アマゾンの主アナコンダ、半水生で Water Boa と呼ばれることもある。
アナコンダは南米のアマゾン川やオリノコ川などに分布する世界最大の大蛇。初期のスペイン人植民者は、Matatora(ウシ殺し)と呼んでいた。ブラジルではスクリュー Sucuriju gigante の名で知られる。
アナコンダの名はもともと南インドのタミル語で「ゾウの殺戮者」の意味で、インドニシキヘビに与えられたものといわれている(松井孝爾、1977)。
アナコンダは淀んだ水の中で過ごしていることが多く、沼や湿地、流れの遅い川、あるいは流れの速い川でも淀みのできているところなどにいる。しかし完全な水中生活者というわけではない。川の土手で日光浴をするし、小さな個体は流れに張り出した木からぶら下がっていることもある(カール・H・アーンスト、1997)。
2012年11月、スイスのダイバー、Franco Banfi はブラジルのマット・グロッソに出かけ、アナコンダのいる川に潜った、カメラだけを持って。勇気ある53歳のダイバーはアナコンダに触れそうになるぎりぎりまで接近した。彼は6匹のアナコンダをカメラに収めた。中にはカピバラを呑み込んだばかりで、川岸で休んでいるアナコンダもいた(Dailymail)。↑
2015年9月、ブラジルの女性冒険家 Karina Oliani が水中の洞窟で大きなアナコンダと遭遇した。 今まで水中で撮影されたアナコンダとしては最大級だという。初めて見た時、Oliani 夫人はその大きさに戦慄した。頭部を目にした時、体の後の方は見えなかった。大きくかつ水中での速い動きからして、アナコンダがその気になれば自分は簡単に殺されたはずと彼女は語る。しかし数分後にはアナコンダに敵意が無いことがわかったとも。二人(婦人とアナコンダ)はしばらくの間、お互いの周囲でダイブを楽しんだ(Express)。↓
2007年11月、ブラジルの小さな村で民家の庭に侵入したアナコンダが捕らえられた。長さ6m以上、体重は180kg以上もあり、運ぶのは7人がかりだった。動物園に送られたそうだ(ロイター)。↓
アナコンダほど大きさに関して誇張されて伝えられることが多い動物は他にない。
1948年1月、長さ40m、推定体重5tもあるアナコンダがアマゾン川で現地人によって生け捕りにされたという。このアナコンダは大きな獲物を呑み込んだ後で川岸で眠っていたそうだ。この大蛇は船でマナオスまで運ばれ、しばらくの間見せ物にされていたが、後にマシンガンでとどめを刺されたとか。
もう少しまともな話でよく引用されるのは、探検家 Percy Fawcett が1907年にブラジル西部、Rio Negro の近くで射殺した19mのアナコンダ。しかし Wood(1972)はこの大蛇の胴体が直径30cmしかなかったことをおおいに疑問としている。
写真で訪ねる海外の日本人学級
←は読者の方から教えていただいた12m、400kgといわれるアナコンダ。確かに大きいが12mとは大きすぎる。アナコンダは胴が太いので全体が見えないと長さの判断が付きにくい。7mといわれても十分納得できる。
ちなみに12m級のアナコンダはそれが壮健な個体であれば450kgもあるだろうと推定されている(ブレランド、1963)ので、数字のバランスは合っているが(japet.jp)。
アナコンダは最大のものでも9mを超えないといわれる。
そこでよく引用されたのが、ニューヨーク動物園協会が、30フィート(9.1m)を超えるアナコンダに5000ドルの賞金を出すと発表していたが、受け取った人はいなかったという話だ。もちろん参考にはなるが30フィート以上のアナコンダはいないとの証明にまではならないだろう。
もう少し具体的に、では最大のアナコンダはいくらあったのだろう。Karl Schmidt(1957)は29フィート(8.8m)に達したものがあったと述べているが、詳細には触れていない。Gerald L. Wood(1982)によれば、1960年頃に W. L. Schurz がブラジルで撃った巨大なアナコンダは、長さ846cm、胴回りが112cmもあった。体重は量られていないが、200kg前後と推定されている。
2016年9月、長さ10mもある、おそらくは世界記録となるアナコンダが、ブラジル北部のダム工事現場で見つかった。工事で仕掛けた発破の後で見つかったアナコンダは胴の直径がほとんど1m(これは信じ難いが)もあり、またクレーンで持ち上げて量ると400kgもあった。アナコンダはトラックに載せられ、どこかへ運ばれたが、トラックの行き先は不明である(MysteriousUniverse)。
※ hidenoriさんから知らせていただきました。
約11.5m | オリノコ川上流(1944) | 石油技師たちによって銃撃、測定されたが、後にヘビは息を吹き返したらしく逃亡 |
この記録に少なからぬ興味を覚えた Raymond M. Gilmore(サンディエゴ自然史博物館哺乳類学評議員)は1954年にリッチモンド石油会社の Robert Lamon(オリノコ川上流で当のアナコンダを撃ち、測定した一行のリーダー)と連絡を取り事の次第を問い合わせている。
Lamon からの返信によると、彼は測量に使う棹(4m)をヘビの体にあてがって測ったのだが、その3倍(12m)に少し−50cmほど−足りなかった。それで彼は Haverford 大学の爬虫類学者 Emmnett R. Dunn に会った時に約11メートル半と伝えたのだった。しかしだいぶ前のことであり、3倍だったか2倍だったか今(1954年)となってははっきり覚えていないという(Gilmore and Murphy, 1993)。
