2006年12月、ダイオウイカが小笠原で釣り上げられた

 スカンジナビアには、深海にひそみときおり海面に現れては漁船を水中に引きずり込む怪物の伝説がある。19世紀の中頃になってようやくそれが巨大なイカであることがわかってきた。海面に漂っていた死体が何度か発見されダイオウイカの存在が明らかになった。

クラーケン

 これまでにダイオウイカは世界各地の海で発見されているが、どのくらい大きくなるのかは定かでない。1882年頃にカナダのニューファウンドランドの海岸に打ち上げられた死体は全長27mもあったといわれる(胴の長さ9m)。またこれより10年余り前、ラブラドルの海岸に流れ着いた2体はそれぞれ24mと27mもあったとか。しかしこれらは信憑性の高い記録とは言えない。



1971年、イギリス北部で捕獲されたダイオウイカ 全長6.8m

1964年、ノルウェーの海岸に流れ着いたダイオウイカ 全長9m

全長(m)発見地備 考
18.9 ?ニュージーランド(1887)胴の長さ2.4m、腕(Tentacles)が異常に長かった(16.5m ?)
16.8ニューファウンドランド(1878)胴の長さ6.1m、推定体重2t
15.9Fortune Bay胴の長さ3m
15.9ラブラドル胴の長さ4.6m
14.3バハマ(1966)20世紀における最大の記録
13.0ノルウェー(1939)胴の長さ4.3m、胴回り3m、推定体重1t以上
11.3ノルウェー(1896) 
9.6ニューファウンドランド(1964)胴の長さ3.2m、体重150kg
9.5スペイン(1968)体重256kg
8.8ニュージーランド(1886)胴の長さ3m
8.2ポルトガル(1972)胴の長さ1.6m、体重207kg
7.2三浦半島(1930)胴の長さ3.6m
7.0インド洋南部(1874)胴の長さ2.1m

 2019年1月31日、七尾市沖の定置網にダイオウイカとリュウグウノツカイが掛かっていた。珍しい深海の動物2種が同時に網に掛かるのはきわめて異例、おそらく初めて。
 ダイオウイカは全長322cm、2015年2月以来4年ぶり、リュウグウノツカイは全長384cm、2016年12月以来である。

 ダイオウイカとリュウグウノツカイはともに生態や生息分布が解明されておらず、なぜ深海に住む生物が定置網に入ったかは分からない。ダイオウイカについては「南方の海で繁殖し、対馬暖流で能登近海に来た可能性がある」と推測した(北國新聞)。


 英領フォークランド諸島沿海でトロール漁船が捕獲したダイオウイカ(8.6m)が、2006年2月、ロンドン自然史博物館で公開された(BBC)↓

 巨大なダイオウイカが深海で獲物に迫る姿を国立科学博物館が撮影し、英国の科学雑誌に2005年9月27日発表した。
 ダイオウイカの生態は謎に包まれており、本来の生息場所である深海での活動を撮影したのは世界初。
 窪寺室長らは、約1年前、小笠原・父島の南東沖で、餌とカメラをつけたナイロン糸を水深900mの海中に沈めたところ、ダイオウイカが針にかかった。イカは4時間にわたってもがき、腕を切って逃げた。推定全長8mという。

 ダイオウイカは動作が鈍く海中を漂って獲物が来るのを待っていると考えられていた。この映像は通常のイカのように腕を伸ばして獲物に襲いかかる瞬間をとらえており、意外に行動的であることがわかった(読売新聞)。

 2006年12月22日、国立科学博物館はダイオウイカを小笠原沖で釣り上げたと発表した。同博物館の窪寺恒己・動物第三研究室長によると、今月4日、小笠原諸島・弟島の北東約27kmの沖合で、水深約650mまで垂らした「たて縄」という漁具の針にかかった。胴体と短い腕を合わせた長さは約3.5m。成熟前の雌で、2本の長い腕は失われていたが、残っていれば全長が7mに達したと推定される。引き揚げてまもなく死んだ。(読売新聞)。
※ この時撮影した映像がテレビニュースで流されたことをわたぴーさんから知らせていただきました。

