2007年4月、ロシア極東地域のハンターが、アムールヒョウの雌(35kg)を射殺した。これによってアムールヒョウはまた絶滅に近づいてしまったと、23日、世界自然保護基金(WWF)が発表した。
 専門家は先週、現在生き残っているアムールヒョウは25頭から34頭だと発表していた。雌の繁殖に頼った種の保存には、少なくとも100頭の生存が必要だ。
「これは単におびえか無知による殺し、この場合両方でしょう」と、WWFの生物多様性コーディネイターでロシア極東地域を担当するパベル・フォメンコは声明で述べた。WWFによれば、ハンターは尾骨からヒョウを撃った。 ヒョウはひっくり返り、重い物で頭を打たれていた。
 環境保護論者たちは、極東の国立公園でのヒョウ狩りを摘発するため、より厳しい規制を導入するようロシア政府に要請している。また彼らは、人間によって破壊されつつある動物の自然環境と食物供給の保護に関しても、より一層の努力が必要だと主張している。
 現地の野生動物監視団体が、ヒョウが殺されたとの匿名の情報提供を受けた。一日かけた捜索の末、当局はヒョウの死体を発見した。ヒョウは4月15日か16日のいずれかに死亡したとみられている(WWF)。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。

 一つの動物を語る上で、絶滅危惧の話から始めなければならないのは気が重いのだが、アムールヒョウの場合、それは避けられない話題だ。極東ロシアのアムール・ウスリー地域にすむアムールヒョウは、ヒョウの中で最も北方にすむ亜種で、上に書いたように現在は30頭前後しか生存していないのだ。そのうちの1頭、しかも雌が殺されたのは残念というほかない。野生のヒョウは雌より雄のほうが数が多い。WWFによれば、ネコ科の動物はストレスを感じているとき、雌より雄を生む傾向があるからだそうだ。
 2002年から2007年にかけての調査では、14個体を識別できたが、2007年の時点で生存が確実と思われる個体は、わずか9頭に過ぎず、さらに雌はそのうちのわずか2頭に過ぎないことが確認された(WWF)。

 シベリアトラにもいえることなのだが、アムールヒョウの生存には環境保全が欠かせない。人為的な森への火入れや違法伐採、エネルギー開発などによる、森林の急激な消失・分断がトラやヒョウの獲物となる草食獣に必要な植生を減少させている。このことがアムールヒョウがここまで減少した背景にある。

 2007年4月の件では、ヒョウの保護区にうっかり侵入してしまったハンターが、ヒョウに驚いて射殺したと判断されているが、アムールヒョウが絶滅の危機に直面しているのを知っての事かどうかはともかく密猟されていることも事実だ。福田俊司氏はタイガの中で密猟されたアムールヒョウ の骨を見つけておられる(シベリアの野生動物)。

 2008年7月4日、広島の安佐動物公園(安佐北区)でアムールヒョウが公開された。フランスのミュルーズ動物園から6月3日にやってきた雌(5歳)で公開当初は来園者に驚いて興奮していたが、しばらくすると木に登ったり、寝そべったりしてリラックスしていた。
 安佐動物公園では2年前に伴侶を失っている雄(11歳)と同居させる予定(中国新聞)。
 現在、安佐動物公園の他には神戸の王子動物園と北海道旭川の旭山動物園に飼育されていて計6頭が日本にいる。

 キタシナヒョウも絶滅危惧種として認定されている。2500頭ほどが局地的に生息しており、飼育下では約100頭といわれる(CatHouse)。
 キタシナヒョウの主な特徴として、オレンジ色の毛皮と大きな斑紋が挙げられる。斑紋の中は暗色で時にはその中にさらに斑点がある。これはジャガーで一般的な形状であり、他の地域のヒョウにはめったに見られない。
 しかしジャガーのような斑紋はともかく、キタシナヒョウにも淡い毛色の個体はよく見られる。特に色彩の淡い個体を白豹と呼ぶそうで、戦前、満州でトラを追っていた田中釣一氏(虎を撃つ、1968)は偶然それを見つけてしとめている。当時でもヒョウは非常に稀だったらしい。しかも目撃した者はほとんどいないとされる白豹だったという。体長2mもあり、動物園で見られるヒョウと較べたら数倍も大きかったというのだが。
 黒田長禮氏(1948)の謂うチョウセンヒョウは淡黄色ないしクリーム色で体長122−144cm、尾長71−91cmとなっている。また学名の japonensis はこの亜種を最初(1862年)に記載した Gray がその毛皮を日本経由で購入したためそう命名されたという。

