1987年11月24日、大分県緒方町上畑、祖母傾山系の笠松山のふもとで地元猟師がイノシシと間違えてツキノワグマを射殺した。この事件で地元緒方町はもちろん大分県でテレビ放送されるなど大ニュースとなった。九州ではツキノワグマは絶滅したと考えられていたからだ。

 捕らえられたツキノワグマは大分市で解剖された。雄で体長141cm、体重74kg。このクマは野生の個体であると確認されている(今泉、1991)。これ以後も九州で目撃例はあるようなのでまだ何頭か残っている可能性はある。しかしながら九州での生息は既に絶望的ではある。

 2006年5月28日と6月2日に福岡県那珂川町でクマのような動物を見たとの目撃情報が寄せられ、同町は7日、注意を呼びかける看板を設置した。看板には大型犬やサルの可能性も考えてクマらしき動物にご注意くださいと書かれた(読売新聞)。
※ ksmahara さんから知らせていただきました。

 2009年1月に、宮崎県高千穂町の山林でクマがイノシシ用のわなにかかり、猟師が現場を離れた間にいなくなってしまったとの目撃情報があった。1987年に大分県でツキノワグマが捕獲された後、絶滅したとされる九州のクマについて、2000年から10年間で6件の有力な目撃情報があることが宮崎県高千穂町の写真家、栗原智昭さんの調査で分かった。日本哺乳類学会の学会誌12月号に発表される。
 栗原さんは、九州各地から寄せられた数十件のクマとみられる動物の目撃情報について、科学的な信頼性が高いものに絞って集計した。この結果、有力な情報はいずれも宮崎県内の6件で、うち2件は親子連れだった(iza)。

 四国でも現在生存が確認されているのは徳島県の剣山付近だけでその数は20〜30といわれる。最近では高知県生態系保護協会が2001年11月20日に生存を確認しているが、これも7年ぶりとのこと。

 本州では最大の野生動物、ツキノワグマは本州の中部以東ではまだ1万頭以上いるようだが、近畿以西では非常に少ない。総数1000頭以下と推測され、今も絶滅地域が拡がっており各個体群が孤立してしまっている。

 ところが最近関西でもクマが増えているようだ。過去20年にわたり、絶滅が恐れがあるとしてツキノワグマを保護してきた兵庫県がこのほど、ツキノワグマの猟を部分的に解禁する方針を決めた。頭数が増えてきたためだ。
 もともと同県は、ツキノワグマの推定生息数が約100頭以下になったとして平成8年度から狩猟を禁止。15年度には県版レッドデータブックで絶滅の危機に瀕しているAランク(絶滅危惧種)に指定した。しかし県森林動物研究センター(同県丹波市)の調査によると、27年度の県内推定生息数は約940頭となったので、狩猟を解禁することにした(産経 WEST)。

 2010年11月4日に神奈川で捕獲された雄のツキノワグマが推定110kgあり、県で記録が残る中では最大だったという。このクマは伊勢原市子易地区の柿畑に県が仕掛けた檻に入っているのが見つかった。丹沢のクマは生息数がわずか約30頭と推定され、地域個体群としては絶滅の恐れがあるとされる。このため県は殺処分せず、同日夜、丹沢山中に放った。
 推定110kgというのは、計測器が100kgまでしか対応できなかったためで、実際には110kg以上の可能性もあるという。
 201年は例年に比べクマの目撃情報が多い。この時期、クマの餌となるブナなどドングリ類の不作で、餌を求めて人里へ下りてくるのが原因とみられる(読売新聞)。
※ Kameさんから知らせていただきました。

 2016年9月、群馬県・地蔵川の川原で渓流釣りをしていた63歳の男性がクマに襲われた。右半身の頭や腕、ふくらはぎなどをかまれたり、引っかかれたりして軽傷を負ったが、素手でクマの目を突き、撃退。クマは上流に逃げたという。男性は空手の高段者だった。
 突然現れたクマは立ち上がって飛びかかってきたという。男性は身長約170cm。クマは体長約190cmとみられる(毎日新聞)。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。
 190cmは立ち上がった時の高さと思われる。ニホンツキノワグマとしてはかなりの大物だ。


