ネズミやリス、ヤマアラシなどのなかま−齧歯類−は哺乳類の中で最大派閥で、哺乳類全種約4500種の40%にあたる1800種を含んでいる。
 この齧歯類で群を抜いて大きい種が、南アメリカの水辺に棲むカピバラ Capybara で体長105−135cm、肩高50−62cm、体重35−65kg。小型のブタほどもある。別名を Water hog ともいう。

アルゼンチンで William A. Paulin が撃ったカピバラ。体重75kg。

 飼育下ではもっと重くなることがあり、アメリカ・インディアナ州の Evansville 動物園では79kgに達したものがいる(Zara, 1972)。一説では100kgに達するともいわれ、詳細は不明だが113kgにもなったものがあるという(Carwardine, 1995)。

 中新世後期から鮮新世にかけて、700万年〜1500万年前の南アメリカにいたテリコミス Telicomys gigantissimus はカピバラの倍も大きかった。体長2.1m。
 カピバラはただ1種でカピバラ科を構成しているが鮮新世には多数の種を産み出している。

テリコミスは同じ齧歯類でもパカラナ科に属する。パカラナ科は少し早く、中新世に多数の仲間を輩出した。その中にはテリコミスよりも大きかったかもしれないエウメガミス Eumegamys がいる。クルテン(1971)はこれこそが古今を通じて最大の齧歯類だったとしているが、また詳しいことはわかっていないとも述べている。頭骨の長さは50cmもあった。
 現在のパカラナ(体長75cm)は南アメリカの山地の森林に棲み、果実や木の葉を食べている。一方、カピバラは水草の繁茂した湿地帯に棲んでいる。テリコミスがどのような生活をしていたのかはまだわかっていない。


 2008年1月、南米のウルグアイで体長3m、推定体重が1トンにも達する巨大齧歯類の化石が発見されていたことがイギリス王立協会の学術専門誌 Proceedings B に掲載された論文によって明らかとなった。
 ウルグアイ南部にあるラプラタ川で発見された頭骨は53cmもあり、モンテビデオ自然史博物館に収蔵されたという。この史上最大の齧歯類 Josephoartigasia monesi は今から200万〜400万年前に生息していた(technobahn.com)。
 2008年5月、1トンという推定は過大であるとの論文が同じ Proceedings B に掲載された。モントリオール・マクギル大学のバージニー・ミリアン博士によれば、体重はせいぜい350kg前後で、ウルグアイの研究者が論文発表したような1トンもの体重があるとは考えられないという(afpbb.com)。
 古代の動物の推定体重は過大になりがちだが、1トンと350kgでは差がありすぎる。ただ論文に掲載されたカピバラとの比較図() は少々大袈裟ではと感じられるが。
※ Yamada さんから知らせていただきました。
 ヨセフォアルティガシアはパカラナ科に属すると考えられるがカピバラのように森林の水辺に棲み、その歯の形から水生植物を食べていたと思われる(National Geographic)。

 2008年6月、ウルグアイのモンテビデオ自然史博物館に収蔵されていた史上最大の齧歯類、Josephoartigasia の頭骨が公開された。頭骨は20年近く前にアルゼンチンの化石収集家、Sergio Viera によって Kiyu Beach 付近で発見されていた。
 ここ(Newshoper)では推定体長2.5mとやや控えめになっている。体重350kgの可能性が高くなってきた。そうだとすると史上最大の齧歯類のタイトルも危うくなってくる。
 2003年に見つかった南米の巨大ギニアピッグ(いわゆるモルモット)Phoberomys pattersoni は体長3m、体重700kgもあったのではといわれているからだ。


 世界の齧歯類でカピバラについで大きいのはビーバーだろう。ヨーロッパからアジアにかけて(ヨーロッパ・ビーバー)と北アメリカ(カナダ・ビーバー)に分布し、体長65〜85cm、体重13〜30kgになる。平らな尾は30〜40cmほどある。1960年にミズーリ州で捕獲された大きなビーバーは、全長153cm、体重41kgもあった。1921年にウィスコンシンで50kg、さらに1938年にはワイオミングで52kgもある個体が捕らえられている(Leonard Lee Rue,1981)。

 ビーバーは生まれつき戦うということを知らない。体も大きいし、丈夫な歯や、鋭い爪という武器もあるのに、性質はまるで天使のようで、陸上にいる時に忍び寄ってくる肉食獣や、泳ぎまわっている時に空中から急降下して襲ってくる猛禽類を相手に戦い抜こうなどという気は、ぜんぜん起こさないのだ。そこでどうしても働くということになってくる。ダムを作るにはそんなわけがある(ビル・カニンガム、1966)。


 齧歯類のビーバーは、ネズミやリスに似たかわいい顔つきをしている。かれらが一所懸命に木や枝を運び、ダムを作る姿をまるで天使のようと形容するのもむりはないかもしれない。しかしビーバーは強い歯を持っており、直径70cmくらいまでの樹木を齧って倒すことができる (Hanak and Mazak,1979)。
 そしてビーバーはけっして戦うことを知らないのではない。襲ってきたクズリと水中で戦い、これを倒した猛者もいる。そしてベラルーシ(旧白ロシア)では、ついに人が襲われて死亡する事件が起こった。

 2013年4月、仲間とシェスタコフ湖に釣りに出かけた男性が大きなビーバーを発見し、写真を撮ろうと近づいたところ、ビーバーは彼に襲いかかり、腰の部分を2回にわたって噛んだという。その傷は動脈に達しており、友人たちの処置もむなしく、出血多量で救急車の到着する前に死亡した(ロシアの声)。
 その数日前にもロシアでビーバーの襲撃を捕らえた動画が投稿されている。道路を歩いていたビーバーが人に気づき、向きを変えて襲ってきたのだ。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。

 更新世(1〜200万年前)の北アメリカには、巨大なビーバー、カストロイデス Castoroides nebrascensis が棲んでいた。体長1.5mに達した(国立科学博物館)。体重は60〜100kgと推定されている。以前は体長2m以上、体重220kgに達したといわれていたが、最近ではこれらの見積もりは過大だと考えられている。
 これほど大きいとダムを作ることは困難なため、カステロイデスはダム造りはしなかったと考えられている。しかし上あごの大きな歯は15cmもあった。この前歯はなんのためにあったのだろうか?

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