 アムールヒョウやキタシナヒョウはしばしば南方のヒョウよりかなり大型と記載されているが、その根拠となる数字は乏しい

 アムールヒョウの雄6頭では体長108−136cm、尾長82−90cm、肩高64−78cm、頭骨全長204−232mm(Stroganov, 1962)。体重は雄で32−75kg(Heptner and Sludskii, 1992)。1945年8月に Sudzukhin 保護区近くで射殺された雄は体長128cm、体重44kgだった(ブロムレイ)。2006年の10月と11月にプリモルスキーで計量された2頭の雄は45kgと57kgだった。
 中国東北部産の雌3頭は、体長106−110cm、尾長70−76cm、体重25−42kg(Chaw, 1958)。
 バイコフによると東北産の18頭で最も大きかった2頭は:
体長(cm) 尾長(cm) 頭骨全長(mm) 体重(kg) 備 考
145 95 221 117 これらの体重について Heptner and Sludskii(1992)は明らかにエラーと断言している。
151 82 255 130

 Heptner and Sludskii(1992)はキタシナヒョウはアムールヒョウのシノニムに過ぎないとしている。ロシア極東に棲むヒョウは定住者ではなく、朝鮮半島や中国からの来訪者であるとの説があった。それは(旧)ソ連邦内で今日に至るまで子が見つかっていないからだという。Suputin 保護区では夏の間、南方からやってきたヒョウが見られるが、彼らは永くは留まらずやがて故郷に帰っていく(ブロムレイ)。
 この説が誤りであることは今では明らかだが、こんな説が出たことを見ても中国北部や朝鮮半島に棲むキタシナヒョウ Panthera pardus japonensis と沿海州のアムールヒョウ Panthera pardus orientalis が呼び名の違いでしかないことがわかる。

ユキヒョウ?

 ロシア領内にはもう一つ、別のヒョウが棲んでいる。このコーカサスヒョウは、カフカース(コーカサス)からイラン、トルクメニスタンやタジキスタンの南部からアフガニスタン、パキスタンまで分布している。学者によってはこれらの地域のヒョウを5亜種にまで細分している。
 一般に毛色は淡く、灰色がかり、冬毛は非常に明るく、ユキヒョウと誤認されるほどに似ている。斑紋は数が少なく、大きく、色は漆黒ではない。アムールヒョウよりかなり大きく、Kopet-Dag(トルクメニスタン南部)の大きな雄では、体長171cm(背曲線に沿っての測定)、尾長102cmもあった(Bil'kevich, 1924)。イランでは体重90kgの記録がある(Harrington, F. A., 1977)。

 2005年6月30日、パキスタン北部の Hazara 森林に人食いヒョウが現れ、7月7日までにあわせて6人が犠牲になった。最初にしとめられた推定15歳の雄は全長231cm、肩高84cm、体重75kgもあった。もう1頭は4歳くらいの雌で、全長170cm、肩高58cmだった。雄が射殺されたのは最後の犠牲者が発見された翌日のことだが、その胃の中には人の肉や骨、髪は残っていなかった。そのため6人の村人を殺したのがこれらの2頭のヒョウだったかどうかはわからないとしている(WildlifeCampaigns)。
 このヒョウはインドヒョウかペルシャヒョウなのか定かではない。両者の分布はインダス川を境として東側がインドヒョウ、西側がペルシャヒョウとして区別されている。また Heptner とSludskii(1992)はコーカサスヒョウ ciscaucasica とペルシャヒョウ saxicolor を同一の亜種として扱っている。

 2009年10月、ハンガリーのブダペスト動物園でペルシャヒョウの赤ちゃんが公開された(AFPBB)。
 2010年5月、ロシアのプーチン首相がイランから贈られた2頭のペルシャヒョウ(雌)と対面した(AFPBB)。

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