ゴンフォテリウムGomphotherium annectens

肩の高さ:2.5m新生代中新世(1800万年前)

 新生代第三紀中新世はゾウが世界中に広まった時代だった。この時代の原始的なゾウはマストドンと呼ばれ、鼻が短く、変わった牙を持つものが多かった。
 ゴンフォテリウムはまたトリロフォドン(三稜ゾウ Trilophodon)と呼ばれたこともあるが、この時代の代表的なゾウで、ユーラシアから北米まで分布し、日本でも岐阜県や宮城県から顎や歯の化石が発見されている。

↓大阪市立自然史博物館


 中新世の日本列島は大陸とつながったり、切れたりを繰り返していた。日本のゾウの歴史はこのような日本列島ができあがっていく過程と深く関わっている。当然大陸からゾウが日本に渡ってきたと考えるのが普通だが、東北から北陸にかけての地域で見つかっているステゴロフォドン Stegolophodon 類の化石はヨーロッパやアジアの同類のものよりも古く、どこからやってきたのか定かではない。

 1970年春、長野県で貝の化石を探していた信州大学の学生たちがゾウの化石を発見した。これがシンシュウゾウ Stegodon shinshuensis で、最初ステゴロフォドンの一種として発表された。後に東北から九州に至る各地で鮮新世(400万年ほど前)の地層から同じ種と思われるゾウの化石が見つかり、ステゴドンに分類されるようになった。
 長野県で見つかった上腕骨から肩高3mと推定されるが、三重県で見つかった歯の化石()からはもっと巨大だったといわれる。おそらく日本では最大のゾウだった。

 シンシュウゾウは三重県で見つかった歯(1918年)が最初の化石であるとして2000年にミエゾウ Stegodon miensis と改名されている(三重県立博物館)。永らく断片的な化石しか知られていなかったが、大分県宇佐市で1995年に頭骨を除くほぼ全身の骨格が発見され、2004年には頭骨が見つかっている。さらに2008年4月には、やはり宇佐市で牙が見つかった(西日本新聞)。
 肩高4mに達したといわれる日本で最大のゾウの全身像がようやく解明されることになる。

アカシゾウStegodon akashiensis



大阪市立自然史博物館

 日本からはゾウの化石は多く出土しているが、全身の組立骨格となると数少ない。その中でも異色の存在が200万年前のこのアカシゾウ(=アケボノゾウ S. aurorae)。1960年に兵庫県明石市の西八木海岸で見つかった。しかも少年が中学・高校の6年間を費やして一人で掘り出したというユニークなもの。寄贈を受けた大阪市立自然史博物館では、欠けている骨(肩や足先など)を粘土で作るなどしてアカシゾウの全身を復元した。肩高1.6m。
 このゾウが最初に発見されたのは、1936年のことで明石の海岸で拾われた歯の化石にアカシゾウと名付けられていた。後に既に見つかっていたアケボノゾウと同一とされてしまったが。

 60−250万年前のアケボノゾウは日本の特産で大陸からは見つかっていない。肩高2m、体長3mと今のゾウよりも胴長短足の体型である。体の割に牙が大きく1.4−1.8mほどある。1993年に滋賀県の180万年ほど前の地層から完全に近い全身骨格(肩高193cm、全長458cm)が見つかっている(国立情報学研究所)。

 2008年9月、長野県の千曲川河川敷で約130万年前の地層付近から、日本固有のアケボノゾウの若い個体のほぼ全身骨格の化石が見つかった。成長過程の個体の全身骨格は全国で初という。肩高約1.2mでアカシゾウよりも小さく、10代後半から20代前半と見られる(西日本新聞)。


 アケボノゾウの祖先はミエゾウ(シンシュウゾウ)であると考えられている。日本が大陸から分かれて島となり、日本列島に取り残されたミエゾウが、狭い日本の環境に適応するために、小型化して、アケボノゾウとなったという(神戸市埋蔵文化財センター)。

 ミエゾウの祖先は中国北部にいた大型のツダンスキーゾウ Stegodon zdanskyi (肩高3.5m)だろうと考えられている。鮮新世前期の地層からも化石が見つかり、ステゴドンの中でも最も古く、原始的な種類である。やはり中国から出土したコウガゾウもこれに近く、最近ではツダンスキーゾウとコウガゾウは同一種である(大化石展)との説も出ている。



大阪市立自然史博物館・大化石展(2011年7月)に展示されたコウガゾウの全身骨格(レプリカ)、肩高3.8m

 日本ではステゴドン類のゾウの化石が3種見つかっている。鮮新世後期から更新世にかけて(100万−500万年前)アジアにごく普通のゾウだったようである。雄は大きな牙を持っていて、左右の牙が非常に接近して生えていたので、その間に鼻を通す余地はなかっただろうといわれている。つまり鼻は2本の牙の傍らに下げられていたわけだ。一方雌の牙はずっと小さかったので、左右の牙の間には十分ゆとりがあった。
 中国にはアカシゾウの祖先とされたこともあるコウガゾウ Stegodon huanghoensis が生息していた。1973年春に発見され、ほぼ全身の骨が見つかっており、肩の高さ3.8mもある大型のゾウだった(北京自然博物館)。上顎からは3mもある牙が平行して真っ直ぐに伸びていて、左右の牙の間が狭く鼻を通すことはできそうもない。
 いや、たまたまこの化石は埋まっている間に強く圧迫されてこうなったのだとの意見もある。頭骨自体も少々ひしゃげているらしい。したがって牙の間は実際にはもう少し広かったはずだと。しかし似た状態、つまり左右の牙がほとんどくっついている化石は他でも見つかっているとの話もあり、ステゴドン類の鼻がどうだったのか確定はしていないようだ。

コウガゾウ 大阪市立自然史博物館



パキスタンから見つかっているガネーシャ Stegodon ganesa 。ステゴドン類では最大級のゾウで肩高4mに達した。3mもある牙は間が狭く、鼻が通らない復元になっている(Osborn, 1942)

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