アメリカワニ

 アメリカ合衆国にはアリゲーターの他にもう1種のワニがいる。こちらはクロコダイルでフロリダ南部で見られる。ここからカリブ海の島々(アンチル諸島)、中央アメリカ、南アメリカ北部まで分布する。海水、汽水域にも棲む。
 アメリカの爬虫類学者の中には最大のワニとしてこのアメリカワニ American Crocodile を挙げる人もいるが、それを裏付けるほどのデータは知られていない。
 5mを超えるものが珍しくなく、6.7mもあるものが目撃されたといわれるが…(アニマルライフ154)。
 最大のアメリカワニとしてよく引用されるのは7mというベネズエラ産の古い記録だが詳しいことはわからない。またニューヨーク自然史博物館には長さ729mmの頭骨が保存されている。これも詳細は不明だがかなり大きい。
 ニューヨーク動物学会の創設者の一人、William Hornaday は1875年にマイアミで4.6m(尾の先約15cmは失われていた)の雄と3.3mの雌を撃ち止めている。
 また1890年代に現在のマイアミ・ビーチで Ralph M. Munroe が長さ4.4mのアメリカワニをしとめている。このワニの標本は今でもニューヨーク自然史博物館に展示されているそうだ。
 フロリダのオーランドにある gatorland には長さ4.5m以上、体重450kgを超えるアメリカワニが飼われている。飼育下では最大の個体だろう。

アリゲーター対クロコダイル

 1925年、マイアミはビスケー湾の沿岸で測量士の一行が大きなアメリカワニを撃った。一人が死んだかに見えたワニの背中に乗り、蹴り付けたところ、それで息を吹替えしたワニが尾で激しい一撃を加え、更に攻撃してその男を殺してしまった。
 ワニは生け捕りにされ、後に Ross Allen's Reptile Institute に送られた。ここでワニは1953年まで生きていた。隣の囲いに侵入したこのワニは、そこの住人(巨大なアリゲーター)に殺されたのだった。このクロコダイルは長さ4.4m、推定年齢は65歳だった。
 このアリゲーターとは、上の表にある Big George のことだろうか? 年代はあうのだが未確認。

 2013年11月、メキシコのゴルフ場でイギリス人観光客がワニ(約3.6m)に襲われて重傷を負う事件が起きた。彼の友人たちがゴルフクラブで打ち、バギーをぶっつけてワニを撃退した。被害者の傷は深く、脚を200針も縫わねばならなかった。ここのゴルフコースにはワニがいることは以前から知られていたという(DailyMail)。
※ hidenoriさんから知らせていただきました。

アメリカワニ

 2013年9月にもメキシコでワニが10歳の少年を殺す事件があった。環境保護局によると、少年は兄弟と一緒に、ワニの生息域から5km以上離れた所で遊んでいた。少年の頭に噛み付いたワニ(約4m)は捕らえられたが後に本来の生息地に戻された(news.com.au)。

 アメリカワニは平均全長3.5mくらい、大型の種ではあるが人に危害を加えた例はほとんど知られていない。むしろ性格は臆病だといわれる。フロリダのエバーグレーズ国立公園では、アリゲーターよりも攻撃的でないとされているほどだ。

 中米コスタリカの首都のサンホセの南西約100キロのタルコレスでは、いくつかの旅行会社が、タルコレス川を船で移動しながら自然の生息地に暮らすアメリカワニを見物するツアーを観光客に提供している。
 ツアーの一環として、ガイドがアメリカワニに手から餌をやってみせるデモンストレーションなども用意されている(AFPBB)。


25歳、4m
中米・ベリーズでは住民に親しまれていた4m、25歳のアメリカワニジョージが、2008年、アトラクションから引退し、南部の保護区に移送されることになった。そこでワニは平穏な余生を送ることになるという(Belize Picture)。

 タイなどではワニの口の中に頭を入れるショーがよく見られるが、中米のコスタリカでも長さ16フィート半(5m)もあるアメリカワニを相手にこれをやる人がいる。
 2003年に家に侵入してきたワニが、農民に捕獲され、この人が引き取ったそうだ。今では口の中に頭をいれてもぐしゃっといかない程仲良くなったという。いくら馴れているとはいえワニのこと、全幅の信頼はおけそうにないと思えるが(Ouroboros)。


ポチョ  これもコスタリカのアメリカワニ。20年ほど前にハンターに撃たれて瀕死の状態だったワニを、地元の漁師が助けたのが縁で人とワニとの交流が始まった。
 長さ5.2m、体重445kgの大ワニ、ポチョは、名前を呼ぶと彼の方に近寄ってくるようになり、見世物として一般に公開することを勧められたそうだ。今ではコスタリカの観光名物の一つとなって、多くのツーリストが見学に訪れているという。
 現在、Pocho は50歳くらいと推定されている。まだしばらくは観光客を楽しませることができるだろう(The Sun)。
※ hidenori さんから知らせていただきました。

Cuban Crocodile
 キューバだけに生息する小型のワニ。全長2m前後、最大のもので3.7m。ワニの中では分布が最も狭い種であり、また最も希少なワニの一つでもある。最近では南西部の Zapata 半島の沼地でしか見られない(南方のピネス島にも生息していたが既に絶滅したといわれる)。
 1965年の調査では生息数が300頭ほどと推定された。後に周辺地域が保護区に指定され、1982年頃には3000頭ほどに回復しているが、その後は増えていないようだ。
 キューバにはアメリカワニも分布しており、両者の交雑が自然状態でも飼育下でも確認されている。そのために種としての存続が危ぶまれている。

 キューバワニはクロコダイルとしては口吻部が幅広く短い。陸生に適したワニであるといわれ、脚は頑丈でまっすぐ伸ばして、腹部を地に着けずに歩く(High Walk)姿がよく目撃される(Malcolm Penny, 1991)。

 ハバナ大学の研究チームが、捕獲された野生のキューバワニおよびアメリカワニ89匹と、人工飼育されている個体2匹からDNAサンプルを採取し比較した。 すると驚いたことに、キューバに生息するアメリカワニは、中央アメリカの他地域に生息するアメリカワニよりも、遺伝的にはキューバワニのほうに近いことが明らかになった。
 この結果は、アメリカワニとキューバワニの交配が、これまで考えられていたよりもはるかに進んでいたことを示唆している。異なる種同士が交配して雑種が生まれると、遺伝子が混合し、その結果、一方の種が他方の種を絶滅させるおそれがある(NationalGeographic)。

 キューバワニは小さいが、装甲は頑丈であり、また非常に aggressive(攻撃的)であるといわれる。1.8mほどのキューバワニが、1.5倍も大きなアメリカワニを攻撃することもあるという。飼育下でもかなり扱いにくいらしい(Neill、1971)。

キューバワニ

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