中生代ジュラ紀中期、今から15000万−16500万年前にヨーロッパの海に棲んでいたリオプレウロドンは、大きな頭と強い顎、太くて短い首、そして強大な4つの鰭を持つ巨大なハンターだった。海のワニや巨大な魚リードシティクス Leedsichthys、魚竜 Ichthyosaurs などを襲ったことだろう。
 BBC によって全長25mに達した史上最大の肉食動物(捕食者)と喧伝され、一躍有名になった。2000年1月にテレビ朝日系で放送された恐竜ドキュメンタリーで初めて日本のマスコミにも登場した。


Tubingen Museum にあるリオプレウロドンの標本(全長4.5m)

 しかしこの25mという数字にはたいした根拠があるわけではなさそうだ。リオプレウロドンの化石は1824年以来イギリスで多数見つかっているのだが、それらはたいてい断片的であり、巨大だという点では注目を浴びてはいなかった。これまでに Liopleurodon ferox と鑑定されている中で最大の頭骨は1.5mにすぎない。しかしリオプレウロドンと鑑定されていないプリオサウルス類にはもっと大きな個体が知られている。(plesiosaur.com)。


 オックスフォードの Kimmeridge Clay で見つかった長さ3mの下顎がオックスフォード大学の博物館にある。以前よく引用されていたリオプレウロドンの推定全長12〜15mはこれから来ているようだ。また体重は10t以上あっただろう。これは当初プリオサウルスと呼ばれていたが、1959年になって Stretosaurus marcromerus と命名される。リオプレウロドンの1種とされたこともあった。2004年には以前の名前をミックスして Pliosaurus macromerus とするべきだと提唱された。

 2002年6月に発表されて有名になった巨大で、保存状態の良好な化石に Monster of Aramberri がある。発見されたメキシコの地名にちなんでこう呼ばれた怪物は1982年に見つかっていたが、最初は恐竜のものだとされていた。頭骨の長さ3.5mもあり、全長18m、体重50t以上と推定されている。マッコウクジラと並べてみると体重の見積もりは過大なように感じられるが。
 この骨はドイツの Karlsruhe にある自然史博物館の Eberhard Frey によってリオプレウロドン Liopleurodon ferox と鑑定されたそうだ。しかもまだ若い個体のものだという(Discovery)。
 ドイツとメキシコの古生物学者によって発見されたこの Monster of Aramberri の頭骨には穴が開いており、獲物の反撃を受けた結果らしい (ANI)。

 2008年3月、ノルウェーのオスロ自然史博物館はスピッツベルゲンで巨大なプリオサウルス類の化石を発見したと発表した。

 北極点から1300kmほど南の Svalbard で2006年夏に見つかったのは、頭骨(断片)や歯、首や背の骨などで中には3m近くもある鰭も含まれている。
 まだ発掘の過程にあり、種名も確定していないこの15000万年前のプリオサウルスは全長15mくらいあっただろうという。
 プリオサウルス類の化石としては最大級で、保存状態も良好というだけでなく、恐竜時代−ジュラ紀には北極に近い地域の海にまでこのような巨大な動物が生息していたことを示す点でもユニークな発見である(BBC)。
※ Yamada さんから知らせていただきました。

 Predator Xと呼ばれていたこのモンスターは2013年に Pliosaurus funkei と命名された。頭骨はバラバラでごく一部であるため復元は難しい(1.8〜2.4m)。その他の骨も多くはないので全体像ははっきりしないようだが、背骨からの推定では全長10〜13mとしている(MailOnLine)。

イギリスで新たな発見

 巨大なプリオサウルス類の頭骨が発見された。2011年7月からイギリス南部のドーセット州立博物館で公開されたその頭骨は長さ2.4mもある。1億5500万年前のプリオサウルスとまでは鑑定されているが、まだ命名されていない。
 リオプレウロドンやクロノサウルスのもっと大きな頭骨を差し置いて、プリオサウルス類の完全な頭蓋骨として最大と称するのはどうかと思われるが、巨大であることは確かだ(NationalGeographic)。


