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オオヤマネコはユーラシア中北部に分布する文字通り大型のヤマネコで、耳の先の冠毛と両頬の長い毛が目立つ。脚が長いので肩高は60〜70cm、シェパードや秋田犬くらいもあるのだが、体はもっと細い。シェパードの雄の標準体重は32kg、秋田犬は36〜48kgもあるが、オオヤマネコは25kgを超えるものは少ない。
オオヤマネコの足は目立って大きく幅広い。このため雪の中を活発に行動でき、獲物をがっちりと捕らえられる。尾はごく短くこれは他のネコ科動物には見られない特徴である。尾が短いにもかかわらず、木登りは巧みだし、優れたジャンプ力も持っている。しかし走るのは速くないと言われる。最高時速は25kmに達せず、ハンターが全力で走れば追いこせると(Robert Elman, 1974)。 これに対し、Leonard Lee Rue III(1981)はオオヤマネコがカンジキウサギに追いつけるところから、短距離ならばそれより速く−時速48kmで−走れることは確かだと断じている。 角がなく、長い牙を持つジャコウジカを樹上から襲うオオヤマネコ→ |
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地 域 | 性別 | サンプル数 | 体長(cm) | サンプル数 | 体重(kg) | 記録者 |
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ロシア | 雄 | 6 | 87〜104 | 6 | 16〜32 | Stroganov (1969) |
雌 | 3 | 82〜 91 | 3 | |||
ロシア | 雄 | 16 | 76〜108 | 10 | 16〜24 | Heptner and Sludskii (1992) |
雌 | 21 | 85〜100 | 12 | 14〜22 | ||
ルーマニア | 雄 | 15 | 92〜148? | 7 | 12〜21 | Vasiliu and Decei (1963) |
雌 | 14 | 105〜130 | 9 | 13〜20 | ||
カルパチアのルーマニア側で48kg (Vasiliu and Decei)、ウクライナ側で41kg(Tur'anin and kol'usev)の記録がある。しかし30kgを超えるものさえめったにいないことから、Sunquist(2002)は疑わしいとしている。 |
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オオヤマネコはノウサギやビーバーからシカ、イノシシまで様々な獣を捕食する。ポーランドの Bialoweza Forest での調査(1947-1951)では126頭のオオヤマネコの内、73%が齧歯類を、39%がノウサギを捕食していたが、アカシカを捕らえたものも29%いた(Heptner and Sludskii)。 同じ地域での1985-1996年の調査では127頭の内、92%がシカを捕っていて、ノウサギは11%、齧歯類は4%にとどまっている(Okarma, 1997)。 スウェーデンやノルウェーではアカシカやノウサギの他、トナカイも頻繁に殺されている。フィンランド南東部では齧歯類が特に多かった(88頭の内80%)。 |
オオカミがオオヤマネコの生態に影響を与えていると見られる。第2次大戦中、スロバキア東部にオオカミが流入した際、オオヤマネコが南部や西部に移動してしまったことがある(Guggisberg, 1975)。ロシアでもオオカミが多い地域ではオオヤマネコは少ないという。
ロシア中部で2頭のオオカミがオオヤマネコを殺したことがある。また別の2頭のオオカミの胃の中からオオヤマネコの残骸が見つかったこともあった(Heptner and Sludskii, 1992)。
アルプスで同じ地域に棲む雄(24kg)と雌(17kg)を調べた例では雄はシャモア(アルプスカモシカ)を多く捕食しており、雌の獲物はノロジカが多かった。ポーランドの Bialoweza Forest でも雄はアカシカをよく殺しており、小型の獲物は雌よりも少ない傾向にあった(Okarma, 1997)。 しかし雌雄で獲物に違いが見られることはむしろ稀であり、地域や季節による変化の方が顕著である。夏にはマーモットやリス、ナキウサギ、キジなどを食べていたものが、冬になり、雪が深まってくるとシカを取り始めるようになる(Sunquist, 2002)。 オオヤマネコが220kgもある雄のアカシカを殺したことがあり(Sunquist, 2002)、ポーランドでは成獣のイノシシが餌食になったこともあった(Okarma)。しかし普通は、アカシカやイノシシは子供が襲われている。 ユーラシア全体を通じて主要な獲物の一つは、広い範囲で分布が重なるノロジカ(15〜30kg)で、ノロジカのいないフィンランドでは半ば家畜化したトナカイがよく狙われる。ある例ではオオヤマネコが64回トナカイを攻撃し、45回成功している。この高い成功率はトナカイがオオヤマネコを番犬と誤認したためではないかとされる(Haglund, 1966)。 大型ネコが草食獣を捕らえる時、その背に飛び乗ることは多くはない。たいていは後足を地に付けていて、獲物を引き倒そうとする。しかしオオヤマネコはこの自分にとっても安全とは言えない方法を採ることがしばしばある。背中に飛び乗って爪を獲物に食い込ませて自らを支え、牙を喉や頸に咬みつくのだ。おそらく雪が深い時には、足を地に付けて踏ん張るのが難しいのだろう。 |
