インド、東南アジアからオーストラリアにかけて広く分布するイリエワニ Estuarine Crocodile はワニの中でも最も大きく世界最大の爬虫類だ。。長さではアナコンダやニシキヘビの方が上回るが、体重では比較にならない。
十分に成長したものだと長さ5m、体重590kgに達する(スマトラ産の測定例。頭骨は635mm)。
だいぶ前のことだが伊豆・熱川のバナナ・ワニ園で見た一頭のイリエワニは巨大だった。4mということだったが一抱え以上もありそうな胴回りは圧倒的で、他のワニが皆子供に見えたほどだった。
インド東部、オリッサの保護区には7m以上といわれるイリエワニが生息している。さらにもう3頭、6m以上と思われる個体がこの保護区にいる。
↑ワイルドライフ・シドニー動物園のイリエワニ Rex。冬眠から覚めて最初の食事中(2015年10月15日)
オーストラリア北部で捕獲され、ダーウィンのクロコダイル・ファームから送られてきて、2009年からシドニーの動物園で飼育されている Rex は長さ5m以上、体重700kgもある。飼育主任の Michael Craigによれば、Rex はこの年(2015年)は4月から冬眠に入っていた。
ワニは冬になると通常、活動を休止して体内に残ったエネルギーのみで生き延びる。周囲が暖かくなると、食欲も復活するという。Rex は2012年には冬眠は3ヶ月で、10月3日に目覚めたそうだ。野生の頃、Rex はペットのイヌを狙って住宅地付近に出没するようになったため、捕らえられた(AFPBB)。
野生のイリエワニも冬眠するのだろうか? 生息地はほとんど熱帯地域なのだが。
タイのワニ養殖場 Samutprakarn Crocodile Farm and Zoo には長さ6m、体重1114kgもあるワニ(イリエワニとシャムワニの混血)が飼われている。
thailandlife.com によれば2000年6月10日にこのワニ Chai Yai が28歳の誕生日を迎えたとある。ギネスブック(1992)に初めて掲載された時はまだ19歳、成長がかなり早かった。
2002年6月、アメリカはサウス・カロライナの North Myrtle Beach にある Alligator Adventure にタイから6mもあるワニがやってきた。シャムワニとイリエワニの混血というからこれはチャオヤイなのだろうか(1964年生まれとなっているが)。ここでは UTAN と呼ばれている(↓)。
↑2004年、Black Hills の Reptile Gardens にオーストラリアの動物園から Maniac という名の大きなイリエワニがやってきた(1970年生まれ)。全長4.8m、体重567kg。 | ↑アメリカに向けて10日間の旅が始まる。 |
← Craig ファミリーの一員
Cassius 5.5m
1968年にニューギニアの Fly 川で捕らえられ、パプア湾の Daru 島で飼われていた Gomek という名の大きなイリエワニは、1990年にフロリダの St. Augustine Alligator Farm に移ったが長さ5.5mに達した。ギネスブックにも掲載された Gomek は1997年に死亡している。
現在 St. Augustine Alligator Farm には Maximo という名のイリエワニが飼われている。1971年にケープ・ヨーク半島で採集された卵から孵った1頭で、Cairns Crocodile Farm で養育されていた。長さ4.6m、体重567kg。
またGomekと同じ頃、Daru 島にいた Oscar という名の方は5.5mあった。
所有者 George Craig は1971年に彼のワニをオーストラリアのグリーンアイランド、Marineland Melanesia に移している。George Craig が生け捕りにした最大のイリエワニは5.9mもあったが残念なことにすぐ死んでしまった。
オーストラリア動物園で飼われている Acco (→) は全長5m、体重はなんと1tという。72歳のご老体ではあるが、1tは重すぎないだろうか?