 2007年1月、島根県出雲市の田儀港で足を含めた全長6.73mのダイオウイカが見つかり、1月24日、研究のため東京・上野公園の国立科学博物館に運ばれた。イカは胴長1.35m、重さ70kg。出雲市の漁師、田中久義さんが23日夕に港に戻る途中、海面に漂っているのを発見した。既に死んでいたが、比較的新しい状態だったという。
 ダイオウイカは温かい海域の水深600〜1200mに生息。同博物館によると、沖縄周辺のイカが対馬海流に流され、日本海の水の冷たさで弱って浮いてきた可能性があるという(読売新聞)。

 国立科学博物館によると、日本海沿岸では通常2年に1匹程度しか揚がらないが、この冬は昨年12月からこれで4例目となり、担当者は「特異なことで、はっきりした理由はわからない」と首をひねっている。

 2010年2月20日、新潟の海岸に巨大なイカの死体が漂着した。全長約3.4m、体重約110kg。新潟市水族館の職員が調べたところ、ダイオウイカと判明した。新潟市水族館には小さいアオリイカが1匹いるだけ。まさかの巨大イカはアンモニア臭がひどかったが、同館の加藤治彦展示課長は「こんな日が来るとは」と出会いに興奮気味だった(朝日新聞)。
※ YU-KIさんから知らせていただきました

 2014年1月8日、新潟県の佐渡でダイオウイカが生きた状態で見つかった。全長4mほど。死骸が浜に打ち上げられることはあるが、生きているダイオウイカが見つかることは極めて稀なことだ。
 このイカは午前7時ごろに定置網の中で泳いでいるのを地元の漁師が発見した。体重150kgくらい、水揚げ後に死んだ。県佐渡地域振興局が、生きたダイオウイカの撮影に成功している国立科学博物館(東京)の専門家に照会し、雌のダイオウイカと確認した。
 日本海でダイオウイカが発見されることは年に数回あるそうで、8月4日にも富山県の氷見漁港で約3.5mのダイオウイカがブリ漁の定置網にかかっている(MSN産経)。
※ ac7059 さんから知らせていただきました。

 2014年2月25日、兵庫県新温泉町で全長4.1mの生きたダイオウイカが水揚げされた。素潜り漁をしていた地元の漁師が海の中で見つけ、捕獲し、船で運んだ。体重約200kg、触椀(Tentackle)は2本とも切れていた。
 ダイオウイカは無脊椎動物では世界最大で、深海に生息。今年に入り、富山や新潟、鳥取で水揚げが相次いでいる。食べても臭くておいしくないとされているが、諸寄港に駆け付け、足の部分を試しに生で食べた鳥取県立博物館の和田年史主任学芸員は「新鮮だったせいか臭みはなかったが、うまくもまずくもなかった」と話した(MSN産経)。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。


 2015年12月、ダイオウイカが富山湾の港に迷い込み、海の中を泳ぐ貴重な姿が撮影された。全長約3.7m、口から水を吹いたり、足を動かしたりしながら係留してある船の近くを泳いでいた。その後、ダイバーが誘導してダイオウイカを港の外に出そうとしたが、ダイオウイカは海底に沈んでいったという(NNN)。※ わたぴーさんから知らせていただきました。

 ダイオウイカは世界の暖かい海の深海に生息している。何故か寒い冬の日本海でよく見つかっている。日本海では冬に表層が大陸側から冷え始めると、冷たく重い海水が北からダイオウイカの生息層に迫ってくる。それを避けて表層へ移動したところに、強い北西の風が吹くと日本に向けて押し流され、新潟から山口にかけての海岸に漂着することになるらしい。
 ダイオウイカには、生息海域によって腕の長さや太さ、体形などに違いが見られ、これまで18種が区別されていた。ところが世界各地から集めたダイオウイカのミトコンドリアDNAを解析したところほとんど違いがなく1種のみにまとめられた(MSN産経)。

