ボアという名前は英米では大蛇の代名詞として使われている。ほかの動物を絞め殺す大蛇を意味する Constrictor という言葉がこのヘビの名前に使われていることからもうなづけることである。しかしながらボアはそれほど大きなヘビではない。

 ボアはメキシコからアルゼンチンまで分布する。熱帯雨林や灌木の茂みに覆われたサバンナに棲み、岩の多い半砂漠地帯やプランテーション、耕作地などでも見られることがある。しかしインドニシキヘビやアミメニシキヘビとは違って市街地への適応は知られていない(アーンスト、1997)。もっともこれには異論もあって、Minton(1973)によればボアは村や町に侵入し、ネズミやニワトリを捕食することがある。
 巨大なイメージとは異なり、3mを超えるものはめったにいない。今までに知られる最大の記録は、Colin S. Pittendrigh が第二次大戦中にトリニダッドで捕獲したもので5.6mあった。これでも大蛇というにはいささか物足りない数字だが、最近この記録はアナコンダの間違いであるとの指摘がなされている(アーンスト、1997)。
 そこでこれを除外するとボアの最大記録は4.3mとなる(シュミット、1957)。ではなぜボアが大蛇の代表のように云われてきたのだろうか?

 先の記録もそうだが誤解の元はアナコンダとの混同にあるようだ。Boa はラテン語で水ヘビを意味するそうだ。これは日常の大半を水中ですごすアナコンダにふさわしい名前だ。アナコンダや大型のニシキヘビとは違って、ボアはめったに水には入らない。昔、熱帯アメリカを探検した人々はボアとアナコンダを区別しなかったようである。これらのヘビがよく似ているわけではないし、現地人ははっきり区別していたのだが。  若い個体はよく木に登り樹上で獲物を探す。しかし年を経て大型になったものは地上でしか狩をしない。各種の鳥や小型のサルを捕らえる。オセロットという大型のヤマネコを襲うこともあるという。しかしオセロットには逆に餌食にされることもある。
 ボアは現地の人々からは恐れられているといわれる。ボアは人を獲物にできるほど大きくはないが、攻撃性が強く、噛まれると深い傷を負うためである。

 一方でボアはペットしてよく飼われている。頭と尾をしっかりと引っ張って、丸くなれないようにさえすれば、何の危険もなく扱うことができる。
 アメリカでは飼われていたものが逃げ出したり、捨てられたりして都市部で見つかることがよくある。また輸入されたバナナの箱の中に潜んで密航?してくるものもあった。たいていは最初の冬に寒さに耐えられなくて死んでしまうが(Minton,1973)。野生のボアで温帯地域に棲むものは冬眠するといわれる。
 日本でもペットショップで見かけることがある。大きくないといっても2m以上になるから飼うにはそれなりの準備が必要だ。餌は主にマウスやラットが与えられる。生きたネズミを平然とボアに与えられるペット愛好家というのはいささか理解し難いが。

 ボア類は中南米や西インド諸島に約30種が生息している。しかし大蛇といえるのは Boa Constrictor 以外ではキューバボア Cuban Boa くらいだろう。Minton や Schmidt によればこれも最大4.3mに達する。このヘビも森林以外にサトウキビ畑や沼地、海岸などでも見つかっている。また洞穴に入り込み、コウモリを食べることもある(→)。

エメラルドボア Emerald Tree Boa
 南米ガイアナやブラジルに棲む。美しい緑色をしたボア。2m前後。樹上性で体を前後に振り分けた独特のポーズで枝に止まる(↓)。



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