クルーガー国立公園で、あるとき日中に雄のヒョウがインパラを捕らえた。ヒョウは食べ始めたがあまり落ち着きがなく、ときおり周囲を見渡し、歩き回ったりしていた。突然雌のブチハイエナが現れた。ハイエナはヒョウの周囲をうろつきながら、隙を見てインパラを奪おうとした。
 何度目かの小競り合いでヒョウは−ハイエナよりも大きかったが−退散して近くの草むらに座りこんだ。傷を負っていたわけではなかったがかなり息を切らせていた。ハイエナは耳を引き裂かれていた。しばらくしてヒョウが戻ってきたが再び撃退された。やがてハイエナはインパラをくわえて運び去った(goldray.com)。

 アフリカのサバンナでは、ヒョウが捕らえた獲物を樹上に引き上げることが知られている。開けたサバンナでは動物の死はハゲワシを惹きつける。そしてハゲワシの存在がハイエナやライオンを呼び寄せてしまう。

 クルーガー国立公園では、ヒョウが狩に成功した55回のうち46回までが豊かな茂みのある木の上に引き上げられていた(Bailey, 1993)。
 しかしジンバブエの Matobo Hills ではヒョウの獲物37例中、木の上で見つかったのは1例だけだった。ここにはハイエナはいないからだ。またライオンやハイエナの生息数が少ないカラハリでも樹上に運ばれていたのは38例中の6例だけだった(Taylor, 1999)。

 ネパールのチトワン国立公園やインドの Kanha 国立公園ではヒョウが獲物を樹上に運ぶことはめったにない。これらの地域ではトラがかなり多いにもかかわらず。インド南部の Nagarahole でもヒョウの獲物77例の内、樹上にあったのは10例にすぎなかった(Sunquist, 2002)。
 一方、Arjan Singh(1973)はインド北部の Dudwa(Tiger Haven)ではヒョウは頻繁に獲物を樹上に運ぶという。彼はヒョウとシマハイエナの遭遇は見たことがないともいっているので、これはトラやドールを警戒してのことのようだ。


 ハイエナの群は木の下に集まってヒョウに脅しを掛け、獲物を落とすのを待っている。時には樹上に運ぶ前にやってきてヒョウを追い払う(lioncrusher.com)。
 これまでハイエナは群をなした時にヒョウに対して攻撃する(小原、1980)とされていた。そして2頭以上のハイエナがヒョウから強奪することはめずらしくなかった (African Leopard)。しかし最近の観察では単独のブチハイエナもヒョウから強奪することがあるのが確認されている。

 2005年9月、雄のヒョウは2頭の獲物−ダイカーとイボイノシシ−を捕らえていた。彼はダイカーから食べ始めた。1頭のブチハイエナが近づいてくるとヒョウは早々とダイカーを捨てて、イボイノシシの方へ向かった。木の上に引き上げようとしたが2mばかり運んだところで落としてしまった。ハイエナはイノシシも横取りしようとした。そしてもう1頭のハイエナが現れるに及んで、ヒョウが奪回できるチャンスは失われた(malamala.tv)。
 ボツワナで大きな雄のヒョウが2頭のチーターから奪ったトピ(レイヨウ)を食べていた。その後、暗くなってからブチハイエナがやってきて残りを食べていた。ヒョウはそれをしばらくは眺めていたが、まもなく近づいてきた。双方から咆吼が交わされたがなんと両者は並んで食べだした(wildwatch.com)。

 2004年8月、セレンゲティでヒョウが獲物をアカシアの枝に引っかけた時、雌のライオンが現れた。ライオンはジャンプしてそれを引き下ろそうとした。ヒョウはさらに高いところに移動したが不安定な状態ではあった。もう1頭の雌ライオンが加わり、それから10分ほども略奪を試みた。ライオンが半ば諦めかけた時、死骸がずしんと音を立てて落ちてきた。
 ちょうどそのとき1頭のブチハイエナが通りかかった。ヒョウにとってラッキーなことにライオンはハイエナを追いかけた。ヒョウは獲物の元に降りてきた。今度は1頭のシマハイエナがやってきた。しかし今回はヒョウも落ち着いたもので、ハイエナが引き下がるまで睨みつけているだけで良かった(ultimateafrica.com)。

