大型ネコ族 Big Cats の必殺技

 コーベットはウシを多数飼っている友人から不思議な殺され方をしたウシのことを聞かされた。その男はトラやヒョウに殺された動物を数多く見てきていたが、この時殺された彼のウシは首には全く傷がなく、また肉を細かく引き裂かれていて見たこともない動物にやられたのではと不思議がっていた。
 コーベットは友人に伴われてウシの死体を検分した。ウシは成長しきった雌で、引きずられた形跡はなかった。この話を聞いた時、コーベットはウシはクマに殺されたのだろうと考えていた。ツキノワグマは肉食動物とはいえないが時には他の動物を襲うことがある。ただ手慣れていないのでその手段はトラやヒョウほどには洗練されておらずぎこちない。
 しかし死体を見て、コーベットはこれはやはりクマではなくトラにやられたのだと判断した。ウシは最初に膝の筋を切られており、それから腹を引き裂かれていた。殺してからトラはウシの後半身を爪で引き裂いて食べていた。
 その夜、コーベットは死体の側の樹上でトラを待ったがトラは戻ってこなかった。他に6頭の雌牛と3頭の若いスイギュウを同様の手口で殺した時にもトラは戻ってなかったのだ。
 トラが獲物を殺すのに牙を使わないのは不自然である。しかし実際に使われていないのだから、使いたくても使えなかったと考えるのが正しい。トラが死体を引きずっていこうとしなかったのも牙でしっかりとくわえることができなかったからなのだ。
 牙が欠けていた−コーベットはそう考えた。以前に家畜を殺した時、トラは一度食べてから間をおいて戻ってきて、そこで待ち伏せていたハンターの銃弾に牙を吹き飛ばされてしまった。そのため一度食べただけで(それも牙が使えないため少量を)二度とそこへは戻らなくなっていたのだ。
 トラがウシなどの大型動物を襲う時、hamstring、つまりその脚に爪を立て腱を切って動けなくしてから、首に咬みつくことはめずらしくない。コーベットは非常に大きなスイギュウが2頭、この方法で殺されていたのを見ている。彼は脚を攻める時にはトラは牙ではなくいつも爪を使うとも言っているが、これには他の観察者から異論もありそうだ。

 未だ見ぬトラによるウシ殺しは10回で終息した。その後、近隣でトラが射殺されたり、死骸を見つけたとの話もなく、どこかの洞穴でひっそりと死んでいったものと思われた。
(Jungle Lore, 1953)

 コーベット(1953)は、トラやヒョウの攻撃は、秘密理に、しかも電光石火の素早さで行われるから、ジャングルで彼らが殺しをやる瞬間を目撃した人は、極めて少ないだろうと言っている。(Jungle Lore)

ヒョウ、シカを殺す
 ジム・コーベットは、ヒョウが雌のシカを襲ったときの、計算された利口な攻撃法について報告している。
 開けた草原で、シカが草を食べているのを、ヒョウが丘の上から見つめていた。ヒョウは周囲の地形を良く調べ、草叢の間を縫ってシカに接近し、その背に飛び乗ってしがみ付いたのだった。
 ヒョウはその時、場所が開けた草原で、人目に付き易いことと、そこで殺しても森の中まで運んで行くにはシカが大きすぎることを考えて、敢えて殺そうとはせず、しっかりとしがみ付くことに専念した。慌てたシカは、最初ヒョウを振り落とそうと暴れ回り、それが駄目だと解ると、次にヒョウを木の幹に擦りつけて払い落とそうと考え、200m程離れた森に向かって走り出した。
 もちろんヒョウはこのことを計算していたのだ。シカが森の中に躍り込んだところで、ヒョウはシカの体にぶら下がるようにして、喉に咬みついて地面に倒した。

