アメリカのイノシシは1893〜1925年にドイツやロシアから移入されたものの子孫で、その後家畜のブタとも交配しているので純粋なイノシシとは言いがたいが、全身黒味の強い褐色、ないし灰色の剛毛に包まれており、見かけは全く変わらない。
 イノシシとしては中くらいの大きさで体重は90〜160kgほど。8〜12cmくらいの牙を持っている。最大の牙は23cmあった。その一振りはイヌの腹を裂き、人の脚の骨を切るほどだ。

クマ対イノシシ

 Ben East(1977)はノース・カロライナで起こったアメリカクロクマとイノシシの戦いについて書いている。1940年頃のことで二人の森林監視員が目撃した。
 すさまじい叫び声を聞いて二人が駆けつけたとき、開けた所でクマとイノシシが戦っていた。イノシシは小さく70キロもなさそうだった。一方クマはクロクマとしては大型で180キロはありそうだった。どうやらクマは倒れた木の陰でイノシシを待ち伏せ、突如襲い掛かったようだった。
 クマはイノシシの後半身を捉え、腹や背中を噛み裂いていた。イノシシは頭を左右に振って牙を使おうとしたが、届かなかった。イノシシの甲高い吼え声が響き続けたが、クマは一言も発しなかった。双方とも血だらけになっていたが、流血はイノシシからのものだった。
 二人は45m程の所から見ていたがその距離を半分までに詰めた。クマとイノシシは組み合ったまま転がり大きな木の根元の窪みに落ちた。まもなくイノシシの最後の悲鳴が聞かれた。
 翌朝、二人はクマが食べ残したイノシシの死体をあらためた。イノシシの頭蓋は噛み砕かれていて、これが致命傷となったようだった。

 シートン(1925)は逆の結果になった戦いについて書いている。1850年に(つまりはイノシシが持ち込まれる以前ということになり、イノシシと言うより野生化したブタだが)ミシガン州南部の森林でクロクマがイノシシの子を狙っていた時、悲鳴を聞いて駆けつけた群の中から大きな壮年の雄が一歩前に出てクマと向きあった
 クマはその雄を避けて再び子供を襲おうとしたが、雄イノシシに道を阻まれ、ついに戦いとなった。イノシシはクマのパンチを受け、爪にもかけられたが、ひるまず牙でクマに深い傷を負わせた。いったん離れて再び睨み合いとなったが、またもイノシシの突撃を受け、今度はさらに群が一団となって襲いかかってきた。
 イノシシたちが引き上げた後、残っていたのは血まみれの太い骨だけだった。

 アフリカのイボイノシシはあまり大きくないが(体重60〜105kg)、牙は時には60cmにも達する。1952年、ウガンダで若いがおとなの雄ライオンがイボイノシシを正面から襲った。ライオンはイノシシを前足で叩き、爪で引き裂いたがイノシシの牙もライオンの脇腹に食い込んだ。ついにイノシシは死んだが、ライオンも肺や心臓に届く傷を受けたらしく、血を吐きながら前のめりに倒れた。

 ライオンにとってイノシシは重要な餌ではないが、カモシカやシマウマなど主要な獲物が不足しているときにイボイノシシを狙うことがある。カメルーンではイボイノシシはライオンの好みのメニューに挙げられているし、タンザニアの一部の地域ではカワイノシシ(体重45〜120kg)がよく殺されている。ウガンダでは、ライオンは大型のモリイノシシ(160〜275kg)を探して森林に入ることがある。

ライオン対イボイノシシ



ヒョウ対イボイノシシ

 まだ若くて経験の少ないヒョウが、おとなのイボイノシシを襲い、壮絶な戦いとなった。この時ヒョウは30分近くかかってようやくイボイノシシを仕留め、しかもたいして傷を負わなくてすんだ。しかし直後現れた数頭のライオンに獲物を奪われてしまった。

トラ対イノシシ

 トラもイノシシに不覚をとることがある。砂地の河原で、トラはイノシシの回りを数回ぐるぐると回り、突然前足で打ち、すぐに横へ飛び退いた。トラはこのようにして何度も打ちつけたので、イノシシの肩からは血が滴っていた。イノシシが反撃しようとする度に、トラは後退した。トラは攻撃の間に息が荒くなり、時にはバランスを崩して、不様に倒れたり、滑ったりもした。
 機会を窺っていたイノシシは正面から突撃した。鋭い剃刀のような牙で、トラの腹をしばしば突いた。腹が裂け弱ってきたトラは戦意を喪失して、腸を引きずりながら土手の方へ逃げ、薮の中に姿をくらました。翌朝、Turner(1959)はトラの死骸を発見した。
 インドイノシシは日本のイノシシよりも大型で体重は140〜230kgになり、牙も25cmに達することがある。そのような大きなイノシシに、経験の浅い若いトラが正面から攻撃して失敗することがあるわけで、老練なトラは、背後から首筋に飛びかかり、肩と鼻を前足で抑えて捻り倒す(シャラー)。


イノシシはなかなか強力だが敵も多い

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