今から2億〜2億5000万年前、中生代三畳紀には最初の恐竜が出現した。しかし彼らはまだ小さく強くもなかった。この時代、陸上でも水中でも覇を唱えていたのは今のワニ似た巨大な肉食動物だった。なかでも三畳紀後期の側鰐類・フィトサウルスは外観や生態はワニにかなり似ており、平行進化の顕著な例とされる。

ルティオドン  三畳紀には主竜類と呼ばれる大きなグループが出現した。フィトサウルスは以前は槽歯類に分類されていた。フィトサウルスは槽歯類の特異なグループで、その名前は草食のトカゲを意味する。初めて発見された化石から彼らが草食性だったと誤認された故だが、動物学における命名法は名前の変更を許さないのだ(クルテン、1968)。

 最近の分類では槽歯類という名前はなくなり、恐竜(鳥類を含む)・翼竜・ワニなどと主竜類を構成している。ワニとは見かけどおり近縁である。ワニそのものではないが、初期のワニと共通の祖先から進化した。


 三畳紀に登場した恐竜は、その後期までに鳥盤類、竜脚形類、獣脚類がすべて揃っていた。しかしまだ恐竜は陸上の支配者ではなかった。ヘレラサウルスやコエロフィシスのような初期の肉食恐竜はトップに立つ捕食者ではなかった(ホルツ、2007)。
 フィトサウルス類で最大の種は北米産のスミロスクス Smilosuchus gregorii で全長12mを超えるものもいただろう。当時の小型肉食恐竜はこのような巨大フィトサウルスを常に警戒して暮らしていただろう。

 フィトサウルス類の現在のワニとの明確な相違の一つは、鼻孔の位置で、目のすぐ近くにあった。喉と気管に近いところに鼻孔があるので、水中でも水を間違ったところに取り入れずに口を開けることができる。足跡の化石から、フィトサウルスは後脚で(直立とまではいかないが)立ち上がることができ、ワニとは違って尾を引きずることなく動けただろう。

スミロスクスの頭骨(100−155cm)
スミロスクス


ルティオドン  フィトサウルス類の代表的な種類、ルティオドン Rutiodon carolinensis はヨーロッパ(ドイツ、スイス)と北アメリカから見つかっている。大型種では頭骨の長さ77cm、全長は6mに達した。現在のガヴィアルを想わせる長い口吻からおもに魚を食べていただろう。しかし他の爬虫類も捕食していた。ルティオドンの化石の中に他の爬虫類の残骸が混じって発見されているからだ(Barry Cox, 1988)。

ミストリオスクス

 ヨーロッパには魚食に特化し、最も長い頭を持ったフィトサウルス類・ミストリオスクス Mystriosuchus planirostris が知られている。現在のガヴィアルとよく似た体形で、生態も同様であったらしい。四肢も短いので腹を地に付けて歩いたものと思われる(鹿間、1978)。頭骨の長さは75−105cm、大きなものでは全長6mに達した。淡水生だったと思われるが、最近イタリア北部で見つかったこの種の化石では、海に棲んでいたのではと指摘されている。
 蛇足ながら、ミストリオスクスはジュラ紀の中鰐類・ミストリオサウルスと名前も外見も似ているので間違えやすいかもしれない。

プロテロスクス

 フィトサウルス類より前の時代、三畳紀前期には前鰐類のプロテロスクス Proterosuchus fergusi が今のワニのような生態的地位を占めていた。化石は1903年に南アフリカで初めて発掘され、その後ロシアと中国でも見つかっている。当時では最大級の陸生動物で全長3.5mに達した(BBC、2006)。

 三畳紀の前期にはもっと陸生に適応した前鰐類も現れた。1905年に南アフリカで発見されたエリスロスクス Erythrosuchus africanus は頭骨の長さ1m、全長は5mに達するずんぐりした重々しい動物だった。四肢は短かったが、肩や骨盤はよく発達し、腹を地面につけずに歩いたと思われる(鹿間、1978)。力強い顎に鋭い歯を備え、この時代では最大・最強の捕食者だった(Barry Cox, 1988)。

エリスロスクス

HOME