2002年11月、獲物のサンバーを盗もうとしていたヌマワニを雌のトラが攻撃した。トラはワニをサンバーから引き離そうとしたが、ワニは強大な尾を振るって反撃。ついにトラはワニの首を捕らえることに成功して咬み裂いた。しかしワニはトラをふりほどき湖に逃げ込んだ。トラはサンバーを子供が待つところまで引きずって行った。
 翌日、ワニは湖岸に横たわっていた。それは死んでいるように見えた。水を飲むためにやってきたトラが踏みつけようとすると、ワニはそれを払いのけるように動き、尾を振り回した。水を飲んだ帰りにはトラはワニを無視していた。ワニが死んだのはその翌日だった(Fateh Singh Rathore)。

 インド連邦林野局の森林官、カイラシュ・サンカラは1954年にトラとワニが戦う場面に遭遇している。トラが川を渡っているときに、それを見たヌマワニも水に入りトラに接近したのだった。そのワニはトラと平行に泳いで、長い尾でトラを叩き始めた。
 苛立ったトラは早く泳いでワニの追撃をかわし、足の付く所まで辿り着くと、吠えながらワニに突進し、咬みついて岸迄引きずり上げ4mも投げ飛ばした。そして数分後にはワニを殺してしまった。(タイガー、1977)

Ranthambhore の湖岸付近である夜にヌマワニが陸上でシカを捕らえた(IndianNatureWatch

ヌマワニ(Mugger)
 Indian Marsh Crocodile

 イラン東部からバングラデシュ、ネパールからスリランカまで分布する。川や湖の他、ため池や灌漑用の水路などにもすむ。中型のクロコダイルで普通3mくらい、最大のもので5mに達する。
 ヒョウやニシキヘビ、ドールを襲うこともあり、稀には人も殺される。


 1900年代初期、ルーズベルト大統領の一行は、ジャガーがカイマンを攻撃するのを目撃している。この時ジャガーは2m近いワニの頭を一噛みで砕き、それから胸を引き裂いた。ジャガーは外見はヒョウに似ているが、体に不釣り合いに大きな頭と頑丈な顎を持っているので、トラのような力強い戦い方をする。

 1932年、インドの森林保護官が、トラの殺した獲物に近付いて行くヌマワニを目撃した。あまり離れていない茂みの中にいたトラは、ワニが食べようとしたところを捕らえた。
 初めワニは反撃しようとしたがすぐに逃げ出した。しかし間に合わず数分でトラに殺された(サンカラ、1977)。

 またウガンダでも、ナイルワニがライオンの獲物を盗もうとして逆に殺されてしまったことがあった(Cott, 1961)。
 ワニの多いアルバート湖(ウガンダ)やルドルフ湖(ケニヤ)からは頻繁にワニを殺して食べるライオンの報告が来ている(グッギィスベルク, 1961)。
 そして Minton(1973)によれば一度は船に乗った大勢の観光客が、ライオンがワニを殺す一部始終を目撃した。

 アリスター・グレイアム(1973)は、ケニヤで彼らのキャンプ周辺をうろついていた2頭のライオンが、岸辺で寝ていた3.3mほどのワニを殺したのを確認している。
 ライオンは、かなりの格闘の末、ワニを殺して食べていった。夜間、その格闘の騒ぎを耳にしていたグレイアムは、朝になってから両者の遭遇の様子を示す痕跡と残骸を見つけた(夜明けの瞼)。


※ SKID さんから知らせていただきました。
 2003年11月、Hal Brindley が南アフリカのクルーガー国立公園でヒョウがワニを襲うところを目撃している。ヒョウはワニを陸上に引き上げ、仰向けにひっくり返して喉に咬みついた。
 アメリカの写真家、Hal Brindley が車の中からカバを撮影していた時、何かが藪の中から走り出して水辺に突進した。戦いの後、ヒョウがワニを水から岸に引き揚げた。ヒョウに首を咬まれながらも、ワニは反撃を試みていたがその顎はむなしく空を切るばかりだった。ワニを窒息せしめたヒョウはその死体を加えて藪に戻り、車中にいた観察者の視界から消えた。この間ほぼ5分。
 ワニがヒョウを襲うことはそれまでにも知られていたが、ヒョウが自分より大きいワニを攻撃するのは極めて異例だという。Brindley は公園監視員にこのような光景を見たことがあるか訪ねたが、彼らは否定した。ヒョウにとってワニの肉はそれほどの危険を冒す程の価値はないと(MailOnline)。


 ワニもやられてばかりではない。
 ガンジス川下流のデルタ地帯、スンダーバンスはインドではトラとイリエワニが共存している唯一の場所(サンカラ、1977)だが、トラがイリエワニに食い殺されたことがあると、バートン(1933)が述べている。

 ハンターのピットマンはインドでヌマワニに殺されたヒョウの死体を発見している。どうもワニはヒョウの死骸を川岸に置き去りにしたようだった。ハンターが近づいてきたためかもしれない(小原、1980)。

 南アフリカの Mala Mala Game Reserve で大きなワニが若いヒョウを捕らえた

 グッギィスベルグ(1961)は観察を続けていた雌ライオンが1958年4月に尾を失っていることに驚いた。川でワニに咬みつかれてそれを振り切ったために尾が切れたと推測した。それでもこのライオンはまだ運が良い方だったかもしれない。

 C. S. Storkes(1953)によれば、川岸で体を寄せ合って水を飲んでいた3頭のライオンが、1頭のナイルワニの尾の一撃で水中に叩き落された。そしてすぐさま巨大な顎にくわえられてしまったそうである。

 スリランカでヌマワニがヒョウの獲物を横取りしている


ワニがライオンを襲う  タンザニアのンゴビ河でヴェルニイ・ロヴェット・キャメロンという探検家が、ある堆積物の中に、ライオン、スイギュウ、ワニそれぞれ1頭ずつの骨が混ざっているのを見つけた。彼が近所の原住民に訊ねたところ:
 1頭のライオンが水を飲んでいたスイギュウに襲いかかり、共に水中に落ちた。そこへワニが現れ、両者のうちどちらかを捕えようとかわるがわる噛み付き、川の中に引っ張った。こうして川岸から10mほど水中に入り込み、2頭の動物はいずれも傷つき、やがて死んだ。

川を渡っていた2頭のライオンがワニに襲われた。※ Kentarou413さんから教えていただきました。

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