世界最小の食肉類は、ヨーロッパ、アジア(ヒマラヤ以北)と北アメリカ(アラスカから合衆国北東部)に分布するイイズナ Least Weasel(コエゾイタチ)。シベリア産は雄でも体長16〜18cm、体重が70g以下。フィンランドやアルプスのものも同じくらい小さい(体長13〜20cm)。北アフリカ(モロッコやアルジェリア、エジプトの一部)にも分布し、これらは大型で雄は体長26cm、体重250gに達する。
 食肉類(最近の図鑑ではネコ目となっていたりする)で最大のゾウアザラシ、いや陸上で最大のホッキョクグマと比べても体重は実に2500分の1以下である。同じグループ(目)の中でこれだけ大きさの差があるのは哺乳類中随一だろう。
※ 霊長類で最小の種ネズミキツネザルの1種、Western Rufouse Mouse Lemur(コビトキツネザル科)は体重30gほどしかなく、最大種ゴリラの僅か6000分の1であると、上田さんから指摘されました。

 主食は他のイタチ類同様ネズミであるが、ウサギを狩ることも珍しくない。そして自分の何倍も重いその獲物を運んでいく。

 イイズナは地上性で、木登りや水泳はしないとも云われていたがそんなことはない。川で自分の倍もありそうな魚を捕らえ、岸に引き上げて貪り食う。

 イイズナは四肢が短く、体は(まるでヘビみたいに)細長い。一説に結婚指輪を通り抜けられるという(Maurice Burton,1972)。ちょっと大げさな気もするが、オコジョ(エゾイタチ)が直径25mmの金網の目を通り抜けるので(Leonard L. Rue, 1981)、より小さなイイズナならありえるか。毛色はチョコレート色で喉や腹部は白い。また冬には全身が白くなるが、暖かい地域のものでは冬毛でも褐色が残っている。

 イイズナの細長い体はネズミの巣穴に入るのに都合が良い。そして見つけたネズミを殺せるだけ殺してしまう。これは狭いところに入った肉食獣にしばしば見られる習性だが、これがネズミの増加を抑える効果を生む。
 E. W. Nelson(1930)はベーリング海沿岸の雪原でキャンプを張っているとき、イイズナをまじかに見る機会に恵まれた。ある朝のこと、1頭のイイズナが彼の目の前、1mほどのところに現れた。イイズナは、彼をもっとよく見ようとしてか、頭の角度を何度も変えていたが、忽然と消えてしまい、数メールはなれた所にぱっと現れた。その動きを目で追うことはほとんど不可能だった。

 イイズナは恐れを知らぬハンターで、小さな体に他の哺乳類にはないほどの精神エネルギーが漲っていると表現される。自分の倍くらいある動物でもためらうことなく攻撃する。その俊敏な動きはまさに電光石火で肉眼では捉えきれない。しかし上からの襲撃は弱点らしく、タカやフクロウはイイズナを捕食する。またキツネでさえ−その手段は謎だが−イイズナを捕らえることがある(Gerald L. Wood, 1982)。

 日本では北海道と東北(青森、秋田、岩手、山形)に分布、しかし数は多くない。1952年1月13日に福井県の大野郡五箇村(現大野市)上打波で採取された標本が存在し、現在は同県にはいないものの過去に生息していたという(福井県みどりのデータバンク)。雄で体長17cm前後、シベリア産とほぼ同大。

 世界的に見てもイイズナとオコジョは分布が重なっているが、どちらかといえばオコジョは森林や山地に多く、イイズナは草原を好む。
 しかし同じ地域では、オコジョの方が何でも食べるためか、ネズミ類が少ないときにはイイズナの方が速く減少する。

 和名イイズナは飯綱(長野県の地名)から来ているが何故そう命名されたのかはわからない。昔は長野にも生息していたのだろうか。コエゾイタチは北海道のエゾイタチ(オコジョ)より少し小さいからそう呼ばれる。