一時は世界最大のヘビとしてギネスブックにも掲載されたこのアナコンダが本当に12m近くあったのか、それとも8m足らずだったのかは不明なままだ。しかし Lamon は(10年後の曖昧な記憶はともかく)当初は11.5mと報告しているのだからこれを信じるべきかと思われる。
全長(m) | 場 所 | 備 考 |
---|---|---|
10.4 | ガイアナ(1921) | 旧英領ガイアナ博物館の Vincent Roth が Barima 川で射殺した。長さは推定。 |
10.3 | コロンビア東部(1956) | コロンビアの生物学者 Federico Medem による |
9.8 | トリニダッド(1810) | トリニダッドの新聞編集者、R. R. Mole (1924) による |
9.1 | − | Up de Graft(1923)による |
8.2 | ペルー北東部 | Leonard Clark が射殺した。 |
8.0 | ブラジル東部(1948) | − |
7.9 | トリニダッド | 1.5mのワニを呑み込んでいた |
7.8 | − | 約45kgのペカリーを呑み込んでいた |
約7.8 | ブラジル | サンパウロのブタンタン研究所にある皮(10m)からの推定 |
7.5 | コロンビア(1978) | William H. Lamar が捕獲。皮の長さ10.5m |
7.3 | ガイアナ | 生け捕りにされたがまもなく死亡、体重158kg |
7.3 | ブラジル(1904) | 胴回り107cm |
5.9 | ガイアナ | 体重163kg |
アナコンダは飼育が難しく、動物園ではあまり大きな個体は知られていない。ニューヨークのブロンクス動物園にいたアナコンダは長さ5.8m、胴囲91cm、体重107kgあった。この測定後まもなく72匹の子を産んだ(Ditmars, 1931)。
1950年6月にブラジルからピッツバーグのハイランドパーク動物園にやってきたアナコンダは5m、49kgだったが、1957年3月には5.9m、91kgになっていた。さらに1960年7月には6.3mに達したがその後まもなく死亡した。
右の写真は韓国の Kukaka さんから送っていただきました。Serpent Safari にいる Cuddles という名の雌で長さ5.5m、体重なんと170kgもあるとのこと。
同じくらいの長さのアナコンダでも個体によって太さ(重さ)にはかなり開きがある。トリニダッドの新聞編集者、R. R. Mole (1924) が直接見た最も長いアナコンダは526cmで体重は48kgしかなかった。一方彼が見た最も重いアナコンダは、長さ503cm、体重105kgあった。
ブタンタン研究所(ブラジル・サンパウロ)の高名な爬虫類学者、Afranio de Amaral はアナコンダの最大のものは12−14mに達するだろうと述べていた(Serpentes Gigantes、1948)。Wood(1977)はもしこのような大蛇が存在するならば、それは少なくとも500kgはあり、陸上で生活することは不可能だろうと考えた。水中においてのみ巨体を維持することができ、つまりアナコンダは9mに達するまでに陸に上がることを断念し、川や湖の中で生涯を過ごさねばならない、だから見つからないのだと、やや遠回しながら9m以上のアナコンダが実在することを疑問視した。
2009年2月、コロンビア北東部のセルホン炭田で見つかったヘビの化石を調べたところ、それが少なくとも長さ13m、体重2500ポンド(1134kg)はあったことが分かったと発表された。Titanoboa cerrejonesis と命名されたこの「路線バスよりも大きく、自動車よりも重いヘビ」は6000万年前の蒸し暑い熱帯雨林をずるずるとはい回っていたらしい。
現在よりも高温だったのでこのような大きなヘビが存在し得たのではと考えられている。「コロンビアの炭田では巨大なカメやワニの化石も発見されている。巨大生物が主役となるような生態系が存在したのではないだろうか。そこにはやはり年間の平均気温が高いという要因があったのでは」(National Geographic)。
※ ねここねこさん、Yamada さんから知らせていただきました。
史上最大のヘビ・ティタノボアは現在のボア(Constrictor)に近く、生態はアナコンダに似ていたという。見つかったのは椎骨の化石でアナコンダのそれよりはるかに大きい(時事ドットコム)。もちろん全体のはっきりした大きさは断定できず、推定は長さ10.7−15m、体重730−2030kgとかなり大まかな数字になっている(AFPBB)。
陸上での生活が不可能とされる12m級のアナコンダで約500kg、ほぼ同じ長さでさらに倍も重いこの大蛇が水中生活者だったことは当然だろう。とはいえ、地球の温暖化がアナコンダの巨大化を推進するかどうかまではわからないが。
↑これまで史上最長のヘビとされていたのは、3800万年ほど前(第三紀始新世)のニシキヘビに似たギガントフィス Gigantophis garstini で、椎骨や下顎の一部がエジプトの Fayum で見つかっており、長さ11mと推定されている。
また5000万年前に、南米のパタゴニアにいた Madtsoia bai は10−12mあった(Simpson、1933)。