 2016年5月、秋田県鹿角市十和田大湯の山林でクマに襲撃されたと見られる4人の遺体が相次いで発見された。そして射殺したクマの体内から人体の一部が見つかった。4人目の遺体が見つかった6月10日、地元猟友会が体長1.3mの雌のツキノワグマを射殺。解体して調べていた。現場の山林付近では5月下旬以降、タケノコや山菜を採りに来ていた男性3人と女性1人の計4人が死亡した。県警によると、ひっかき傷など遺体の状況から、いずれもクマに襲われた可能性が高い。また同じクマが4人を襲った可能性もある(IZA)。
 今までにもツキノワグマが人を襲い、死に至らしめた事故はあったが、人を食べた事件は初めてではないだろうか。NPO法人「日本ツキノワグマ研究所」理事長・米田一彦氏はクマが突然、人間を食物として認識し始めた可能性すらあるという(読売OnLine)。

 ニホンツキノワグマは大陸産と種は同じだがもっと原始的なタイプとされている。小型で、月の輪も小さく細くしばしば真ん中で切れている。成獣の雄でも体重100kgを超えるものは珍しい。

体重(kg)体長(cm)備 考
2001652001年10月18日 山形県西川町大井沢
1251552001年10月25日 新潟県
1151461994年11月 福井県 肩高65cm
1101302002年8月 岩手県山形村
1081402001年11月 秋田県鳥海

 米田一彦氏(クマを追う, 1996)によれば秋田県の太平山で1986〜1991年に捕獲された33頭のなかで100kgを超えていたのは1頭だけで112kg(体長134cm、肩高57cm)だった。また最大の雌は87kg(体長137cm、肩高53cm)。
 広島県で1990〜1994年に捕獲された43頭の中では100kgを超えていたのは135kg(体長152cm、肩高56cm)と115kg(体長152cm、肩高59cm)の雄2頭だった。そして最大の雌は98kg(体長139cm、肩高55cm)。
 以上の他に1990年、米田氏は広島を訪れた時に養豚場を襲って飼料を食べて太ったクマが150kgあったと聞かされた。

 ニホンツキノワグマで最大の記録は、1967年に宮城県・蔵王で捕獲された雄(体長140cm)で体重220kgもあった。しかしこの数字220kgはもっと以前から使われている。
 今泉吉典氏の古い本(日本哺乳動物図説, 1947)にも雄は220kg、雌は170kgに達すると記載されている。
 記憶が少々怪しいのだが、大正3年(1913年)に宮崎県で58貫(217.5kg)の記録があるのであるいはこれに拠っているのかもしれない。

和歌山公園動物園で飼われている10歳(2004年)の雌(体長140cm)は体重230kgもあるという。のぼりべつクマ牧場のヒグマで最大の雌でさえ230kgなのだから少々、いやかなり、肥りすぎだ。このツキノワグマは毎年1月になると動物園内で冬眠に入る。

 2005年3月26日、富山市古沢の富山市ファミリーパークで飼育係がクマに頭や両手足などをかまれて死亡する事故が起こった。クマは同園に20年以上飼われている雄で被害者も10年以上飼育を担当していた。
※ このニュース(Nikkei Net)はわたぴーさんから知らせていただきました。

 2006年10月26日、富山県入善町で71歳の老人が、自宅前の路上でクマに顔やのどを引っかかれ、出血性ショックで間もなく死亡した。クマは逃走し、地元の猟友会員が周辺を警戒している。
 警察によると、悲鳴を聞いた隣家の住民が、体長約1mのクマが走り去るのを見た。現場は、県道沿いの住宅地。被害者は午前6時ごろ、飼い犬の散歩に出て襲われたとみられる (読売新聞)。

 2009年9月、岐阜県高山市の乗鞍岳でバスターミナルに突然現れたツキノワグマが9人に重軽傷を負わせる事件が起こった。人にのしかかって、咬みつき、爪を立てるなどして暴れ、観光客らはパニックに陥った。建物内に避難した観光客を追ってクマも中に入り込み、人々を次々に襲った。
 駐車場に現れてから3時間半後、クマは漸く射殺された。体長1.3m、体重約90kg。現場付近では7月にもクマが目撃された。乗鞍スカイラインの道路わきには今年になって、「クマが出没するので注意してください」という看板も掲げられていた。
 クマが人を襲う場合、たいてい立ち上がって両手で顔を押さえ、かじろうとする。首や頭を襲われるのが一番恐ろしい。逃げる余地がなければ対応は難しい(NPO 法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦氏)という(朝日新聞)。

