ブチハイエナがライオンの食べ残しをあさることはよく知られているが、ライオンもハイエナから獲物をいただくことがある。ライオンが近づいてくるとハイエナはたいてい引き下がってしまう。そして立ち去ってしまうか、ライオンが食べ終わり、再び彼らの順番が巡ってくるのを30〜100m離れて辛抱強く待っている。
 ハイエナは獲物を奪いあって争うときに笑い声に似た大きな声をたてる。他のハイエナやスカベンジャーをそこへ引き付けるのは、実はその声高な笑い声だ。ハイエナがたくさん集まって採食するときには、叫び、爆笑、矯声の入り交じった耳障りな音をたてる。

ブチハイエナ

 ある晩、多数のハイエナの大きな叫び声や笑い声の騒ぎにひきつけられて行ってみると、一頭のヌー(ウシカモシカ)の死骸を巡って二組の群が争っているところだった。どちらの側にも少なくとも20頭はいた。一方の群が食べている間、片方は50m程離れた所に集まっていてが、数分後には獲物に向かって一列横隊で走って行った。黒い尾をぴんと立て、攻撃的に頭を上げてゆっくり走るハイエナの体は意外なほど前後に揺れていた。


10頭以上のハイエナが3頭の雌ライオンを追い払う
 ライオンもハイエナの叫び声にひきつけられてやって来る。ライオンは複数ならばたいていハイエナの群から死骸を奪い取ることができる。雄ライオンは体が大きいし、大胆なので雌ライオンよりも奪い取るのに成功しやすい。
 一方ハイエナの群も時にはライオンを死骸から追い払うことさえある。もっともその獲物を捕まえたのがライオンだった場合には、めったにそういうことはできない。このようなときには近くに多数のハイエナが集まっていることはあまりないからだ。しかし一旦はライオンに横取りされた獲物をハイエナが再び奪い返すことはある(バートラム、1978)。

1983年、ボツワナ
 5頭(雄4、雌1)のライオンとハイエナとが激しく吼えあっていた。ブチハイエナの数はその間も増え続け、30頭を超えた。ライオンは皆まだ若く、群から出たばかりの年代のようだった。ハイエナに牽制されて1頭の雄が攻撃に出たが、ハイエナはさっと退いた。
 皮だけになったシマウマの死骸があった。ハイエナが捕らえた獲物をライオンが奪おうとし、それが仲間のハイエナを呼び寄せたらしい。結局数がモノをいってライオンたちは引き下がった。

雄ライオンははっきりした理由もないのに、ハイエナを攻撃することがある。
※ Akira さんから教えていただきました。
1966年、タンザニア
 1頭の雄と2頭の雌、子供が8頭のライオンの群にブチハイエナが近づいてきた。11頭だった。深い草むらの中から互いに連絡を取り合っているかのように、うなりながらライオンから数メートルのところまで近寄ってきた。
 ライオンたちはまだ食事中だった。ハイエナの牽制にたまりかねたようにライオンの子供たちが食卓から離れた。ついに雌もその場から立ち去った。雄はまだ平気だった。
 ハイエナは4、5回にわたって叫び、吼え、脅しをかけてきた。雄ライオンはたまりかねてすごい声を出した。何度か小競り合いがあり、数分後にはライオンも退散した。

ブチハイエナは意外に大きい。ヒョウやオオカミよりも大きい。その上強い顎とくれば戦力もかなりなものだ。
Reay H. N. Smithers(1971)によるボツワナ産:
 雄 全長160cm(尾は26cm)、体重79kg
 雌 全長158cm(尾は27cm)、体重73kg
この例では雄の方が大きいが、通常は雌の方がやや大きい。また平均して東アフリカのものよりアフリカ南部産の方が大型である。
チャイロハイエナ
 雄 全長147cm(尾は26cm)、体重46kg
 雌 全長154cm(尾は19cm)