 海に棲んでいた爬虫類の中で最大といわれている首の短い首長竜? プリオサウルス類は頭でっかちで23cmもある歯と、今のマッコウクジラに匹敵する巨体を持ち、当時の海で食物連鎖の頂点に立つ動物だった。このプリオサウルス類では、リオプレウロドン以上に代表的な存在が白亜紀前期のオーストラリアから知られるクロノサウルスだ。


 1899年にオーストラリア・クイーンズランド Hughendon 近くで Andrew Crombie によって下顎の断片が発見された。その中には25cmもある歯が含まれていた。1929年にはさらにいくつかの骨が見つかり、その中にはやはり頭部や前の鰭の一部も見受けられた。これらの化石からクロノサウルス Kronosaurus queenslandicus と名付けられた巨大な海棲爬虫類の頭骨全長は285cmと推定された。

 1931年、ハーバード大学の探検隊が、クイーンズランドの Richmond 付近で2.7mの頭骨()を含む大型のプリオサウルス類の骨を発見し、先に見つかっていたクロノサウルスと同じ種類と断定された。そして25年をかけて立派な骨格が組み立てられ、ハーバード大学の比較動物学博物館に登場した()。ただ多くの化石が傷んでいたので、かなりの部分が石膏で修復されながらの作業であり、不足していると思われた背骨がいくつも追加され、最終的に12.8mの全身骨格が完成した(ナチュラル・ヒストリー誌1959年1月号)。


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クロノサウルスは10m前後?

 最近になってオーストラリアからは遠く離れた南米のコロンビア北部の Boyaca でクロノサウルスの新種が発見された。1992年、フランクフルト博物館の Oliver Hampe の発表ではこの Kronosaurus boyacensis は尾の部分を除いてほぼ完全な骨格が掘り出され、推定全長は9mと言われている。この骨格では背骨はハーバード大学の標本より10個少なく、これからハーバード大学の13mは過大ではないかと言われ始めた。しかしコロンビアのこの骨格にはいくつかの点で特異な部分がありクロノサウルスとは別の名前(属名)となって再発表されるかもしれない(Ben Creisler, 1998)。

 クロノサウルスの頭骨の復元(2.7−3m)が正確だとしたら、全長9−10mとするのはプロポーション的におかしいと感じるのだが(2.7mは過大であるとの説もある)、コロンビアで見つかった Kronosaurus boyacensis頭骨は長さ236cm、下顎の長さ約2.6mだという(Ben Creisler, 1999)。これで全長9mと推定されているので、ハーバード大学の標本も背骨の追加は余計だったということになる。クロノサウルスはプリオサウルス類でも特に頭が大きな動物だったのだろうか。頭骨の長さが全長の1/4以上を占めるというプロポーションはイメージし難いのだが。

 プリオサウルス類は、同時代に生存していた首の長いプレシオサウルスを襲っていたようだ。クロノサウルスの化石の胃があったとおぼしき辺りからプレシオサウルス類やウミガメの残骸が見つかったといわれている。オーストラリア産のプレシオサウルス、Woolungosaurus の頭骨にはクロノサウルスに付けられたと見られる歯型が残っている。


 リオプレウロドンやクロノサウルスなど巨大なプリオサウルス類は、古今を通じて最大の海棲爬虫類とされているが、それを凌ぐかもしれない発見がカナダのブリティッシュコロンビアでなされている。
 1991年に Sikanni Chief River でこれまでで最大のイクチオサウルスが見つかっているのだ。 Shastasaurus sikanniensis と命名された新種の魚竜は、1928年にネバダで発見され、最大の魚竜といわれていたショニサウルス Shonisaurus popularis(15m)よりもさらに大きく、全長は18−21mもあるという。

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