最も進化した食肉類のネコ科にあって、ヤマネコ類はもっぱら自分の半分以下の小さな鳥獣を、俊敏な動きで捕食する方向に特殊化している。ネコとネズミで表現されるように、多くのヤマネコがネズミやその他の齧歯類を主な獲物としている。
 しかしオオヤマネコ(とボブキャット)を除いても、自分より大きな獣を常食する Big Cat の特徴を兼ね備えたヤマネコも存在する。その代表格がカラカルである。

 カラカルはアフリカと南西アジア(アラビアからトルクメニスタン、インド西部まで)に分布する。サバンナや浅い灌木林に棲み、熱帯雨林やサハラ砂漠では見られない。
 耳が長く、その先に毛の房を持っているのが目立つ。尾は短い。脚が長めでほっそりしている。
 南アフリカのものが最も大きくなるようで、
 雄(61)は体長75−106cm、体重8−18kg。
 雌(40)は体長71−103cm、体重7−16kg。
 平均体重は雄が13kg、雌が10kgだった。一方、イスラエル産の雄6頭では平均体長78cm、体重10kg。雌5頭は平均体長69cm、体重6.2kgだった(Sunkist, 2002)。

 カラカルも通常は体重5kgくらいまでの小獣−ウサギやネズミ、ハイラックスなどを捕食している。ついで各種の鳥類で地域によってはメニューの20%を占める。2m以上もジャンプして、空中で鳥を捕らえるという曲芸まがいの能力はよく知られている。ジャンプのみならずそのスピードも、体の大きさを考慮すればチーターより速いとさえいわれる。

 ヤマネコ類の中でカラカルのスピードと力は突出している。小型のレイヨウ類を捕食することも珍しくない。ダイカーやディクティク、クリップスプリンガーから成獣のブッシュバックや雌のインパラ(40−60kg)までが含まれている。Gus Mills (2001) はカラカルが殺したばかりの100kgもありそうなダチョウと共にいるところを見ている。
 G. C. Shortridge(1934)によればカラカルがまだ若いグレーター・クーズーを殺したことがある。夜、木に止まっているサメイロイヌワシやゴマバラワシを捕らえた例もある(C. A. W. Guggisberg, 1975)。
 南アフリカではカラカルは家畜・家禽を襲うことがある。この場合、必要以上に殺すこともある。ケープで調べられた79例の中で17回は2頭以上の家畜を殺していた。ヤギの子21頭が一度に殺されたことさえあった(Stuart, 1986)。

 南アフリカの Mountain Zebra 国立公園内の糞の調査では60%がハイラックス、22%がマウンテン・リードバックだった。また同公園の外側の調査ではハイラックスが34%、リードバックが9%に減り、家畜が26%を占めていた。点数からいえばカラカルの主なメニューはハイラックスやウサギ、齧歯類(63−78%)だが、得ている肉の量に換算すると小型有蹄類(20−30kg)が62−91%を占めている(Sunkist, 2002)。

 19世紀までインドではハトの群が餌を啄むところにカラカルを放し、ハトが飛び立ってしまうまでに何羽しとめられるかという競技がおこなわれたことがある。最も素早いカラカルは10羽のハトを打ち倒したという。この事実は「ハトの中にネコを放つ(to put the cat among the pigeons)」の由来になっている(Rosevear, 1974)。
 Smithers(1983)が飼っていたカラカルはときおり野生の片鱗を見せた。まさしく目にもとまらぬ素早さでハトを捕らえた。室内で休んでいる時にも、突如として飛び上がり、壁の高さ3.4mあたりに前足が届いた。

 カラカルがカラハリでは獲物を樹上に引き上げることが知られている。他の地域でもあるかもしれない。これは他の肉食獣を警戒してのことだろう。

 ジャッカルはカラカルよりも優位にあるとされる。イスラエルと南アフリカでジャッカルを減らす試みが為された結果、カラカルの個体数が増えたという(Sunkist, 2002)。セグロジャッカルはしばしばカラカルを悩ませるが(harassment)、これには危険を伴う。南アフリカの高原で、Rob Davies は2頭のセグロジャッカルがカラカルを樹上に追い上げるのを見ている。しかしその後、木から下りてきたカラカルは反撃に転じ、ペアの1頭のジャッカルを殺してしまった。

 イスラエルでカラカルがロバの死体−ハゲワシの餌として置かれていた−を食べていた。そこでは2頭のシマハイエナ(亜成獣)を追い払った。そのうちの1頭はカラカルの倍の体重がありそうだったが(Skinner, 1979)。

サーバル Serval 体長63−92cm。
 カラカルは、アフリカではほぼ同大のヤマネコ・サーバルと分布が重なる。どちらかといえばサーバルは湿った低地を好み、カラカルはもっと乾燥した地域に多い。またサーバルの獲物は小獣や鳥がほとんどだが、カラカルは自分の2−3倍ほどあるガゼルなどの小型レイヨウ類を頻繁に狩る点で生態に違いが見られる(Luke Hunter, 2005)。
 サーバルはネズミやウサギ、ハイラックスなどを主要な獲物としている。追いつめられれば戦うが、カラカルほどの激しさはなく、場合によっては1頭の中型犬にもやられてしまうかもしれない(Guggisberg, 1975)。

カラカルが獲物を巡って2頭のジャッカルとスピーディな小競り合い。

見事なジャンプでコウノトリを捕らえたカラカル。しかしそこへ現れたのは…。

 カラカルは別名 Desert Lynx とも呼ばれるように、オオヤマネコに近縁と考えられていた。しかし最近の DNA や頭骨のより詳細な研究から、最も近縁なのはアフリカ・ゴールデンキャットであり、独自の属を設けるのがふさわしいとされるようになった。

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