、カナダのブリティッシュ・コロンビア州にあるフレーザー川で捕獲されたシロチョウザメ。長さ3m、体重35ストーン(222kg)以上。この魚は川に戻されたそうだ。ガイドによればこの川にはもっと大きなシロチョウザメもいるが、ここ1年以上の間、これより大きいのは見たことがないそうだ (MailOnline)。

 余談ですが一度で良いから腹一杯食べてみたいと思っている料理にキャビアがあります。クラッカーに載った微量の黒いつぶつぶなら食べたことがありますが、あれではまるで味がわかりません。
 007シリーズの原作にはキャビアを食べる場面がしばしば登場します。フランスのリゾートに赴いた時など、大事なのはキャビアをうんと持ってこさせることではなくて、トーストをたくさん持ってこさせることなんだな(「カジノ・ロワイヤル」より)などとボンド氏は宣っている。
 日本のレストランで注文すると100gで1万円とか。数枚のトーストに充分なキャビア…手が出ませんね。ヨーロッパではチョウザメが捕れるから日本ほど高くはないのでしょうが。
 故荻昌弘氏もエッセイで、チョウザメ料理についてコメントを求められた際、キャビアなら死ぬほど食いたいけど、チョウザメではねえ…とおっしゃってるほど。もっともその後実際に(チョウザメ料理を)食べてみたら和洋折衷的な味がして、まずくはなかったそうだが。
 日本でも北海道から本州北部にかけての海域にチョウザメが生息している。産卵のために4月から5月にかけて石狩川や天塩川を遡る。かつてはかなりの数のチョウザメが北海道の川を上ってきたが、近年では殆ど見られなくなったそうである。


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