同動物園で2番目に大きな Agro が4.6mで600kgというのだから。
ワニは老熟すると共に体の伸びは僅かになるが胴回りは大きくなる。老ワニは若い個体に比べて相対的に重い傾向はあるが。
オーストラリア北部、ウィンダムにある Wyndham Crocodile Park には3000頭以上のワニが飼育されている。右はその中でも最大の個体でこれも長さ5.5mで、体重は900kgもある→
生け捕りにされたワニで最大のものは、キンバリーのクロコダイルハンター、Frank Wyndlham がシドニーのタロンガ動物園に送るために罠にかけたイリエワニかもしれない。
しかし暴れて罠の口周り部分を壊し、500kgの木材を引きずってケンブリッジ湾に逃げ込んでしまった。罠は20フィート(6.1m)あり、このワニの尾はそれから2m余りもはみ出ていたという (Ion Idriess, 1946)。
↑オーストラリアのダーウィンにある Crocosaurus Cove では観光客は20分の間、巨大なイリエワニと顔をつきあわせることができる(DailyMail)。
伊豆・熱川のバナナワニ園には1972年からイリエワニのアルビノ個体が飼育されている。2000年10月の時点で推定30歳前後、長さ4m、体重は推定で400kgとなっている。2009年5月にバナナワニ園に行かれた狐塚さんからこの白いワニは長さ4m以上あり、肉付きも良くワニ園では最大のワニだと知らせていただいた(写真↑も送っていただきました)。
2005年に私がワニ園に問い合わせた時の返信では、当園のイリエワニは4mくらいあるとのことだった。狐塚さんによると、現在ワニ園にはイリエワニの大物が3頭いてそのうち白い個体を含め、2頭は少なくとも4mはあるようだ。
シャムワニ
シャムワニ Siamese Crocodile はインドシナからマレー半島にかけて分布する中型のクロコダイル。イリエワニほどには大きくない。最大で3.7m(Karl Schmidt, 1957)、3.5mを超えない(Malcolm Penny, 1991)とされていた。しかし別府の鬼山地獄にはこれをかなりしのぐ大型の個体がいる。
別府の鬼山地獄、別名「ワニ地獄」には世界のワニ約100頭が飼育されている。大正12年に日本で初めて温泉熱を利用し、ワニ飼育を開始した。日本で飼われている最大のワニは熱川・バナナワニ園のイリエワニだと思っていたが、ここには4.5m、500kgもあるシャムワニがいる(1949年生まれ)。
そして1925年にここで生まれ、1996年に死亡したボルネオ産のイチロウ(→)という名のイリエワニは7mにも達し?世界最大のワニだったという。現在剥製が売店の一角に展示されている(鬼山地獄)。
※ このワニのことは堀江さんから知らせていただきました。
日本最長寿のワニが、いつしか最大のワニと切り替わり、長さも誇張されて7mになっていたといわれる(ワニガメ生態研究所)。
↑ 上の写真はTOKIWA 日記さん(身長171cm)が自らタバコガールとなり、イチロウと並んで被写体におさまったツーショット。少し離れていることや、イチロウの尾がまっすぐではないことを考慮すると4.5mくらいだろうか(TOKIWA 日記さんへ:写真を使用させていただきありがとうございました)。
※ TOKIWA 日記さんのブログは富山さんから知らせていただきました。
イリエワニは10mに達する ?
オーストラリア北部・カーペンタリア湾岸のボロルーラで漁師が射殺したイリエワニ。長さ6.3m、体重は1855kg(?)もあったという。↓
昔から最大のワニとしてよく引用されるのが、1840年にインドのベンガルで捕獲されたもので全長10m、胴回り4.2m、推定体重3t もあり、頭骨がロンドンの大英博物館に保存されているとのことだった。
頭骨の長さ927mm、幅476mmといわれていた。これでもとても10mはないが、A. E. Greer(1974)が再測定したところ長さ655mmしかなかった。本来鼻先から後頭部の端までのところを下顎の後端まで測定されていたようだ。
また大英博物館には別にもう少し大きな頭骨があり、これはドキュメントが失われているので何もわからないがその長さ715mmから推して全長6m以上あっただろう。
もうひとつ有名なのが、1823年にフィリピンのルソン島でしとめられた人食いワニ。このワニに殺された知人の仇をとるために Paul de la Gironiere とその一行は数週間の探索の後、小さな川に追い込みさらに6時間以上もの激戦の末にしとめた。恐ろしく巨大なワニで陸に引き上げるのは40人がかりの大仕事だった。全長8.2m、胸囲3.4m。朝食 ? に食べたウマの死骸が胃の中で見つかった。
このワニの頭骨はボストン博物館に送られ現在はハーバード大学比較動物学博物館に保存されている。この頭骨を調べたシカゴ自然史博物館のカール・シュミットは全長22フィート半(6.86m)以上あったとは思えないと1944年にコメントしている。
