ヒヒの信号手 チャクマヒヒ Chacma Baboonアフリカ南部に棲む大型のヒヒ。 雄:体長80〜100cm、体重30〜50kg。 |
類人猿を除くサルのなかまで最も利口なのはヒヒだと言われている。19世紀の終わり頃、南アフリカ・ポートエリザベスの北方、約320kmにある Uitenhage 駅には鉄道の信号手として働いていたチャクマヒヒがいた。 負傷で両脚を失った鉄道員、Wylde が近所で買ったチャクマヒヒ、Jack は水を汲んだり、小屋を掃除することをすぐに覚えた。そして踏切を操作するための鍵を、必要な時に、壁から外してさっと手渡してくれるまでになった。 待機場所の小屋から信号機までの約140mを Wylde はJack が押してくれるトロッコで往復していた。彼がレバーを操作する間、ヒヒはその様子を真剣に見つめていた。まもなく Jack がレバーを操作するようになり、Wylde はトロッコに座ったままで間違いがないか見守るようになった。さらには列車が近づくとひとりで作業を遂行するようになり、Wylde は小屋から出る必要さえなくなった。 Jack は1890年に結核で死ぬまで9年間、信号手を勤めていたという(Wood, 1972)。 |
タンザニアのゴンベ・ストリーム保護区でチンパンジーがカワイノシシを殺して食べるのが目撃されている。4頭の雄のチンパンジーが子連れのカワイノシシを取り囲み、樹上には雌と子のチンパンジーがいて吼えていた。 1頭の雄が石を掴んでアンダースローで投げ、それが成獣のイノシシに当たった。他のチンパンジーは腕を振り上げてイノシシを脅した。静かになったり、叫んだりして同様のことが繰り返された。 イノシシは二手に分かれて逃げ出した。悲鳴が聞こえ、ざわめきが拡がり、大騒ぎになった。子供がつかまったらしかった。チンパンジーは騒いだり脅したりしてイノシシを混乱させ、子がたまりかねて走り出すのを狙っていたのだった(小原、1981)。 チンパンジーがイノシシやレイヨウ、他のサルなどの子を捕食することは地域によってはそう稀なことではないようだ。チンパンジーの採食は、幼い子を持つ雌を除けば、通常めいめいが個別に行動している。他の哺乳類を捕食する時にもあまり協力する風でもない。実際に獲物を追うものは少数で、他のメンバーはまわりで騒いでいるだけだ。しかしひとたび狩が成功すると、何もしなかった連中も死体に集まり分配を受ける(Macdonald, 1984)。 チンパンジー Chimpanzee アフリカ中央部(タンザニアからギニアにかけて)に棲む。 雄:身長1.5m、体重40〜55kg。動物園で90kgの記録がある。 |
肉食をするチンパンジー |
チンパンジーが肉食をすることは1971年、ジェーン・グドールの「森の隣人」で明らかにされた。彼女が観察を続けていたチンパンジーの群は、1年に20回ほど狩を行っていた。もっとも明確な目的(つまり食べるため)をもって行うというより、自然発生的のもののようだ。
あまり大きくない獲物でもなかまで分け合う。そして手を下して殺した者の権利が認められている。自分よりランクが上の者が待っているなかで先に食べ、それから他の者に分配する。生活のための狩というより遊びに近いものだといわれている。
ヒトは300万年にわたって肉食獣だった
チンパンジーのあまり巧みとはいえない狩は人類の祖先を想起させる。人類が穀物栽培を始めてからまだ5000年ほどしか経過していない。大森林時代が終わり、東アフリカにサバンナが拡がり始めると、類人猿に生存競争が起こり、森林からはじき出されるものが続出した。500万年以上前のことと思われる。 そのいわば敗者のなかから人類の祖先が誕生した。もはや以前のようなエデンの森ではなくなったケニヤで、食物の大部分を果実に求めることができなくなっていた。人類の祖先はサバンナに棲む草食獣と同様、捕食獣のいい餌食だっただろう。貧弱になったケニヤの森では、樹上に避難するのも難しくなり、また食べていくためには他の動物を狩って肉を得なければならなくなった。非力だった古代人類は武器を持たなくては、獲物を狩ることも、肉食獣から身を守ることもできなかった。 武器を持つために手が歩行から解放された。遙かに速く走れる四つ脚の動物を狩るために作戦とチームワークが必要であり、それが彼らの知能を発達させた。たまに肉食をする現在のチンパンジーとは違って、人類の祖先は生活のために肉食をしなければならず、それが類人猿から人類に移行する大きな要因となった(ロバート・アードレイ、1976)。 |
↑サバンナヒヒも肉食をすることがある。
アードレイはこれなくしては人類は決して生まれてこなかったとして三つの条件を挙げている。それは二足歩行、手の自由、それに武器である。 チンパンジーは木や石を武器として使うことがあり、テナガザルはかなりの距離を二足で歩ける。しかしそれに依存した生活をしているのはヒトだけだ。 |