 2013年3月、ダイオウイカのDNA解析の結果が発表された。新発見の一つは、ダイオウイカは1種しか存在しない可能性が高いというものだ。また、ダイオウイカは実は希少種ではなく、深海に多数が生息しており、幼体が暖流に乗って世界の海に広まっている可能性があるという。
 解析を行なった生物学者らは、ダイオウイカには Architeuthis dux ただ1種のみであり、この種は汎存種で相当な数が生息している可能性が高いという(AFPBBNエws)。
※ ac7059さんから知らせていただきました。

BBNews

メルボルン博物館に展示されている10mのダイオウイカを眺める女の子。

 ニューファウンドランド沖でダイオウイカが人(船)を襲った記録がある。何か大きなものが波間を漂っているのを見つけた漁師が、確かめようとして船を漕ぎ寄せ、一人がそのかたまりを叩いてみると、その巨大な怪物が突然うごめきだした。ぎらぎら光る目とオウムのような嘴の付いた巨大な頭が海面から持ち上げられた。それから2本の触手を船体に巻き付け、大きな嘴で船に激しい一撃を見舞った。ついに漁師の一人が斧を振りかざし、触手をメッタ切りにした。するとイカはおびただしい墨で海面を染めながら退散した。このとき切断された1本の触手はこの話を伝えた船長の元に残されることになったという(O. ブレランド、1963)。

 ロシアの動物学者ゼンコヴィッチ(B. A. Zenkovich)は1938年にマッコウクジラとダイオウイカの戦いを目撃したという。大きなマッコウクジラが1頭、彼らのすぐ近くの海面に現れた。その奇妙な行動がゼンコヴィッチの注意を惹いた。水面から体を半ば乗り出したかと思うと、まるで銛にでも撃たれたかのようにひっくり返った。よく見ると何か冠のようなものが、マッコウクジラの頭に被さっており、それが大きくなったり、小さくなったりする。
 ここで彼らは、それがダイオウイカの長い脚であることに思い当たった。マッコウクジラはダイオウイカを海面に叩きつけて気絶させようとしているらしい。それであんなに水面に身を乗り出してわざと転倒しているのだ。ゼンコヴィッチの一行がさらに接近した時、クジラはついに獲物を呑みこむことに成功した。
 これはロシアのヤ・ツィンゲル(動物学への招待、1957)からの引用だが、もし事実なら(ツィンゲルには疑っているふしはない)マッコウクジラとダイオウイカの戦いの唯一の目撃例といえるが。

 ダイオウイカの唯一の天敵はマッコウクジラ。雄のマッコウクジラは海中深く潜ってダイオウイカを探し、かなり大きなイカでも丸ごと呑み込んでしまう。シャチや大型のサメも水面に漂っている死にかけたダイオウイカを襲うことはあるが、習慣的に深海まで出かけてダイオウイカを捕食する動物はマッコウクジラ以外にない。
 捕獲されたマッコウクジラの口の回りや頭の皮にダイオウイカの吸盤の痕が残されていることがある。その中には直径13cmに達するものがあった。全長9.7mのダイオウイカで吸盤の直径は最大32mmだった例があるが、このマッコウクジラと戦ったイカはどれほど巨大だったか?
 まだ若いクジラにつけられた吸盤の痕は、クジラの成長と共に大きくなる。また、ダイオウイカは種類によっては体の割に大きな吸盤を持っている。さらにマッコウクジラに寄生するヤツメウナギの吸盤である可能性も高い。だから吸盤のサイズからダイオウイカの大きさを推定することはできないが。

全長(m)発見地備 考
19 ?インド洋(1950頃)ロシアの捕鯨船がマッコウクジラの胃の中から発見
約12オークニー(1972)16mのマッコウクジラが呑み込んでいた
12北太平洋(1964)体重204kg。ロシアの捕鯨船が見つけたとき、まだ生きていた
10.5アゾレス(1955)体重184kg。14.3mのマッコウクジラが呑み込んでいた
10.4マデイラ(1952)体重150kg。クジラの胃の中でまだ生きていた。

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