その頭骨は長さ3フィート(91cm)近くあり、現在種のワニの頭骨としては最大の標本とされていたが、これもおそらく下顎の測定だろう(↓)。
1930年頃、ボルネオ島北部でゴム園の経営者が10mはあると思われるイリエワニを目撃している。これは単なる目測ではなく、ワニが日光浴をしていた砂州を測定してのことなので信憑性は高い(Malcolm Penny, 1991)。
同じ頃、バリ島の西海岸でも砂浜に残る左右の足跡の幅が1.5mもあるワニが目撃され、全長は約10mあっただろうといわれている。
確認されている最大のイリエワニは、1957年7月にオーストラリア北部、カーペンタリア湾に注ぐ Norman 川で、Krystina Pawlowski が射殺したもので長さ8.6m、推定体重2t もあった。
Krystina Pawlowski は5000頭ものイリエワニを撃ち、逃したのは僅か3頭という。当時、オーストラリアで最も変わった仕事をしている女性として知られ、付けられたあだ名が One Shot Krys。
彼女の夫、Ron はワニの専門家だそうだが、彼が確認した10287頭のイリエワニの中で5.5mを超える個体は他にはなく、8.6mがいかに突出した大物か窺える。
第2次大戦中、戦禍を逃れてポーランドを脱出した夫妻は、後年、ワニの保護に乗り出すが、Krys は2004年3月、残念ながら75歳で他界した。
Dick Eussen(2001) によれば4.5〜6mクラスのワニは決して稀ではない。彼はオーストラリア北部のアーネムランドやヨーク岬でそれくらいもあるワニを撮影してきたという。そしてアーネムランドの Goyder 川には8m以上もあるイリエワニが生存していると。しかし彼もこの大ワニの撮影にはまだ成功していないようだ。
オーストラリア北部、Normanton の宣教師、エルトン・トンプソンは2010年11月に、Norman 川で巨大なワニの足跡を撮影した。それは幅が25cmあり、深さは2.5cmに達していた。左右の足跡の間隔は1m、これから推して胴体(中央部)の幅は1.5m以上、全長は8mもあるだろうと彼は言うのだ。彼自身はこのワニを目撃してはいないが、何人もの人々が川に潜むこのワニを見ており、皆それは今まで見たことがない巨大ワニで8m以上あったと語った。この地方ではワニは珍しくなく、川のあちこちで見られる。ワニは地域の一部であり、人々を煩わせることは無いともトンプソンは言う (News.com)。
※ Erika さんから知らせていただきました。
アーモンド・デニスが1929年にバリ島の西海岸で見たという10mの大ワニが、砂浜に残した足跡は左右の幅が1.5mもあったのに比べればたいしたことはないとまでははいわないが、6mクラスのワニでもそれくらい(左右の開きが1m)の足跡は残せそうに思える。一方、オーストラリア北部の沿海地方には、大きなイリエワニがまだまだいそうだとの期待を膨らませてくれる。
↑1997年にオーストラリア北部の Manangoora で射殺されたイリエワニ。長さ6.7mもある。ウシやヤギを襲い続けたため農夫によってしとめられた。このワニを Wearyan 川から引き上げるために2台の軽トラが必要だった。近辺にはこれよりも大きいかもしれないワニがまだ2頭いるという(MailOnline)。
※ hidenoriさんから知らせていただきました。
オーストラリアの Adelaide 川で、棒からぶら下げた肉片でガイドが引き付けているのは現地で Brutus と呼ばれているイリエワニ、長さ5.5m、体重2000ポンド(約900kg)もある。観光客は触れることができるほど間近で巨大なワニを目にすることができる。呼び物のアトラクションだ。ブルータスには右の前足が無い。沿海に出たときにサメにやられたものといわれている。それはどれほど大きなサメだったのだろうかと想わせるが、もちろんブルータスがまだ子ワニの頃にサメに噛み付かれたのかもしれない(MailOnline)。
左の写真は信憑性が疑われているとして、TODAY.com が Jumping Croco クルーズに参加し、ブルータスの実在を確かめた。周辺には更に大きな(6m)イリエワニが生息しているという。 ※ hidenoriさんから知らせていただきました。
2014年8月、ブルータスがサメに報復する? 光景が目撃された。ブルータスがオオメジロザメに噛み付いている上の写真は、8月5日、シドニーから来ていた Andrew Paice によって、アデレード川のクルーズの際に撮影された。ブルータスは約80歳の高齢と推定されており、歯もほとんど失われている。彼はサメを飲み込んだのだろうか。観光客が目撃したとき、サメはまだ生きていた。ブルータスはサメをくわえてマングローブの中へと泳ぎ去った。獲物を守ろうとしたのかもしれない(Mail OnLine)。
オオメジロザメ Bull Shark は海洋だけでなく、河口の汽水域や川の上流部、湖などの淡水にも生息する。3mを超える個体は少ないが、人を襲うことでは悪名高いサメである。
