陸上で最速の短距離(400mまで)走者はアフリカや南西アジアのサバンナにすむチータで、動物図鑑などには時速110kmで走ると書かれていることが多い。 しかしこれは少々過大な数字かもしれない。ガゼルなどを追う時の瞬間的なスピードを計測すること自体が難しいのだが。 |
ケニヤで車で追跡されたチータが約200mの距離にわたって時速82kmのスピードを記録した(Meinertzhagen)。 1937年9月、ケニヤからイギリスに運ばれたチータがグレイハウンドと競走し(電気仕掛けのウサギを追いかけるレース)、時速69kmに達した。グレイハウンドの方は最高時速59kmだった。 おそらく獲物を追う時のチータのスピードは上の数字を上回るだろう。しかし時速100kmを超えるだろうか? |
チータが65ヤード(59.5m)のトラックを2.25秒で走ったという記録がある(Kurt Severin, Outdoor Life, 1957)。平均時速95kmという計算になる。人がストップウォッチで計測した場合、2.25秒という時間の精度には疑問があるだろう。チータの加速のすばらしさについてよくいわることだが、チータはスタートから僅か2秒で時速70kmに達する。言い換えればいくらチータでも最高スピードに届くまでに2秒以上かかる。スタートしてから2.25秒で59.5mを走るのは無理ではないだろうか?
1965年、ケニヤで N. C. Craig Sharp は訓練したチータを201mのコースで走らせた。彼はチータが加速に必要な時間を考慮してスタートラインより18mほど後方から走らせた。3回の計測は6.9−7.2秒だった。時速100−105kmを出していたことになる(Journal of Zoology, 1997)。
チータの主要な獲物であるトムソンガゼルは時速80kmで走れるが、チータはこれより速いのだろう。しかし肉食獣に追われ捕えられる動物が、追跡者より遅いとは限らない。草食動物はネコ科の動物ほどスピードダッシュがきかないからだ。一方もっと長い距離を速く走ることができる。 北アメリカのプロングホーン(エダツノカモシカ)はほぼ1マイル(1.6km)の距離を時速67kmで、その半分の距離を時速88kmで走った記録がある。 |
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動物の運動能力の測定は、主に1900年代前半に行われており、その後の記録はあまり知られていない。そのため多くの文献が同一のソースを参照していることが多く、数字にばらつきが少ない。
チータはレース場の測定で時速115kmをだしたと Demmer(1966)は言っているが、もしこの数字を信じるとしてサバンナではもっと速く走れるだろうか、あるいはもっと遅いのだろうか。 ライオンは以前は時速64〜80kmといわれた。これは獲物を追う時のスピードをストップウォッチで計測したものだそうだが、走った距離の測定がいいかげんだったのでは。 コヨーテやモウコオオカミでも時速72kmの説があるがやはり疑わしい。 ホッキョクグマやハイイログマでも時速40〜56kmの計測例がある。 アフリカゾウが3100mを時速39kmで走ったことがある。ストップウォッチで計測された。インドゾウもほぼ同じ速度で走るといわれるが確認されてはいない。 人間の最高速度は100mを10秒弱、時速に直すと36kmにすぎない。一般人はゾウやクマに追われても逃げ切れない。 |
チータはその足の速さ故に、獲物を狩る効率は他の肉食獣よりも高い。そのためではないだろうが、他の肉食獣から獲物を横取りされることがある。地域によってはしとめた獲物の半分は横取りされるとさえいわれる(web.fccj.org)。アフリカのサバンナを取材したドキュメントフィルムでは、チータがせっかく捕らえた獲物をブチハイエナに奪われる場面がしばしば見られる(yatin.chawathe.com)。ライオンやヒョウもチータからいただくことがある。しかしその頻度はスクリーンから感じられるほど高くはない。
セレンゲティやクルーガーでの調査では獲物の10−14%ほどがハイエナに奪われていた。しかしその場合でもチータが先に充分食べた後にハイエナがやってくるケースが多かった(Sunkist, 2002)。
チータはかなり華奢な体格ながら、斑紋のせいで外見はヒョウに似ている。そしてレイヨウを主食とするれっきとした肉食獣なのだが、恐ろしい猛獣というイメージはない。また人を襲った記録もほとんど知られていない。 2007年2月、ベルギーの動物園で隠れていた女性の動物愛好家が、閉園後にチータの檻に侵入し、かみ殺される悲劇が起きた。経緯はどうあれ、チータが人を殺した唯一の事件かもしれない(CNN)。 |
2012年5月、南アフリカの自然保護区で、60歳のイギリス人女性がチーターに襲われ、頭や脚を負傷したが、死んだふりをするなど機転を利かせて脱出した。チーターの牙は彼女の頭蓋骨にめり込んでいた。彼女が襲われている一部始終を、女性の夫が撮影していた(MSN産経)。 |
全長(cm) | 尾長(cm) | 肩高(cm) | 体重(kg) | location | |
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雌 | 236 | − | − | − | ケニヤ |
− | 221 | − | − | 62 | ローデシア |
雄 | 203 | 84 | 90 | − | トランスバール |
雄 | 201 | − | 86 | 59 | トランスバール |
− | 194 | 70 | 72 | 41 | トランスバール |
− | 190 | 73 | 75 | − | 東アフリカ |
チータはヒョウとほぼ同大だが、四肢が長いので背は高い。しかし体は細く特に頭部は小さい(大きなものでも頭骨全長210mm)。雄は雌よりやや大きめだが大差はない。セレンゲティ産の雄24頭では平均体長123cm、体重41kg。また雌19頭では平均体長125cm、体重36kgだった(Caro, 1994)。 ナミビア産の雄7頭では平均体重54kg(39−59)、雌6頭は43kg(36−48)。東アフリカ産の特に大きな雄で65kg、雌で63kgあった(McLaughlin, 1970)。 ←キングチータ 南アフリカでよく見られる変種。 |