ラクダには、広く知られているように2種あり、ヒトコブラクダ Dromedary は北アフリカ、南西アジア、インドなどで多数飼われている。野生のものはいない。フタコブラクダ Bactrian Camel は中央アジアで飼われており、ゴビ砂漠には野生のものが数百頭生息している。
 どちらも肩高2m、体重700kgに達する大きな動物で、特に脚が長いヒトコブラクダ(乗用)には肩高2.4m、こぶのてっぺんまでの高さ3mに達するものがある。陸上ではキリンやゾウについで背の高い動物なのだ。

 アフリカのサハラ地方で走行用に使われているラクダは脚が長くすらりとしている。一方、農耕、運搬用のラクダはややずんぐりとして鈍重な感じである。
 ヒトコブラクダは大西洋のカナリア諸島にも見られ、オーストラリア、北アメリカ、イタリア、スペイン南部にも移入されたことがある。
 原産地はアラビアからアフリカ北東部にかけての地域と思われている。いつ頃家畜化されたのかは不明だが、アラビアではすでに紀元前3000年頃には飼われていた
 暑くて乾燥した土地に適応していて、湿気の多い風土には馴染まない。ジャワ島に移入されたヒトコブラクダはそこの気候や食物に順応できず全滅してしまった。

 1622年、イタリアの富豪、メディチ家のフェルディナンドは、何頭かのラクダをトスカナ地方に持ち込んだ。その後、イタリアには何度かラクダが移入され、その子孫が今日もピサの近くのサン・ロレッソで飼われている(世界動物百科56)。

 アメリカでは1865年に、乾燥地帯へ遠征する際の運搬用として、政府によって導入された。その子孫がアメリカ西部に生息していた時期があり、ときおり姿を現しては住民や旅行者を驚かせたものだった(ブレランド、1963)。

 現在では野生化したヒトコブラクダが生息しているのはオーストラリアだけのようだ。2000年に30万頭以上がオーストラリア(主に西部)にいるという(feral.org.au)ことだったが、2009年にはその数は100万頭にも達しているそうでこれが問題となっている。
 2009年11月、干魃が続いているオーストラリア・北部特別地域奥地の町で、野生のヒトコブラクダ約6000頭が、飲み水を求めて中心部まで侵入し、水道設備を破壊したり、空港滑走路を占領するなど暴れまわっている。住民たちはラクダを恐れ、家からも出られない状態になってしまった。
 フタコブラクダは、オーストラリアでは、19世紀終わりから20世紀初頭にかけて荷物運搬用に持ち込まれた。しかしその後、鉄道や道路の整備が進み、放たれたラクダが野生化した。天敵や人間が少ない地域だったことから、ラクダの数は急増。餌を食べつくしたり、病気を蔓延させたりして原生種の動物を駆逐する勢いになっている(AFPBB)。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。

 オーストラリアではイノシシやスイギュウなど持ち込まれた家畜が野生化して増加している。それだけ住み心地がよいのだろう。今でこそ既存の生態系を脅かすとして、外来動物は(日本でも)悪者扱いだが、駆除しか手立てがないのだろうか?
野生のラクダ(オーストラリア中部のアリススプリングス)

 ラクダは普通、側対歩(同じ側の前足と後ろ足を同時に上げる歩き方)で歩く。長い首を振ってバランスを取りながら歩くので、乗り手には竹馬に乗っているような感じを与える。加速度が付くにつれ、揺れが少なくなる。
 餌と水を充分に与えられたラクダは、1日に140kmのペースで3、4日も歩くことができる。運搬用のラクダは、150kgほどの荷物を載せて1日に25〜50kmを歩く。
 エジプトで古代遺跡の監理長官をしていたアーサー・ウェイガル(1966)は乗用のラクダは歩かせないのが習慣であると言っている。ラクダが歩くとひどく揺れて、乗り手は左右によろめき、胸が悪くなる。小刻みで速歩き(トロット)で進むのが普通で、これだと鞍の上で、上下に揺れるだけ。速度が増してギャロップになると、ますます快適になる。速い方が快適だということで彼はラクダが砂漠の船と呼ばれるのだと皮肉っている。

 ラクダは植物を食べて水分を補給できるので、きつい仕事に就かない限り、特に水を飲む必要はない。長い間水分を摂らないとラクダは目に見えて痩せる。肋骨が露わになり、こぶは小さくなる。しかし水を飲むやいなや、不足していた水分を取り戻し、数時間でもとの体になる。
 これは水分が不足すると、まず体の組織に含まれる水分が失われ、こぶは小さくなり、皮下脂肪は薄くなり、ラクダは痩せてくる。しかし血液中の水分は変わらず、内臓には何の影響もない。人やたいていの哺乳類は、水分の消失は血液から始まる。暑さが厳しい時には血液は水分を失って濃くなり、循環は遅くなる。そして重大な障害が起こってくるのだが、組織の水分は失われないので、痩せてしまうわけではない。


