ウシをくわえてジャンプ?

ライオンはウシをくわえて塀や囲いを跳び越えられるだろうか?
 ナチュラリストのアルフレッド・E・ブレームは、スーダンで、高さ2.4mの茨の柵(ザリバ)を、ライオンがウシをくわえて跳び越えるのを見た。重い荷物のために柵の上につけられたへこみ、飛び降りた際に外側の砂地にできた窪みが残っていた。ブレームはまた、スーダンや東アフリカのコブウシが西洋で一般的な肉牛や乳牛よりもかなり小さいと指摘している。
 アルフレッド・ピースはソマリランドから別の報告をしている。ライオンはウシの群を攻撃するために、3−3.6mの高さの茨の柵を飛び越えると言う。無論これはライオンが大きな一跳びで塀を越えることを言っているのではない。
 原住民はピースに高さ3.6mの囲いを見せ、ライオンが1頭のラクダを引きずり上げ、反対側へ飛び降りて、それを引きずり下ろしたと語った。
 ソマリランドで猟をしたモッセは、ライオンはしばしば囲いを腹這いで通り抜けるが、これが出来ないときは跳躍すると言う。ヒツジが連れ去られたとき、彼は地面と囲いを注意深く調べた。そしてライオンが、どうしてもその囲いを通り抜けられなかったので、往復とも跳ばなければならなかったことが確かめられた。そしてライオンが外側へ着地した跡ははっきり付いていた。囲いの高さは1.7mだった。

 有名な狩猟家、J. A. ハンター(1938)によればライオンは、囲いを飛び越え、ウシをくわえて走り去った。彼はキツネがニワトリを運び去るようにこれを行うと言う。ライオンはウシの喉をくわえたまま死体の下に入り込み、巧みに背中に重みを掛ける。自分の片方の肩に獲物をちょっと載せ、うまく前足が前に出るようにし、ぎこちない格好ではあるが、再三、再四繰り返す。顎からぶら下がっている重い動物が跳躍の妨げにならなくなるまで。障害物を跳ぶとき、ライオンの尾はピンと伸び、バランスを取る役目を果たす。このときの塀の高さは3.6mあった。
 フレシュコップはルアンダで、ライオンが300kgのロバをくわえて囲いを飛び越えという。

 南アフリカのハンター達から、ライオンは獲物を地面から持ち上げて運ぶのではなく、いつもそれを引きずるということが指摘された。小型の動物(シマウマの子供、インパラなど)でさえ、後足、時には後半身全体が地面に引きずられると言う。囲いの中の家畜を襲ったときも、ライオンは塀を飛び越えるのではなくて、獲物を後ろに引きずりながら、垣根を押し通るのだと気づいた。  ライオンはその巨体に似合わぬ跳躍力を持っていることは確かである。
 ケニヤの農場で12mを越える幅跳びが測定された(ピース)。シュリングスはさまざまな場合について約8mの幅跳びを確認した。カービーは高さおよそ3.5mの堤防の上へ簡単に飛び上がった雌ライオンを目撃した。これらは注目すべき偉業である。
(グッギィスベルク、1961)

 D. ブランダー(1923)は落とし穴を掘ってトラを生け捕りにしたことがある。深さ4mくらいの穴だとトラは飛び出てしまうので、5mは必要ということだったが、彼は慎重を期して深さ5.8mの穴を掘った。そしてトラを捕らえることに成功したのだが、この時逃げだそうとしたトラはジャンプを繰り返し、あと30cmほどでトラの前足が穴の縁に届きそうになったこともあった。

 2007年12月、サンフランシスコの動物園でトラが囲いから抜け出て、見物人を襲う事件があった。一人が殺され、二人が負傷した。当初、トラ舎は幅4.5mの堀と高さ5.5mの塀で囲われており、脱出は不可能と考えられていた。当の雌トラ(135kg)は前年のクリスマスに飼育係に怪我をさせた前科があった。
 当局の調査でトラを遮る塀の高さは3.8mしかなかったことがわかった。動物園・水族館協会ではトラの囲いは高さ5m以上であるべきと規定されている(NationalGeographic)。トラは軽い助走を付けるだけで4.5m隔てた高さ3.8mの塀に飛び上がることはできるだろう。

高さ7.5mの崖に跳び上がったトラ
 トラは川床からそそり立っている崖の下に立ち止まって、四肢をネコのように縮め、その姿勢のまま3、4度、全ての筋肉の力を奮い起こすように前後に揺すったかと思うと、死に物狂いのジャンプをした。
 トラの前足が崖のうわっぷちをつかんだ。1、2秒間トラは宙にぶら下がって揺れていたが、岩の小さなくぼみに後足を引っかけたかと思うと、崖の上にはい上がった。狩猟家シャコール・カーンは、唖然として射撃もせずにこの立派なトラが逃走に成功するのを見送っていた(戸川、1980)。

 小さなネコが高さ1.5mほどの塀に飛び上がる(駆け上がる)のを何度も見たことがあるが、からだの大きなトラやライオンにも似たような芸当ができるということだろうか。飛び越えるのと飛び上がるのとでは難易度にかなりの違いがあるはずだが、インドのマイソールでは3mの高さに張られたロープをうまく飛び越えたトラの報告がある(グッギィスベルク、1961)。
ユキヒョウ、知られざる銀メダリスト
 Ognev(1962)は、自分が直接見たものでなかったらとても信じなかっただろうと言うジャンプを目撃している。それは下り勾配の途中にあった幅15m以上と思われる溝(岩の裂け目)を飛び越えたものだった。また高飛びに関しても、6mほどの高さにまで跳躍できるといわれる。
 ヒョウはピューマやユキヒョウほどには、ジャンプに適した体型をしていない。しかし Turnbull-Kemp(1967)は小さな雌のヒョウが高さ3.4mの木の枝に飛び上がったのを見ている。

 多くの数字は正確に測定されたものではなくて、目測だろう。しかしネコ科の動物のジャンプ力が群を抜いていることは確かだ。
 南アフリカでよく訓練された犬(Alsatian 種)が高さ3.4mの塀に飛び上がり、また7.3mの幅跳びをした記録があるが(1942年)。


ピューマこそがジャンプの金メダリスト
 高さ6mの岩の上から18mも跳んだ例があり(シートン、1925)、また雪原で12mの幅跳びが目撃されている(メリアム、1884)。高飛びでは5.5mの記録がある。これは追われていたとかいった外的条件は全くなかった。
 ヤング(1944)は一度4mの高飛びを目撃している。このときピューマは、普通のおちついた状態で歩いていたが、突如たかれたカメラフラッシュの閃光に驚いて坂の上に飛び上がったのだった。更にシカをくわえて高さ3.6mの木の枝に跳び上がったピューマがいた。
 獲物を狙うピューマは極近くまで接近してから攻撃するのが普通だが、12mの距離からシカを狙って跳んだ例もある (S. P. Young, 1944)。

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