 福島県喜多方市の山林で2010年5月30日午後、前日から山菜採りに出かけ、行方不明になっていた同市の男性(当時70)が、仰向けに倒れて死亡しているのが見つかった。遺体にはツメで引っかかれたような跡があり、県警はクマに襲われたとみている。県内でのクマによる死者は2003年以来7年ぶりのこと。
 環境省は2004年度以降、全国のツキノワグマの人身被害(けが、死亡)を集計。クマが多数出没した04年4月〜05年3月の109人と、06年4月〜07年3月の145人以外は年間50人前後だ。朝日新聞のまとめでは、2010年は5月に18人が死傷、6月は5人がけがをした。2009年は119件だった。近年は人がツキノワグマに襲われる被害が増えているという(朝日新聞)。

 ツキノワグマはアジアの中部から東部に分布している。日本では大陸産をヒマラヤグマと呼んで区別することが多い。先にも書いたが種としては同じでも日本産は変化しつつあるからだ。見かけ上もヒマラヤグマは顔の周囲の長い毛が目立つし、月の輪も大きく幅広だ。
 ブロムレイ(1965)によるとウスリーツキノワグマの雄7頭の測定では体長134〜190cm、体重100〜192kg。このうち4頭の肩高は65〜104cmだった。

 雌13頭では100kgを超えるものはなく最大で99kg(体長154cm、肩高73cm)だが、計量されていないもっと大きな2頭は体長164cmと158cmあった。
 日本の動物園でもヒマラヤグマもよく飼われているが、産地が明記されていないものが多いので亜種名は特定できない。

 チベットからアッサムにかけての基亜種ヒマラヤツキノワグマは最も大きくなる(ブロムレイはウスリーツキノワグマの方が大きいといっているが)。Rowland Ward (1914) には体重700ポンド(318kg)のネパール産が掲載されている。別亜種のカシミール産も大型で全長201cmの記録があり、毛皮で測定して257cmというのもあった。

 1942年の冬、田中釣一氏(1968)は満州で非常に大きなツキノワグマを撃った。300kgを上回るというのは大げさな気がするのだが、銃弾を受けたクマが、すぐ前にあった高さ2m前後のところから折れていた黒こげの木に体当たりするようなかたちでぶつかった。木は地上30cmあたりでボッキリと音を立てて折れた。
 枯木ではあったが直径30cmもあり、中身20cmぐらいは白くきれいなものだった。これを見ては、クマの一撃でウシやウマの首が折れてしまうと言われることに疑問の余地はないと田中氏は言う。

 ツキノワグマの天敵は大陸ではトラで、時にヒグマに捕食されることがある。シホテアリンで穴の中にいたツキノワグマがトラやヒグマに襲われたことがあり、危機からかろうじて脱している(Russian Academy)。
 またトラの食べ残しはツキノワグマの好物であるらしく、これが危険−戻ってきたトラに襲われる−を招くことがある(Animal Diversity Web)。

 コーベットはヒマラヤグマが人を食べた例を一つだけ知っている。草刈りをしていた女が誤って崖から落ち、死んでいるのを見つけたクマがそれを運び去り、食べたのだった。
 人食いトラ Thak Man-eater を追っていた1938年、彼はその雌トラに殺された男の死体を見張っていた。血の匂いに惹かれてヒマラヤグマが近づいてきた。クマはやけに慎重だった。
 それまでにコーベットはヒマラヤグマがトラの獲物を強奪するところを何度か見てきていたので、何ものも怖れないはずのクマがこうも用心深いのはトラの匂いだけでなく人の匂いも嗅ぎとっていたからだと考えた。
 コーベットはもしこのクマが人の死体を食べるようなら射殺しなければならないと銃をとりあげて狙いを定めた。クマは死体に近づいて匂いをかいでいたが、食べようとはせずやがて西側のジャングルの中へ去っていった (Man-Eaters of Kumaon, 1944)。

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