角竜は、恐竜の中でも最後に進化したグループで、ほとんどが北アメリカで繁栄した。四足歩行性で、巨大な頭は恐ろしい角で武装されていた。頭骨は後側に骨質の襟飾りが突き出していて、首を保護していた。また顎は、その先端がオウムの嘴状に尖っていて、固い葉を食べることができた。
 角竜は当時のウシ、ないしはサイといった存在で、肉食恐竜の攻撃にさえ立ち向かうことができただろう。これら角竜(ケラトプス)類の中でも、最大で、最も新しい種が、トリケラトプス Triceratops だ。

Triceratops horridus の頭骨。
 長さ1.7m、高さ1.1m。
(South Dakota 地質学博物館)

 トリケラトプスは中生代白亜紀の末期、およそ6600万年前にカナダ南部から合衆国中部にかけて生息していた。多くの恐竜が数個の骨しか見つかっていないのに対し、トリケラトプスは数百個の頭骨が発見されている。これによりウマとシマウマほどの違いを同定できるとして、以前は15種以上に分類されていた。しかし最近では、性別や年齢差などの範疇にはいると考えられ、1種のみであるとする説が有力だ。
 たとえば東海大学自然史博物館はトリケラトプスは Triceratops elatus ただ1種であるとしている。一方、コロンビア大学では、Triceratops horridus だけが識別される種であるという。

ニューヨークのアメリカ自然史博物館所蔵標本
 Triceratops elatus
 全長(背骨に沿っての測定)7.1m。
 標本の長さ(直線)5.8m、高さ2.3m。
 頭骨の長さ(襟の後端から嘴の先端まで)2m。
 顎の長さ1m。

 これぐらいがトリケラトプスの平均的な大きさだ。現在のインドサイ(肩高1.8m、体重2t)との比較から、推定体重5tというのはいささか過大だろうか
 ユタ州の Brigham Young 大学には最大のトリケラトプスといわれる頭骨がある。一部破損しているが完全ならば2.5mくらいあり、全長は7.5m以上に達しただろう。

福井県立恐竜博物館所蔵の頭骨
 長さ2.1m(大阪市立自然史博物館・特別展)

 1998年、ブラックヒルズのスタッフがワイオミングで発掘したほぼ完全なトリケラトプス Triceratops horridus の骨格(愛称 Kelsey)。恐竜時代の最期、6500万年前の地層から掘り出された。高さ2.5m、長さは約6m、頭骨全長2.1m。一緒に見つかった歯の化石から、肉食恐竜の群に襲われたのだろうと考えられている(Black Hills Institute)

トリケラトプス


復元された Kelsey の骨格、全長5.7m(大阪市立自然史博物館・特別展)

 トリケラトプスは額に2本、鼻の上に1本の角があり3角竜と呼ばれる。額の角は骨芯だけで90cmもあり、実際の角はもっと長かっただろう。
 角竜の角や、頭骨の半分を占める大きな襟飾りは、肉食恐竜に対する武装よりも、雄同士の争いや求愛のディスプレイの意味合いが強かったのではないかと言われている。現在のシカやヒツジの角のように(fossilmuseum)。
 角がディスプレイの効果を持つのは、ウシも同様だが、これらの角は武器としても効果的に用いられている。トリケラトプスはヤギュウの肩部脊椎骨のような長大な突起の発達はないが、第1・第2頸椎骨が哺乳類的に発達しているので、頭を上下左右に動かすことがうまかったと考えられる(鹿間、1979)。
 一方フリル(襟飾り)の方は−角竜の種類によって形にだいぶ変化があるのだが−子供から成体まで多数の化石が見つかっているプロトケラトプスでは、フリルの発達はほぼ成体の大きさに達してから急に進み、雄では雌より大きくかつ目立つようになっている。このことはフリルが性成熟に伴って発達し、その大きさや形が生殖に関係している、具体的にいえば雌へのディスプレイを意味するという。
 角竜類でも特に長大なフリルを持つ種類では、その大きさによって向き合った競争相手を威嚇したのではないかと推測される。化石ではわからないことだが、色彩も派手だったかもしれない。トリケラトプスはフリルはそう大きくないが、全体が骨質だったので見せかけよりも実質的な盾として機能しただろう。

 1997年にモンタナでトリケラトプスの幼体(1歳児)の化石が発見され、その僅か30cmほどの頭骨にも角や襟が存在することから、防御やディスプレイ以外に、それぞれの個体を識別するのに役立っていたのではないかともいわれる(U. C. BERKELEY)。

トロサウルス
 ワイオミング産のトロサウルス Torosaurus latus もトリケラトプス同様、角竜では最も後から現れた種類だが、化石は僅かしか見つかっていない。不完全な頭骨が2点だけだという(D. Norman, 1985)。サウスダコタやテキサス、ユタでも知られているともいわれるが(D. Glut, 1982)あるいははっきりと同定できないのかもしれない。
 ワイオミングで見つかった大きい方の頭骨はおよそ2.6m、もう一つは約2.4mで両者には角、眼、フリルにいくつかの相違があるとしてそれぞれ別種として記載されたが、これはトリケラトプス同様、再考の余地があるだろう。
 トロサウルスの頭骨−その襟飾りには大きな穴があり、生体ではそれは皮膚の膜で覆われていたと考えられる。重さを軽減するための穴だったようだが、その分脆弱であり、現実的な盾とはならなかっただろう。

 サウスダコタ州のヘルクリーク層で見つかったトロサウルス Torosaurus latus の頭骨、1.7m(大阪市立自然史博物館・特別展)

トロサウルス

 トロサウルスの頭骨はトリケラトプスによく似ている。前方を向いた3本の角のうち、長い2本は目の上に伸び、短い1本が鼻の上にはえている。しかし頭骨後半部のフリル(襟飾り)はかなり異なっている(D.Dixon, 2007)。
 トロサウルスとトリケラトプスは同じ種であるとする説が2010年にモンタナ州立大学から発表されている。トリケラトプスの老熟した個体にすぎないというのだ。一方、エール大学は2012年に両者は別の恐竜であると反論している。トロサウルスの襟飾りにある大きな穴がトリケラトプスのそれとは全く異なるからだ(YaleNews)。

トロサウルス

 ディアブロケラトプス Diabloceratops eatoni はユタ州の8000万年前の地層から発見された保存の良い頭骨から知られる。ケラトプス科最古の恐竜で、その頭骨は70cmほどである。セントロサウルス亜科に属するこの原始的な種は目の上の角がよく発達している。フリルの後縁からは特徴的な一対の細長いスパイクが後方に向かって伸びている。このスパイクが悪魔の角を想わせるため、スペイン語で悪魔を意味するディアブロを冠する属名がつけられた(知られざる大陸ララミディアでの攻防)。
 そうだったのか、恐怖の王、Diablo は勇者によって葬られた後、こんな所に潜んでいたのか?(Blizzard 社のアクションRPG、ディアブロをご存知ない多くの方にとっては全く意味不明の文です)。

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