 シャラー(1974)は一度、2頭のハイエナが1頭の雌ライオンと一緒にシマウマを食べているのを目撃している。両者は数分間だけ一緒に食べていたが、ついに雌ライオンが立ち去った。僅か2頭でハイエナがライオンにひどい目に合わされなかったということは注目すべきことであるとシャラーは言っている。

 一方でシャラーはまた、少数のライオンがハイエナの群から獲物を奪い取るのを見て驚いている。2頭の雌ライオンが31頭のハイエナから横取りしたの見て、ハイエナが協力して攻撃すれば、たやすくライオンを追い払うことができるはずだと不思議に思っている。

ブチハイエナがライオンを襲う  1961年2月、黒いたてがみの堂々たる雄ライオンが、ブチハイエナの群に咬まれた。このライオンは脇腹に深い膿んだ傷を持っていてすっかり弱っていた。しばらくの間はハイエナを遠ざけてはいたが、結局このライオンは死んでしまった。元の傷もハイエナから受けたようだ。
 ブチハイエナは雌ライオンに対しては明らかに図々しくなる。ブチハイエナの群が成獣の雌ライオンを殺して食べた例もある(小原秀雄、1990)。

ハイエナの群が雌ライオンを殺し食べてしまった。
※ Kentarou さんから教えていただきました。

 2012年7月、南スーダンのジョングレイ州北部のアユッド郡で、住民は大きな動物と多数のブチハイエナが町の市場を走り抜けていく音を聞いた。そして翌朝、2頭のハイエナが林の中で殺されているのを見つけた。
 その数日後、今度は町から数キロ離れた所で大きなライオンが殺されているのを発見。その近くには3頭のハイエナの死体も転がっていた。人々によるとこういうことは珍しく、その日は町中がその噂で持ちきりだった(Peace Winds Japan)。

※ 日本に本部を置く国際支援NGO・ピースウィンズ・ジャパンのスタッフで南スーダンで活動されている石川さんから知らせていただきました。ライオンの死体を見つけた人々によれば、それは雌のライオンだったそうです。
 ライオンとブチハイエナの小競り合いはしばしば目撃されるが、双方が死に至る激しい戦いは極めて稀な出来事だ。
 ハイエナというと死体漁りをするイヌくらいの動物のイメージがあるが、現地の人はハイエナが自分たちでけっこう狩をすること、そして意外に大きいことを知っている。実際、石川さんたちが、雨が降った翌日の朝に、町の市場にたくさん残っていたハイエナの足跡を測ってみると、大きいものは縦の長さが10cm以上もあった()。

 通常ハイエナは獲物を食べているライオンの周りに集まり、取り囲み、声を上げて近づき、そして退く。このようなことを繰り返し、心理的な圧迫を加え、ライオンが居づらくなるまで続ける。

ブチハイエナ

 4頭の雄ライオンが食べかけのエランド(オオカモシカ)のそばに横たわっていた。夕方ハイエナがぽつぽつと現れ、25頭に達した。夜にはいってハイエナたちはうなり声を発しながら円を描いて接近し始めた。しかしライオンはハイエナを全く無視していた。深夜を過ぎてハイエナは再びせわしなく吠え出し、動き始めた。たまりかねたのか3頭のライオンが立ち去った。
 30頭に増えたハイエナは全員腹ばいになっていたが、またも吼え始めた。ただ1頭、まだ残っていたライオンはハイエナの群に突進した。ハイエナは一度は後退したが、すぐに距離を詰めてきた。こうしたことが繰り返され、3時前になって、ついにライオンは歩き去った。
 充分に食べ、満腹してくるとライオンに限らず気分はゆったりしてくる。このようなライオンをハイエナが追い払ったからといってどれほどの意味があるだろう。上のケースではハイエナが現れたのは夕方であり、ライオンは深夜になるまで動じなかったのだから、ハイエナを恐れて退散したとは思えない。

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