 南アフリカの Sabi Sabi 保護区で、雌のブチハイエナがブッシュバックの残骸をくわえて走っていた。それはヒョウから盗んできたものだった。
 ハイエナは充分に食べていたが、巣で待っている子のために運んでいた。ハイエナは重い荷物をくわえ直すために何度も立ち止まり、その都度不安げに背後を振り返った。
 ハイエナは水を飲むために獲物を水中に隠した。ヒョウがあまり水には入らないことを知っていたようだ。はたして大きな雄のヒョウが追ってきた。凄まじい咆吼と共に攻撃をかけてきて、ハイエナは尾を巻いて退散した。ヒョウは水の中の死骸を見つけ出すとそれをくわえて疾走し、木の上に運んでしまった。ハイエナは戻ってきたがどうすることもできなかった(sabisabi.com)。

 バートラム(1978)は、ブチハイエナは時にはヒョウの餌食となるが、たいがいはヒョウを撃退するという。ヒョウとハイエナの争いの多くは獲物を巡って起こっており、直接の捕食はごく少ない。そして獲物争いとなるとハイエナが攻撃を仕掛けることがほとんどだが、ピーナール(1969)はヒョウがハイエナを攻撃し、獲物を奪った例を報告している。
 '60年代にゴロンゴロ火口原でブチハイエナの観察をおこなったオランダのハンス・クルークも、ヒョウがハイエナを攻撃してその獲物を強奪するのを見ている。それはハイエナがチーターから横取りしたものだった。ハイエナはヒョウを追いかけたが、ヒョウは獲物を樹上に運ぶと再び地上に降りてきてハイエナを追い払った。

 2003年6月、セレンゲティでシマハイエナがチーターの親子ともめているところが目撃された。どうやらチーターが何か獲物を捕らえてはいまいかと探っていたらしい(ultimateafrica.com)。

シマハイエナ Striped Hyena
 インドからアラビア、北アフリカ、タンザニアまで分布。雌雄ほぼ同大で、インド産の測定例では、体長95〜110cm、肩高65〜75cm。体重は1頭の雄で38.5kg、同じく雌で34kg。
 たいていは雌雄がつがいをなしており、単独行動は珍しい。時には5、6頭の家族群が見られる。
 シマハイエナも自ら狩りをすることが珍しくない。ヤギやヒツジ、仔牛など家畜を襲うことがある。

雌のヒョウが近づいてきたシマハイエナを追い払う
 19世紀から20世紀にかけての中央アジアでは、シマハイエナは悪名高い人食いだったことがある。特に寝ている子供がよくさらわれた。トランス−コーカサスでは1年で25人の子が襲われ、3人の大人が傷を負った年もある。シマハイエナはたいてい夜に、庭や農場に侵入してきた。ハイエナは犯罪者の烙印が押され、警察は1頭あたり100ルーブルの賞金を付けた。
 アゼルバイジャンでは、1930年代に入ってもハイエナが庭で寝ている子を襲う事件が相次ぎ、1942年には小屋に侵入した1頭のシマハイエナが、そこで眠っていた警備員に咬みつき負傷させた。トルクメニスタンでは子をさらう事件は1948年まで起こっていた。次第にシマハイエナの生息数が減少し、それにつれて人の被害も少なくなった(Heptner and Sludskii, 1992)。


ブチハイエナ Spotted Hyena
 サハラ以南のアフリカに分布。体長120〜150cm、肩高75〜90cm、体重45〜85kg。雌の方がやや大きい。群棲することが多いが、地域によっては単独の個体もめずらしくない。

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