大阪市立自然史博物館
今から45万年ほど前、新生代更新世の日本、現代よりもかなり温暖でナウマンゾウが出現した頃、西日本にはステゴドンと呼ばれるゾウが棲んでいた。中国とは地続きだったので北京原人も移住してきたかもしれない。その頃の日本の川には非常に大きな、口の細長い、魚食性のワニが棲んでいた。
1964年、大阪府豊中市待兼山の大阪大学理学部の構内からワニのほぼ完全な化石が見つかった。地名を取ってマチカネワニと名づけられた。それまで日本でワニの化石が出ていなかったからといって別に待ち兼ねられていたわけではない。
マチカネワニの化石は尾の骨がほとんど見つかっていないが、これほど巨大な化石がほぼ完全な形で見つかったのは、日本ではこれまでに例がない。頭骨のサイズ(下顎の長さ103cm)から全長は6.9〜7.7m、体重は1300kgほどもあったと推定されている(豊中市)。
小林快次氏(2010)によれば、ワニの全長はその頭骨(下顎側)の長さから次の式で推定できるという。
インドガビアル | 全長(cm)=7.4×頭骨の長さ(cm)−69.369 |
イリエワニ | 全長(cm)=7.717×頭骨の長さ(cm)−20.224 |
↑針葉樹林がある、カナダの草原のような涼しそうな景色。
今見ると間違いだらけだと指摘されている。広葉樹林を背景に描かれるべきだという。
マレーガビアルに似た細かい鱗もおかしい、またワニはこんな風に首を持ち上げることはできないそうだ。
上のワニは、19世紀に描かれたインドガビアルの絵(←)を土台に使っているのかもしれません。
復元骨格では補修されているが、マチカネワニの下顎は先端が30cm以上も欠けていた。その切断面は滑らかで、ぽきっと折れた直後に見られるようなぎざぎざはない。生前、下顎の3分の1を失うような大怪我をしながらも生き延びたと推測されている。怪我が自然治癒したので骨の切断面が滑らかなのだという。
マチカネワニの化石には、さらに右後ろ足の骨折や、背中に噛まれた痕が認められ、他の個体との闘争があったのではないかと想像されている。
※ 大阪大学副学長の江口太郎氏による講演内容(「マチカネワニと科学リテラシーの向上」2012年2月)を、上田さんより送っていただきました。それにより内容を全般的に修正しています。
マチカネワニの類似種と思われるものが浜名湖北岸の第四紀の地層より南方性の魚と共に多数発見されている。この方は化石が断片的で、組み立てにはいたっていない。
また、1966年には大阪府高槻市の北部でワニの背骨の化石が発見された。新生代第四紀の初め頃(100〜150万年前)のものでタカツキワニと名づけられている。
さらに1994年12月には岸和田市流木町の公共下水道工事現場から、脊椎動物の化石が多数発見され約60万年前にこの地に生息していたキシワダワニとされた。マチカネワニよりはだいぶ小さいが、それでも頭骨からの推定では全長5mほどもある。
マレーガビアル (False Gharial, Malay Gharial, インドネシアでは Buaya Supit)
マレー半島、スマトラ、ボルネオに分布する中型のワニで全長3〜4m。愛媛のとべ動物園にいるマレーガビアルは全長4.3m、体重250kgあるそうだ。他のワニに比べると細長い体型である。川や沼に棲み主に魚を食べている。インドのガビアルによく似ているがそれよりも古い型のワニと考えられている。ガビアルと名づけたのが誤りで、ガビアルよりもクロコダイルに近い(Karl Schmidt,1957)とされている。そのためガビアルモドキ Fales Gavial とも呼ばれる。
ガビアル同様に細長い口を横殴りに振るって魚を咥え、上下の顎を器用に使って呑み下す。また川岸でサルを捕食した例も知られている(Malcolm Penny, 1991)。
最近では遺伝子の研究からやはりガビアルに近いのではないかとの説が出ている(阪大総合学術博物館、2010)。
Last Zoo でもマレーガビアルは、クロコダイル、アリゲーター、カイマンのどの種よりもむしろインドガビアルに近い関係性が見られるとしている。そしてマレーガビアルと密接に関係するマチカネワニを Osaka Gavial と呼んでいる。