Captain George F. Lyon は1頭のオオカミを罠で捕らえた。彼らはさらに銃で3発を撃ち込み、後脚を縛り、ロープで尾の方から引きずった。ところがオオカミはロープを難なく噛み切り、近くにいたリチャーズ氏の膝に噛みついた。彼が振り払うと今度は腕に飛びついてきた。彼は少しもあわてず、オオカミの喉を掴んで投げ飛ばした。 オオカミは逃してしまったが、リチャーズ氏は防寒用に厚着をしていたことが幸いして、腕に軽傷を負っただけですんだ。一行は後にそのオオカミの死体を見つけている(シートン、1925)。 オオカミに噛みつかれてもあっさり投げ飛ばす人も凄いが、3発も撃たれても反撃し、逃走できるオオカミの体力もたいしたものだ。 北アメリカの北極圏、北緯67〜83度、植物限界の不毛の地には ホッキョクオオカミ Arctic Wolf と呼ばれる白いオオカミが生息している。 |
ホッキョクオオカミの実測例は意外に少ない。右の例が平均的なサイズかどうかはわからないが、これはオオカミとしては中型で、南方のシンリンオオカミと同じくらいと思える。 |
カナダ北方の島々やグリーンランドにすむホッキョクオオカミはホッキョクグマのように全身ほぼ白色で、ときおり黒や灰色の毛が混じる。 白いオオカミは他の地域でも見られることがあり、特にツンドラオオカミには白い個体も少なくないことからホッキョクオオカミと混同されることがある。しかしホッキョクオオカミはツンドラオオカミほどには大きくない。 デンマークの北極圏探検隊がグリーンランド東北部の海岸で射殺した3頭の測定では:
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北アメリカのオオカミ Canis lupus は細かく区分される傾向にあるが、多くは既に絶滅している。合衆国ではアラスカを除くと、現在生息が確認されているのはミネソタ、ミシガン、ウィスコンシンの3州のみだといわれる。1986年、モンタナ州グレイシャー国立公園でほぼ60年ぶりにオオカミの繁殖が確認されている。カナダから流入したオオカミだった(後に本格的な移入が実施される)。現存する代表的な亜種を並べてみよう。 |
ホッキョクオオカミ | arctos | 北アメリカ北極圏 | |
ツンドラオオカミ | tundarums | アラスカ、カナダ北西州 | 体長152cm(雄)、147cm(雌) |
Interior Alaskan Wolf | pambasileus | アラスカ | 体長135cm(雄)、128cm(雌) |
ハイイロオオカミ | occidentalis | カナダ(マッケンジー) | 体長126cm(雄)、121cm(雌) |
シンリンオオカミ | gigas | アルバータ、モンタナ | 体長146cm(雄) |
Eastern Timber Wolf | lycaon | ケベック、五大湖周辺 | 雄(8)体長109〜125cm、体重34〜44kg 雌 体長107cm、体重31kg |
ホッキョクオオカミはレミングやウサギも食べる。シートン(1925,狩猟動物の生活)によれば、メルビル半島を探検していた Captain George F. Lyon は何頭ものイヌをオオカミにさらわれており、またホッキョクギツネも雪の深い時期にはオオカミに狙われる。 シンリンオオカミがコヨーテをしばしば襲うことと併せ、オオカミが同じイヌ科の動物を捕食することには少々違和感を覚えるが。 ホッキョクオオカミにとって重要な獲物はジャコウウシとトナカイである。絶えず飢えに苛まれているオオカミはこれらの群を執拗に追い回し、弱い個体が群から脱落するのを待つ。 エルズミア島で1998年7月に2頭のオオカミ(雌雄)が雌のジャコウウシをわずか5分で仕留めたことがある(L. David Mech,1999)。2頭はどちらもジャコウウシの頸や頭を攻撃した。 ジャコウウシは成長すると体重300〜400kgにもなるから、これを2頭で倒すことはかなりの偉業だ。 |
ホッキョクオオカミが時速45マイル(72km)で走ったという記録がある。いつどのような状況で計測されたのかは明らかでない。Leonard Lee Rue III(1981)はオオカミの最高速度は時速64kmの計測例が幾つかあるとしている。これについては Roy Chapman Andrews が Natural History 誌に掲載した有名な一文(Living animals of the Gobi Desert,1924)があり、モウコオオカミ(チベットオオカミ)を車で追跡したところ、オオカミは時速64kmの車と約5kmにわたってほぼ同じスピードで走ったという。
一方、シートン(1925)はオオカミの走る速さについてはしばしば誇張されて語られていると指摘している。彼の経験では1マイル(1.6km)を走る時の最高速度は時速35kmほどだという。これはコヨーテやシカなどよりかなり遅いが、オオカミはこの速度をたいていの動物より長時間保つことができるとしている。
72kmは信じがたい数字だが、シートンは控えめすぎる印象を受ける。もちろん、オオカミの個体差もあるだろうし、地形も影響する。Andrews が車で追ったのは平坦な草原だった。シートンがオオカミを観察したのは主に森林の中だったかもしれない。
Ernest P. Walker(1968)は時速45km、Robert Elman(1974)は獲物を攻撃する時には時速30マイル(48km)以上に達すると言っている。このあたりが妥当なように思える。