 ヒトコブラクダは砂漠に生えている固くて水分の少ない草も食べる。籠やむしろを食べて飢えを満たすこともある。スーダン東部では藁屋根や、アシの壁を食べてしまうラクダから、自分たちの住む小屋を守らねばならない。

 一方、必要な時にはラクダはたいへんな量の水を飲む。10分ほどで数十リットルの水を飲むという。ラクダの体はみるみる膨らんで、再び歩き始めると、腹に溜まった水が、半分ほど水の入った樽を揺り動かす時のような、水音をたてる。これだけ飲むと、暑さのしのぎやすい冬なら1週間は水無でいられる。
 ラクダは一度に体重の3分の1から4分の1の水を飲んでしまう。体重202kgの若い雌が、1度に66.5リットル、235kgの雄が104リットルの水を飲んだ例がある。ラクダは水を飲むと数時間後には全身が水ぶくれになる。こんなに急激に大量の水を飲めば、他の動物では血球が壊れてしまう危険があるが、ラクダの赤血球は特別抵抗力が強い(中川志郎、1972)。

 ラクダは草食動物では珍しく、犬歯が発達している。顔に似合わず猛獣で人が噛まれて大けがをすることがある。農耕用のラクダでは、口輪がはめられていることが多い。

 フタコブラクダはヒトコブラクダよりも脚が短めでずんぐりとしていて、毛深い。原産地はトルキスタンからモンゴルにかけての地域で、やはり数千年前に家畜化されたと考えられる。
 ゴビ砂漠には数百頭の野生のラクダがいるが、これが真の野生種かどうかは疑わしいといわれる。地域によっては放し飼いにしているので、逃亡して野生化する可能性があるからだ。
 フタコブラクダはヒトコブラクダよりも歩くのは遅いが、もっと頑丈で250kgの荷物を載せて1日に30〜40kmを歩く。冬ならば水なしで8日、食物なしで4日、歩き続けても平気であるという。しかし暑さにはあまり強くない。

 乾きに強い動物はラクダだけではない。キリンやシロイワヤギ、野生ヒツジ類は数日間は水を飲まないでいられる。ジリスやカンガルーネズミなどステップや砂漠に棲む小動物にもろくに水を飲まないものがいる。しかしラクダのように重労働を課せられたら、水を飲まないわけにはいかないだろう。


 フタコブラクダの雄とヒトコブラクダの雌を交配させて生まれた雑種を現地ではデュルと呼ぶ。ひとつのこぶはかなり発達するが、もう一つのこぶはごく小さい。
 この雑種は繁殖能力がない。一代限りだ。これは両者がごく近縁ながら別種であることを示している。雄でも発情期に凶暴になることがないので、使役に広く使われている(中川志郎、1972)。

←大阪のみさき公園自然動物園でもこのヒトコブハンラクダが1965年に生まれているが71年に事故で死亡した。

 現在のラクダの祖先は、北アメリカで繁栄していた。脚も首も長いキリン型の体型で、2本の蹄を持っていた。また足跡の化石から既に側対歩をおこなっていたようである。
 中新世のオキシダクチルス Oxydactylus は肩高1.3mほどだったが、首が長くて背が高く、細長いすらりとした四肢を持っていた。代表的な種類である肩高2mの Aepycamelus(以前はアルティカメルス Alticamelus と呼ばれていた)も中新世から鮮新世にかけて、500〜1400万年前に分布していた。そして最大のティタノティロプスは鮮新世(200〜500万年前)に現れた。これは肩高3.5mもあり、首を持ち上げた時の頭の高さは5mを超えていた。ゆうにキリンほどはあったのだ。
 これらのラクダは現在種によく似ていたが、ラクダ最大の特徴とも言えるこぶはなかったと考えられる。現在のヒトコブラクダやフタコブラクダが大きなこぶを持っているのは、その厳しい生息環境への適応で、鮮新世のラクダはあちこちに樹木のある草原に棲んでいた。

 2006年10月、シリア中部でスイスとシリアの合同調査隊によって新種のラクダ(の化石)が発見された。鑑定されるのはこれからだが、更新世後期、ほぼ10万年前のもので現在のヒトコブラクダとどう繋がるのかもまだわからない。肩高約3mと推定され、ヒトコブラクダの1.5倍も大きい。
 また同じ場所から人類の化石や、石器も見つかっていることから当時の人類がこのラクダを狩っていたと推測される(National Geographic)。
※ このニュースは Yamada さんから知らせていただきました。

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