←ボルネオで捕らえられたイリエワニ。4〜5mということだが詳細はわからない。生け捕られたのか、射殺されたのかも不明だ。人か家畜を襲ったりしたのだろうか。
なんかかわいそう。生きてるだけなのに。
なんでこういうことされないといけないの。
どこまで大きくなるか記録作って欲しかった
といったコメントが寄せられている。
2011年9月、フィリピン南部ミンダナオ島の南アグサン州ブナワンで長さ6.17m、体重1075kgもあるイリエワニが捕えられた。フィリピン環境天然資源省当局者によれば、これまで捕獲されたワニの中で世界最大。人やスイギュウを襲った可能性があるという(時事ドットコム)。
ワニはフィリピン南部ミンダナオ島の湿地帯で9月3日日に捕まった。約30人がかりで21日前から行方を追っていたが、餌に誘われて頑丈な金属ワイヤでできたわなにかかった。
ワニは、地元の漁師や少女を食べた人食いワニではないかとの疑いもかけられている。しかし当局は、このワニが「犯人」だったかどうかは分からないとしている。ワニは捕獲作戦を計画中に倒れて死亡した男性の名を取って Lolong と命名された。今後は地元の自然公園で飼育して観光の目玉にする計画だという(CNN)。
※ ロブ君さん、空のパパさん、ざりがにさん、SKIDさん、Biffさんから知らせていただきました。
ミンダナオ島で少女と漁師の二人を殺したとされ、2011年9月に捕獲されたイリエワニが、2012年7月、捕獲された中では世界最大のワニとしてギネス世界記録に正式認定された。登録された全長は6.17m。当初は6.4mといわれたが、これはアメリカのメディアが21フィートと報じたためかもしれない。
このワニ、Lolongは1か月あたり体重の1割相当の牛肉や豚肉、鶏肉が与えられていたが、ダイエットが必要と専門家が指摘。現在は与える肉の量は8〜10kgに減らされたという(AFPBB)。
※ hidenoriさん、ざりがにさん、わたぴーさんから知らせていただきました。
2013年2月、飼育下で最大のワニ Lolong が死んだことが発表された。ミンダナオ島の飼育小屋で、10日夜、原因不明の疾患により死んだという。現地では剥製にして保存しようと考えている(AFPBB)。
※ 石井さんから知らせていただきました。
↑京都動物園の図書館に展示されているイリエワニの剥製。全長444cm、胴囲154cm。飼育していたワニではなく、剥製として寄贈されたものらしい(京都岡崎)。
全長(m) | 場 所 | 備 考 |
---|---|---|
9.0? | インド西部、マラバル海岸(1895) | 頭骨の長さ88.5cm ? |
8.4 | 東インド諸島(1705) | Alexander Hamilton による |
8.2 | Staaton River クイーンズランド(1970年代初頭) | |
7.6 | オーストラリア・ケアンズ(1929) | Claude Le Roy が爆薬で殺した |
7.6? | カルカッタ(1930) | インディアン博物館に保存されている頭骨は75cm |
7.4 | Staaton River クイーンズランド | 1950年代中頃に Peter Cole がしとめる |
7.0 | ボルネオ | Major Moulton による |
約6.8 | クイーンズランド(1975) | 遊泳中の人を食い殺した直後に捕獲されたが、尾の一部が失われていた |
6.7 | クイーンズランド(1948) | George Snow が Albert River で射殺 |
6.7? | − | シンガポールのラッフルズ博物館所蔵の頭骨は69.8cm |
6.4 | セイロン(1924) | 頭骨の長さ72.4cm |
6.3 | ニューギニア(1966) | 胴回り2.7m |
6.2 | ニューギニア(1979) | 頭骨の長さ72cm |
6.2 | オーストラリア(1974) | − |
6.15 | オーストラリア北部(1960) | 頭骨の長さ76cm |
6.1 | オーストラリア北部(1962) | 体重1097kg。老齢のため家畜を襲うようになり射殺された |
クイーンズランド大学の研究チームが2006年、2頭のイリエワニに発信器とセンサーを取り付け、1年にわたってその行動を追跡した。その結果、イリエワニは引き潮を利用し、河口の方向に流れる表面流に乗って10km以上の距離を移動することがわかった。流れが変化すると、川岸に上がるか川床にとどまって“サーフィン”に適した表面流が来るのを待っていた。
外洋でもイリエワニは、海流を利用して100km以上の距離を“ボディーサーフィン”で移動することがわかった。オーストラリア北東部のヨーク岬半島沿いに約590kmの距離を25日間かけて旅した“クロコダイル・サーファー”さえ存在した。このような長距離を泳いで移動する理由はまだよくわかっていないが、イリエワニは交尾の相手や餌を探すために旅をしている可能性があるという(National Geographic)。