 イイズナは山頂から海岸まで生息するが、深い山やこんもりした森林よりも意外に人里近くに現れる。物置や倉庫などでよく見られる。主食のネズミさえ豊富であればどこにでも姿を現すようだ。また本州ではヤマイタチ(本州産のオコジョ)と分布が重なる。両者の間には競合がありそうだが、イイズナがヤマイタチ(体長19cm前後)をさえ殺すことがあるという(黒田長禮、1954)。

管狐のイメージ

 その昔、岐阜には飯綱使いと呼ばれる行者がおり、イタチに似て小さい動物を竹筒に入れて持ち運んでいました。その小さい動物は管狐と呼ばれていたそうです。飯綱使いが携行した空想上の動物・管狐に似た実在の動物をイイズナと命名したのかもしれません。※ Kさんから知らせていただきました。

 ヨーロッパでもイイズナは冬になると、馬小屋や納屋に入り込んで日中でも獲物をあさる。人が近づくと、その気配を感じると、あたりの様子をうかがうために後足で立ち上がって身構える。そして侵入者を見つけるとじろじろと見回し、猛烈な勢いで跳びかかることがある。

 Leonard Lee Rue はアメリカでイタチ(種名は特定していないのだがオコジョかイイズナ)が人に噛み付いた例を紹介している。
 ある観察者が草原でイタチを手づかみにしたところ(如何にして捕まえたのかは記されていない)、イタチはその手に噛み付いたので、口を押し広げようとしたがイタチは顎を緩めなかった。彼はイタチを噛み付かせたまま、近くの渓流まで数百メートルを歩き、手を水中に沈めた。息苦しくなったイタチはついに口を開き、観察者の手は自由になった。

 イイズナは猛禽類の爪に捕らえられても簡単には怯まない。オオタカだけが、その比類なき力によって、危ない目に遭わずにイイズナを襲うことができる唯一の鳥だ。他の猛禽は逆襲される危険がある。

 一羽のトビが畑に急降下してイイズナを捕らえ、空中に飛び上がった。ところがすぐに飛び方がおかしくなった。しばらくするとトビは落下した。目撃者が近づとイイズナが地を這って逃げていった。トビは死んでいた。イイズナは空中で敵の喉を噛み切って危機を脱したのだ。

 イタチ類全般にいえることだが、雄(右)は雌(左)よりかなり大きい


 オコジョは、カモメの大きな卵も歯で噛み割って中身をいただく。

 オコジョ Ermine はヨーロッパ、アジア、北アメリカの寒帯から温帯地域に分布。北アメリカにはやや大型の別種・オナガオコジョも生息する。イイズナによく似ているが少し大きい。尾はイイズナより長めでその先が黒いのですぐに見分けられる。
 日本では北海道(エゾイタチ)と本州中部以北(ヤマイタチ)に棲む。開けたツンドラや森林、山地の岩場などに生息。北海道では平地にもいるが、本州中部では1000m以上の山地にしか見られない。

 ヤマイタチは体長18〜20cm、エゾイタチは24cmくらいになる(雌は少し小さい)。毛色はイイズナによく似ており、冬は全身白くなるが、尾の先は黒い。飼育下の観察では11月中旬から12月中旬にかけてで白くなり、2月中旬から3月中旬の1ヶ月で茶色になった記録がある。また5度以下にならない部屋で飼われていたものは白化しなかった例もある(今泉吉典、1991)。

 オコジョもまた小さいながら獰猛な性格をしている。無鉄砲なまでに大胆で、すこぶる残忍であると評される。
 2匹のオコジョに出会ったある農夫が石を投げて1匹を傷つけたところ、もう1匹が彼の肩に跳びかかり、襟首に噛み付こうとした。幸い農夫は厚着をしていたので、どうにか身を守ることはできたが、顔や首、両手に裂傷を負ったという。

 オコジョもイイズナ同様ネズミやレミングを主食とし、ノウサギを襲うこともある。鳥の卵や小鳥、カエルなども食べる。

冬毛

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