世界に7種(ジャイアントパンダを含めると8種)いるクマの中で最も小さいマレーグマは、バングラデシュ、中国南部からマレー半島を経て、スマトラ、ボルネオに分布する。熱帯雨林に棲み、木と果実に依存した生活をしている。
 主に果実や木の実、昆虫、鳥の卵などを食べる。前足の爪が長く、これで蟻塚を壊したり、樹皮を引き裂いたりして中にいるアリや虫を見つけ、長い舌で舐めとるように食べる。手を差し出してアリが這い上がってくるのを待ってから食べることもある。マレーグマは普通夜行性で、昼間は高さ2〜7mのあたりに木の枝を集めて作った巣で寝ている。

 マレーグマの英名 Sun Bear は胸にある黄色っぽい月の輪模様から来ている。その形が朝日に似ているからだそうだ。もっとも模様の形は変化が多く、全く欠いているものもある。マレーグマは蜂蜜を好むので Honey Bear とも呼ばれる。食性はインドのナマケグマと似通っている。
 熱帯に棲むマレーグマは体毛が短いので筋肉質の体型がはっきりわかる。しかし首回りの皮膚は緩んでいる。これは捕食者(トラやヒョウ)に襲われた時に有効に働く。背後から捕らえられても体をくねらせて向き直り、咬み返すことができるという(wellingtonzoo.com)。

 マレーグマは体長110〜135cm、肩高60〜70cm。体重は65kg以下で、最大のクマ、ホッキョクグマの10分の1しかない(飼育下では123kgの記録がある、Garten Koln)。
 モンタナ大学の Siew Te Wong(Malayan Bear, 2002)はサバ(北ボルネオ)の Ulu Segama Forest Reserve で6頭のマレーグマを生け捕り、発信器をつけて放し観察した。
 5頭の雄は:
 体長117〜124cm、体重30〜44kg。
 もう1頭は雌だったが、体長110cm、体重は20kgしかなかった。健康状態がかなり悪かったようである。
 飼育下の例だが、Sepilok Orangutan Rehabilitation Center で飼われている雌3頭は33〜40kg。

←天王寺動物園
 子供のうちはよく馴れるし、動作に愛嬌があるので現地でもペットとして人気がある。しかし成長すると手に負えなくなるという。また森林伐採に伴って生息域が縮小したため、絶滅危惧種に指定されている。


 1999年に東カリマンタンで G. Frederiksson が捕らえた2頭の痩せた雌(かなり飢えた状態)は23kgと25kgしかなかった。どちらも後に死んでいるのが確認された。

 Wong が観察していたマレーグマも飢饉に見舞われた1999年8月から2000年10月にかけては6頭とも健康状態が悪かった。そして2頭は後に死体で発見されている。
 熱帯雨林に棲む雑食・植物食の動物が飢えに苛まれることは極めて異例である。大陸やスマトラと異なり、トラもヒョウもいないボルネオではマレーグマは樹上に巣を作らないようだ。天敵がいないことと飢えた個体が少なくないことは関係があるのかもしれない。

 トラはしばしばマレーグマを捕食している(Zoogoer)という。しかしインドなどの例を見てもわかるように、草食獣が不足していなければ、トラが食肉類の他のメンバーを襲うことはあまりない。
 ボルネオではごく稀にアミメニシキヘビがマレーグマを捕食することがある(Wong)。

 シンガポール大学の G. Frederiksson(2005)は1999年6月、ボルネオで、発信器を取り付けて観察していた雌のマレーグマ(31kg)がアミメニシキヘビに襲われ、かろうじて脱出したことを報告している。翌月には健康状態の良くなかった別の雌(23kg)がニシキヘビに呑みこまれてしまった。Frederiksson はこのニシキヘビを生け捕りにしている。長さ695cm、体重は3ヶ月近く絶食した後で59kgだった。11月にこのニシキヘビは野生に戻された。

 同じボルネオではヒゲイノシシ)にも飢えた個体がしばしば見受けられる。壮健なものでは150kgに達するのに、成獣でもわずか35kgしかない雄が2頭発見された。西カリマンタンの Gunung Palung National Park で行われた観察ではヒゲイノシシが餌を巡って争うところが何度も見られた。そうした戦いの傷跡をもつイノシシも多く見つかっている (Wong, 2002)。
 ボルネオでのマレーグマの食糧難が1999〜2000年だけのことなのか、以前から恒常的に起こっていたことなのかもまだはっきりしない。マレーグマの生態研究は過去にはほとんどなされていなかった。

マレーグマが軍の駐屯地を攻撃?
 2007年4月、マレーシア北部の軍の駐屯地にマレーグマが侵入し、食べ物を漁っていると「ニュー・サンデー・タイムズ」が伝えている。マレーグマは集団でやってきて米、砂糖、ビスケット、パンなどを略奪している。配属されて1年以上になる兵士は、「侵入者」たちに対し、夜通し寝ずの番を行っている。彼らが近寄るとクマは逃走するという。
 森林伐採のために住処を移動することを余儀なくされているクマたちは、「軍の駐屯地にある豊富な食べ物にひきつけられている、またこうした行為に慣れてしまったのかもしれない」と野生生物保護団体「ワイルドライフ・ファンド・マレーシア」の代表 K. シャーマ氏は語った(ロイター)。
※ hiroさんから知らせていただきました。


 Walker(1964)は、マレーグマはたいへん利口だと言っている。飼育下の若い個体は、鍵のかかった食器棚からシュガーポットを取りだした。さしたままにしておいた鍵の小さな丸い穴に爪の先を差し込み、それを回してロックを外したのだった。
 別のマレーグマは、与えられた米の何粒かを檻の近くにばらまいてニワトリを誘い、まんまと捕らえるのに成功した (Mammals of the World)。

BACK