 コーベットは20回ほどトラの襲撃を目撃しているのだが、そのテクニックの詳細についてはたった1回しか確認できなかった。
 そのトラは雌のシカが草を食べているところへ風下から近付き、頭の方から襲ったと言っている。シカやスイギュウなど角を持つ動物を襲うとき、角によって傷つけられるのを避けるために背後から攻撃するのが普通だが、このときは角を持たない雌のシカだったので、攻撃をより確実にしたものらしい。

 トラが獲物を殺す正確な方法について、二人の目撃者の意見が今までに一致したためしはないと言う。定まったパターンはないということである。(Arjan Singh, 1973)

 トラは後ろから攻撃することが多いので、普通は頚に咬みつくが、角があったり、頚が太かった場合は喉に咬みつく。そして捻りながら獲物を投げ倒し、そのはずみで頚の骨が折れることもある。倒れた獲物がまだ生きている時は頭を地面に押し付け窒息させる。(Jungle Lore)

 トラが殺した多くの動物の死骸を調べたハンターは、あまり大きくない動物、シカなどは、頚の頭よりのところに牙の痕があり、ウシのような大型獣になると牙の痕跡は全て咽喉部にあったと言っている。
 トラは状況にあわせてテクニックを変えるようだが、襲撃に当たって、今度はどの手でやってやろうかと考えるのだろうか。

トラに殺された260頭の動物
 雌のサンバーは全て頚を噛まれて死んでいた。どの場合にも4箇所、頭に近い背骨の両側に2個ずつの明確な穴があった。雄ジカの場合には牙がシカの角と接触して頭まで届かないため、喉に咬みついて窒息死させていた(サンカラ, 1977)。


どのようにしてライオンは獲物を殺すか?
 セルースによるとライオンはほとんどいつも、耳のすぐ後ろの頚への一咬みで、シマウマを殺している。この方法は、頚椎や、脊椎骨の関節を外したり砕いたりするので、脊髄の圧縮が死の原因となる。(これは人間が絞首刑で死ぬ時と良く似ている)
 また角を持つ動物を扱う場合は、前足を犠牲者の鼻の上においてその角を防御に使わせないようにし、そして頚の骨を折る。
 小さな動物はその前足の素早い一撃で打ちのめされ、頚または喉に入る一咬みで片付けられる。シマウマやウシカモシカのような大きな動物は、頚や頭を攻められ、投げ倒される。
 クルーガー国立公園でインパラを襲ったライオンは、後足で立上り、背中に前足を掛けて頚に咬みついた。インパラは数秒間よろめき、それから共に地面に転がった。すぐにライオンは起き上がったが、死んだかと思えるインパラを掴んだままで力を緩めはしなかった。この出来事を目撃した人は、インパラは締め殺されたのではなくて、倒れたときに頚の骨をおったものと考えた。(グッギィスベルク、1961)
 ライオンは片方の前足でしばしば犠牲者の額か鼻を押し付け、頭を胸の方に引き寄せるので、その動物は頚の骨が折れてしまう。このようにして頚を脱臼したウシカモシカをたくさん見たことがあるとグッギィスベルクは言う。
 戸川幸夫氏(1980)が東アフリカで目撃したライオンの殺しは、雌ライオンがウシカモシカを襲ったものだった。その時、雌ライオンはウシカモシカをぬかるみの中に突き転がし、押え込むようにしてウシカモシカの咽喉部に咬みつき、そのままじっと堅く口を咬みしめていた。ウシカモシカは起き上がろうと四肢をばたつかせていたが虚しく空を蹴るだけで、その内弱って息が絶えた。
 ライオンは獲物に追い付いてそれを倒す。バートラムによればよく想像されるようにその背に飛びかかるのではなく、その腰や背中を前足の鈎爪で掴むのである。獲物はたいてい疾走しているところを掴まれるために、バランスを失って倒れる。そこをライオンは素早く喉か鼻先に食いついて押え込む。獲物は間もなく締め殺されることになる。(ライオン草原に生きる、1978)

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