現在よりほんの少し前、数千年前のニュージーランドには史上最大の鳥、ジャイアント・モアと共に、これまた史上最大のワシハーストイーグルが棲んでいた。トラに比すべき爪を持ったハーストイーグルはこの巨大なモアをも襲ったかもしれない。  モアの骨の中には背中や腰に爪痕を残しているものがあり、動きが遅く、長い首を持ったモアを空中から攻撃したという。まるでエピオルニスを襲うロック鳥さながらの光景が展開されたのだろうか。
 空中からの急降下に乗せた勢いで、ハーストワシの強大な爪はモアを打ち倒し、首や頭を引き裂く。つがいのワシは、その死骸の側に数日は留まって食欲を満たしただろう(NewZealandBirds)。

 1871年に発見された骨を元にカンタベリー博物館の Julius von Haast が初めて記載したので通称 Haast's Eagle と呼ばれている。
 完全骨格は3体あるだけのようで、Otago 博物館(ニュージーランド)とロンドン自然史博物館、そして1990年にネルソンの北西部から見つかった今までで最も保存状態の良好な骨格である(ウエリントン自然博物館所蔵)。またHaast は2種のワシを記載しているが、小型の方は今ではハーストイーグルの雄だろうとされている。
 ニュージーランドに住んでいた最大のワシは現在のワシに比べて大きいだけでなく、より頑丈な体格をしていて、脚もしっかりしていた。大型の肉食獣がいなかった当時のニュージーランドでは食物連鎖の頂点にあったと思われる。

  ハーストイーグル Harpagornis moorei の骨は南島の50ヶ所以上から見つかっている(北島の南部からも発見されたといわれるが、誤認であるとされる)。最も新しいものだと500年くらい前のものであり、人間との接触はあったはずだ(Maori 族がニュージーランドに進出したのは1000年ほど前である)。ハーストワシの力からすれば人が襲われ殺されることもあっただろう。

 ニュージーランドではモアと同時代の住人であり、ほぼ同じ頃に絶滅している。小型種のモアや大型種の幼鳥を獲物にしていたことは想像に難くない。
 しかしハーパゴルニスがその強い脚と爪、鋭い嘴から推して大型種の成鳥(体重220kg)をも殺したとするのはかなり強引な推測かもしれない。全長1.2m、体重10−14kg、現在のオウギワシを大きく凌駕する体格で、ほぼ同様に武装したこのワシなら走るモアの背に飛び乗り、爪を立てて致命傷を与えることができたかもしれないが、死体を食べただけかもしれないのだ。
 オウギワシは自分の3倍くらいの獣まで獲物にできるが、現在のワシにあって最大の獲物を狩るとの定評が高いのは、アフリカのカンムリクマタカだ。亜成獣のブッシュバック(小型のレイヨウ)をしとめたことがある。体重はカンムリクマタカの6−7倍、30kgあったという。しかしジャイアントモアはハーストワシの15倍はあった。イヌワシやクマタカがニホンジカを襲うような稀有なできごとは僅かな化石から窺い知ることは無理だろう。
 Haast が Glenmark Swamp でこのワシを発見した時にはモアの骨も共に見つかっていることから、沼地でハーストイーグルがモアを打ち倒したものと考えられているのだが。

 ハーストワシが生息していた頃、ニュージーランドの南島には深い森林が拡がっており、そのため Harpagornis の翼は今のオウギワシのように比較的短く、幅広く、木々の間をぬって飛び交うのに適していた。それでも翼開張は2.5m以上あったといわれる。

 ハーパゴルニスが絶滅したのは、ニュージーランドの他の大型動物と同様の理由、環境の悪化に伴う餌の不足と考えられている。マオリ族がニュージーランドに進出してきたのも大きな要因といえるだろう。
 そのマオリ族には森から飛んで来て仲間を連れ去る Terror Bird の伝説がある。
 Pouakai と呼ばれた恐ろしい鳥がハーパゴルニスであることは、マオリ族の彫像からもうかがえる(ArtsUnique)。

 
 ニュージーランドにかつて生息し、約700年前に人間が流入して絶滅した超巨大なハーストワシは、ワシ・タカ類のうち大型のイヌワシ属ではなく、世界最小級のヒメクマタカ属(Hieraaetus )に最も近いことが分かった。英オックスフォード大などの国際研究チームが1月8日までに、骨の化石の DNA を分析した成果を米生物学誌プロス・バイオロジーの電子版に発表した。
 周囲から隔絶した島では、生物が特異な進化を遂げることがあるが、祖先の小さいタカが約100万年前にニュージーランドにすみ着いた後、地上に敵となる哺乳類がいない環境で、10−15倍も大きくなったことになる。地上の脊椎動物では空前の巨大化だという。

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