1962年7月、ロシア北東部のアナジル湾で、ロシアの捕鯨船 Buran の乗組員は海面をゆっくりと泳ぐ数頭の大きな動物を目撃した。それらは長さが6〜8mくらいあって、黒っぽい体をしていた。彼らは体をくっつけあうようにして泳ぎ、沈んだり、浮かんだりを繰り返しながら、海草を探しているように見えた。
 乗組員達からその話を聞いたロシアの生物学者 Berzin は絶滅したステラーカイギュウ Steller's Sea Cow ではないかと考えた。

 1741年、ドイツの博物学者 George Wilhelm Steller は2度目のアジア横断の探検の時、ベーリング海で遭難した。その時彼はある島で同行のメンバーが食料と毛皮を得るために捕獲した大きな海生動物を詳細に観察した。
 それは長さ7.5m、胴回りが6.2mもありおよそ3トンあまりの肉と脂肪を手に入れることができた。実際の体重は5トン近くと推定される。
 この非常に大きな、そしてほとんど抵抗力を持たないステラーカイギュウの話がカムチャツカに伝えられると、肉や油を求めて多くの漁師が出かけ、発見されたときでさえ推定生息数は2000頭程といわれていたステラーカイギュウだが、わずか27年後には姿が見られなくなってしまった。
 もっとも状況証拠からするともう少し先まで、1830年頃までは生存していたかもしれないが。

 アナジル湾でロシアの捕鯨船が目撃したステラーカイギュウらしき一団は、あるいはイッカククジラ Narwhal ではなかったかと指摘されている。イッカクは体長4〜6mくらいで、3mに達する1本の牙を持っているが、海面を体をくねらせて泳ぐとき、牙が目につかないことが多いからだ。イッカクが北極海の外で見られることは滅多にないのだが、それ故捕鯨船の乗組員も彼らが見たものが何か特定できなかったのかもしれない。

 2009年7月23日、富山県で発見されたジュゴン類の化石が公開された。更新世初期に、富山湾に推定10mもあった巨大なカイギュウ類が生息していたことになる。見つかったのは頭や顎、肩や肋骨の一部で、特徴的なおよそ10点の化石は、カイギュウのどの部分の骨なのか特定できていて、この他に部位が特定できない細かいものも数十点あった。
 化石は、ジュゴンの仲間の Hydrodamalis の1種と見られているがまだ研究中。そうだとするとステラーカイギュウ Hydrodamalis gigas に近縁のカイギュウである。またこれまで国内では北海道や石川県などで27例のカイギュウ化石が見つかっているが、カイギュウ類の進化の過程の空白域を埋める可能性のある貴重な発見だという (KNBNews)。※ わたぴーさんから知らせていただきました。

 富山の推定が10mというのはたいへんな大きさだ。300−800万年前にカリフォルニアにいたやはりステラーカイギュウの近縁種 Hydrodamalis cuestae は9m以上もあって最大のカイギュウ類とされている(Carwardine, 1995)のだから。
 日本国内でのカイギュウ化石の発見としては、比較的新しいところでは、2006年12月5日、新潟県中越地震に伴う長岡市妙見町の災害復旧工事現場で、200−250万年前の地層からカイギュウ類の化石がほぼ完全な形で見つかっている。頭部は欠けていたが、破片を含め首から下の骨100個以上を採取した。同市立科学博物館はクジラにはない長さ約50cmの前腕の骨を確認しカイギュウと断定した。体長は前腕の長さや肋骨(直径約7cm)の幅などから約7mと推定されている。

 アフリカ東部の沿海から南アジアにかけてすむジュゴンは、ステラーカイギュウに近い種類で希には沖縄の近海にも現れる。
 体長2.5〜3.3mで体重は150〜380kgくらいだが、1959年にインドの西海岸で長さ4.1m、体重1t近くもあるものが捕獲された記録がある。


 紅海で体長5.8mもあるものが捕獲されたとの記録もあるが、あまりに大きすぎて疑わしい。

 1958年10月、ケニヤの近海で体長3m、体重450kgほどのジュゴンが生け捕られた。その時、映画の撮影をしていた一行に望まれてジュゴンはホテルのプールで数日を過ごし、その後海に帰された。
 1905年7月、紅海を航行中の貨物船 Samshon が3人の漂流者を発見した。彼らは上半身を海面から出した姿勢で、海面に浮かんでいた。おそらく船が難破して遭難したのだろうと考えた船長は、救援すべくすぐさま船を近づけたが、驚いたことにそれはジュゴンの親子だった。3頭とも生け捕りにされて船内の水槽に入れられたが、すぐに死んでしまった。

 マナティには3種類があり、メキシコ湾やカリブ海にフロリダ・マナティ、アマゾン川に淡水性のアマゾン・マナティ、アフリカ西部の沿海にアフリカ・マナティが住む。
 最大種フロリダ・マナティで体長3m、体重270kgくらいが普通だが、1910年にテキサスの沿海で生け捕りにされた雄は体長4.7mもあった。体重は594kgだったといわれるが、中くらいのゾウアザラシが4.5mで2tほどもあるのだからこれはかなり少ない。
 マナティの体型からすると900kgはあっても良いくらいだ(もちろん個体によって細長かったり、太っていたりするのだろうが)。Carwardine(1995)は、最大で3.9m、1660kgとしている。また平均的なもの(3m)でも500kgといっている。こちらの方がプロポーション的には合致する。


HOME