![]() カナダオオヤマネコ アラスカ、カナダ、合衆国の北部に棲み、ユーラシア産よりかなり小型で、 ニューファンドランド産の雄(96)で体長74〜107cm、体重6〜17kg。雌(89)で体長76〜97cm、体重5〜12kg。最大の記録の一つは1953年にミネソタで Hover Viegen が撃った個体で体重19kgだった(Leonard Lee Rue III, 1981)。 カナダオオヤマネコの獲物の60〜97%がカンジキウサギで占められている。カンジキウサギの数が増減することにより、オオヤマネコの数も変化する現象が確認されている。しかしニューファンドランドではカンジキウサギが減少した時にトナカイの仔が多く餌食になったことがある。また成獣のトナカイ、ミュールジカ、ドールシープが殺されたことも少なからずある(Sunquist, 2002)。 シートンによれば、アラスカで1907年12月に8kgのオオヤマネコが57kgのドールシープを殺している。また1908年1月に10kgのオオヤマネコが殺したドールシープはもう少し大きかった。 Charles Sheldon がマッキンレーでドールシープを食べているオオヤマネコを観察していた時、突然、ネコは体を起こし、山の方に走り去った。Sheldon はクズリが駆け寄ってくるのに気がついた。ヒツジの死体に到着すると、クズリは食べ始めた。オオヤマネコは200ヤードほど離れたところに座っていたが、取り戻そうとはしなかった。 オオカミがオオヤマネコを襲うことがあり、近くに逃げ登れる木がなければオオヤマネコは命を失う(Leonard Lee Rue, 1981)。 |
スペインには別種とされることが多いミナミオオヤマネコ(スペインオオヤマネコ)が生息している。カナダオオヤマネコ(これは同種とされることも多い)とは反対にこちらは斑紋が明瞭である。やはりもっと小型で肩高50cmくらい。 雄(7)で体長75〜82cm、体重7〜16kg。 雌(8)は体長68〜78cm、体重9〜10kg。 かつてはヨーロッパ南部に広く分布していたようだが、現在では絶滅が危惧されており、スペイン南部に1000頭前後、ポルトガルに50頭ほどが残存するのみである(Rodriguez, 1992)。 |
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![]() カナダ南部からメキシコにかけては、オオヤマネコによく似たボブキャット Bobcat or Bay Lynx が生息している。一時はボブキャットは別種ではなく、カナダオオヤマネコの亜種ではないかと考えられた。しかし化石の研究によって、オオヤマネコがベーリング海峡を越えて進出してくるはるか以前に北アメリカに現れていたことがはっきりして、同一種説は破棄された。 ボブキャットとオオヤマネコはカナダ南部や合衆国北部でその分布が重なっている。ボブキャットが北進して分布を拡大しており、オオヤマネコにとってかわりつつあるのかもしれない。平均的な個体ではカナダオオヤマネコの方がやや大きいが、ボブキャットの大物は最大級のカナダオオヤマネコをしのぐほどである。 |
ニューヨーク自然史博物館の Hall and Kelson (1959)によれば、雄は全長79〜125cm(尾は13〜20cm)、雌は全長71〜122cm(尾は10〜17cm)。 Stanley Young (1958) は25kg(オハイオ、ニューハンプシャー、ニューメキシコ)、27kg(ネバダ)等の記録を挙げている。最大のものは、1951年にコロラドでしとめられた31kgの個体である。 |
カナダオオヤマネコと分布が重なる地域では獲物を巡る争いもあり、ボブキャットの方が優勢であるという。ボブキャットがコヨーテに木に追い上げられていたことがあるが、コヨーテが壮健な成獣のボブキャットと戦うことはない(Leonard Lee Rue III, 1981)。 ボブキャットは猟犬に追われれば逃げるのが普通だが、時には攻撃を仕掛けて自分の3倍もあるイヌを殺してしまうこともある。数頭の猟犬相手に戦えるほど素早くてタフでもある(Robert Elman, 1974)。 ボブキャットの主食はウサギ類で地域によっては90%を占めている。ネズミやリス、マスクラット、ビーバー、それにガンやシチメンチョウを捕食することもある。冬にはしばしばシカを襲う。農場に入り込んで一晩の間に38頭の仔ヒツジを殺したものもいた。 |
大胆にもピューマの母子に割り込もうとするボブキャット。ピューマに殺されることもあるというのに。