ゾウの群は無敵のように見える。近くにライオンがいても平然としている。しかし姿の見えないライオンには警戒する。ケニヤであるとき、ゾウの群が急に緊張したかと思うと、1頭の雌が例のラッパのような大声を発して茂みに近づき、1頭の雄ライオンを跳び出させた。
 群のすべてのゾウが攻撃してきたのでライオンは200mほど離れた森林まで全力で逃げ去った。
 このような時、逃げ場を失ったライオンがゾウの群に踏み殺されることがある。

 Guggisberg(Wild Cats of the World, 1975)はある夜、11頭の雄ゾウが水を飲んでいる時、突然互いに体を寄せ合って防衛の姿勢をとるのを見た。ほどなくして5頭の雌ライオンが同じ水場に現れると、ゾウたちは音を立てずに素早くその場を去った。一方雌ゾウの群が似たような状況でライオンを攻撃し、追い払ったことがあった。
 ザンビアで肩高1.8mほどの子ゾウがライオンの群に殺された時、まず後脚を咬まれて動けなくなり、その後喉を咬まれて死んだ。
 セルースはライオン(群)に下から喉を攻撃されたらしい若いゾウの死体を見つけたことがある。傷は喉にある数個の深い噛み跡だけだった。
 またセルースはボーア人の狩猟家からライオンが雌ゾウを攻撃するのを見たことがあると聞いた。その戦いは数時間に及び、ライオンはゾウの喉を押さえ込もうとしたが、ついに諦めた。ゾウは鼻と脚にかなりの深手を負ったようだった。
 セルースはライオンが成長した雌のゾウを襲うことはあり得ること(within the range of possibility)、つまりはめったにないと考えている。
 ザンビアで雄のゾウがライオンの群に殺されたことがあった。ムエルウ湖付近で、ある宣教師が原住民からゾウの死体を見せられた。彼らによると6頭のライオンがそのゾウを殺した。死体の周りにはライオンの足跡がたくさんあった。しかしゾウの死因がライオンだとのはっきりした証拠は見つけられなかった。

 2004年1月18日、ボツワナのサバンナでライオンの群が子ゾウを襲う場面がテレビ放映された(どうぶつ奇想天外)。ライオンは28頭だったという。この中には子供も含まれているので全員が攻撃に参加したわけではないし、実際に子ゾウを襲撃していたのは2、3頭の雌だったが、何頭ものライオンがその周囲を走り回っていたのでゾウの群も混乱をきたし、子供を守ることができなかった。
 これが数頭のライオンだったらゾウも冷静に対処できたかもしれない。またライオンも意図的にゾウの群を攪乱したわけではあるまいが、結果的にはそうなった。

 ライオンが子ゾウを襲うことは稀にはあったが、通常の獲物リストにはまず含まれていなかった。しかし Derek Joubert が1990年にボツワナで行った観察によれば、あるライオンの群は食事の20%をゾウの肉でまかなったという(死体を食べた分も含めて)。
 ライオンの攻撃の対象となったゾウの年齢は2歳から4歳くらいで、すでに母親の完全な保護のもとにはなく、しばしば群から離れることもある子ゾウだった。

 ボツワナのチョベ国立公園では乾期になるとライオンがゾウを襲うことがある。(

 10月ともなると水場は小さな水たまりとなってしまい、ゾウに占領され他の動物を寄せ付けないのでライオンはゾウを狙うようになる。この時期、ライオンの獲物の半分以上はゾウになる
 National Geographic のデレック・ヒューベアが最初に見た犠牲者は6歳の子ゾウだった。ライオンたちは次第に大胆になり、より年長の子ゾウを襲うようになった。さらには群に正面攻撃を仕掛け、雌ゾウたちを追い払ってその子をしとめるようになった。そしてついに成長したゾウを攻撃し始めた。
 最初ライオンの群は元気な若い雌ゾウに襲いかかったが、しとめることはできず、次に弱った雄ゾウを攻撃し殺してしまった。(National Geographic, 2000.11)

 2003年8月16日、ボツワナでライオンの群が成長した雄のゾウを襲った。ここ Savute Elephant Camp に棲むライオンの群(25頭+子6頭)はゾウを殺すことに習熟しており、これがこの年の10回目のゾウ殺しだった。
 この時にはライオンが食べているところに、別のゾウが近づいてきた。ゾウは両耳を広げ、何度か攻撃のそぶりを見せてライオンを追い払った。渋々引き下がったライオンたちは、そのゾウが死んだゾウを検分しているのを眺めていた。
 死んだゾウはこのゾウの仲間だったのかもしれない。そして仲間のゾウの死を確認し、やがて立ち去るまでライオンたちは辛抱強く待っていた(animalsentience)。


ライオンとアフリカゾウの遭遇。固唾を飲んで見守る 人に対し、当のライオンとゾウにはたいした緊張はなさそうだ。

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