シロサイについての解説ではたいてい陸上ではゾウに次いで大きい動物となっている。これは別に間違ってはいないが、ブレランド(1963)のようにカバの存在を見過ごしているとの意見がもっとあってもよさそうだが。
 ジョン・ホプキンス大学の Mammals of the World(E. P. Walker, 1964)では:
 体長3.6−5m、肩高1.6−2m、体重2.3−3.6tとなっていた。
 日本で出版された多くの動物図鑑がこれに右へならえをしていたが、5mという数字に疑問を感じなかったのだろうか? ずっと以前、1901年にライデッカーは全長19フィート(5.8m)に達するとの記述を散見するが、たぶんに過大であると言っていたのだが。
 1999年に出版されたジョン・ホプキンス大学の新版(Walker's Mammals of the World)では:
 体長325−425cm、肩高150−185cm、体重1400−3600kgに改訂されている。最近ではこの数字が多く使われている。3600kg(=8000ポンド)にどれほどの根拠があるかまだわからないが、雌のアフリカゾウの平均(3t)以上であり、少々過大な見積もりのように感じられる。Macdonald(1984)は2300kgまで、Taylor(1999)も2400kgまでとしており、動物園での計量例が2t前後であるところからも通常の範囲はこのあたりなのだろう。

シロサイ体長(cm) 肩高(cm)備 考
350175柳田佳久氏が1977年に南アフリカで撃った。角は45cm。
360157ズールーランド by Austin Roberts(1951)
368188by Rich and Lydekker(1901)
447201ローデシア by Thomas Baines

体重の記録は少ない。飼育下で、
 雄2062kg(姫路セントラルパーク)
 雌2120kg(神戸市立王子動物園)など。
 チェコの Dvur Kralove 動物園の雄(14歳)は2340kg、雌(6歳)は1970kg。
野生のものでは
 雄(3)1845−2095kg、雌(4)1750−2066kg(wreep.net)。

 フランスの Amneville 動物園で飼われている雄 Teny。28歳(2007年)、体重2.5t。ここでは年老いた動物が入場者の目にさらされず余生を静かに送れるよう、他の動物たちから独立したスペースが設けられている(AFPBB)。28歳のシロサイは老齢なのだろうか

 現在では日本の動物園やサファリパークで、シロサイがけっこう飼われているが、18世紀にはアフリカのシロサイはまだ噂の動物だった。南アフリカの奥地にクロサイとは別にもっと大きなサイがいるという話が、いくつか伝えられていた。最初にそれを確認したのは、イギリスの探検家ウィリアム・バーチェルだった。
 1812年、バーチェルは後に彼にちなんだ名が付いたベチュアナランド(今のボツワナ)の南部、クルマンの近くの草原でブーア人が教えてくれた新種のサイを撃ち止めた。そのサイは、クロサイより色がやや淡く見え、口唇部がクロサイのように尖っていないで、かえって四角い鰐口をしていた。また肩高2m近い大きなサイだった。

 新しいサイは、ブーア人が白いサイと呼ぶと思っていたバーチェルは、英名でも白いサイの名を付け、それを学会に送った。1817年に、彼が命名者となって報告されたのがシロサイの発見だった。
 バーチェルにシロサイの存在を教えてくれたのはブーア人の開拓者だった。このときバーチェルには White Rhino と聞こえたようだが、実は似た発音の口の広いサイを意味する言葉(Wijd Rhino)だった。

 19世紀半ばからの狩猟でシロサイはほとんど絶滅していると Kalman Kittenberger は書いている。彼が狩猟を行っていたのは1903−1926年である。Edouard Foa(1899)もシロサイは既に絶滅したと書いている。発見されて以来、ハンターが殺到したのだろうか。この頃シロサイは確かに絶滅に瀕していた。南アフリカ・ナタールの Umfolozi 保護区に50頭ほどが生存するのみだった。
 シロサイはザンベジ川から北には見られないことがわかってきたが、ずっと北方にも限られた地域に分布していることが後に判明した。Samuel Baker はラドでいくつかの角を見つけ、北部にもシロサイが存在することを初めて示唆した。
 1900年、ギボンズは白ナイルのラドからシロサイの頭骨を入手した。同じ頃イギリスのハンター、パウエル・コットンは、白ナイルの上流で大きなサイを撃った。動物学者のライデッカーがそれを北方の亜種 R. s. cottoni とコットンの名を冠して学会に発表した。1908年のことだった。後の調査でコンゴのウェレ川の近くやウガンダにまでいることがわかった。

 Kittenberger は既に20世紀の初めにはウガンダ、スーダン、コンゴでキタシロサイは保護されていたので当分は絶滅を免れるだろうと言っていた。

   1958年の報告では南アフリカのウムフオロシ保護区で約600頭、ウガンダで300頭、コンゴのガラムバ国立公園で600頭、中央アフリカのゴズ・サスルコン国立公園で70−80頭。1963年の見積もりでは全部で1700頭(現代の記録・動物の世界、1966)。

 1970年には南アフリカでは2000頭ほどに回復している。そして20世紀末には7500頭を数えるまでになった(Taylor, 1999)。2001年の推定では11600頭に増えている(ifaw.org)。

 一方、北のシロサイに関しては反対に激減している。分布していた国で民族紛争が絶えなかったことも影響しているだろうが、1980年の調査では1000頭以下とされ、20世紀末にはコンゴ(Garamba 国立公園)でわずか29頭というのが北のシロサイの全てになってしまった。

 キタシロサイはもはや風前の灯火だ。2007年5月30日、米カリフォルニア州のサンディエゴ動物園に飼われていた雌が死亡し、残るキタシロサイは世界で13頭程度となった。動物園に8頭(サンディエゴとチェコ)が飼われており、野生での生存は5頭ほどしか確認されていない(CNN)。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。


 2008年6月16日、国際自然保護連合(IUCN)はキタシロサイがほぼ絶滅したとの見解を示している。野生のキタシロサイはアフリカ中部、コンビ民主共和国(旧ザイール)のガランバ国立公園でのみ、生息が確認されていた。しかし、これまで確認されていた4頭の個体の姿が、この2年間にわたって見られていないため、IUCNでは野生の個体が絶滅したと見ている。飼育下でも後7頭しか残っていない。
 ミナミシロサイは17480頭(2007年)にまで増えているという(CNN)。

 シロサイもクロサイも体色はあまり変わらない。どちらかといえばシロサイの方が淡いくらいだ。シロサイの方がだいぶ大きくなる。クロサイの体重は Walker(1964)によれば1000−1800kg、Taylor(1999)は1400kgまでとしている。顕著な相違は口の形で、木の葉をよく食べるクロサイの口は尖っているが、主に草を食べるシロサイは幅広の口をしている。

アメリカ自然史博物館
クロサイ全長(cm) 肩高(cm)体重(kg)備 考
411175ケニヤ by S. E. White(1912)
雄(11)333−357145−1611072−1316ケニヤ by Meinertzhagen(1938)
雌( 5)325−356149−158997−1273ケニヤ by Meinertzhagen(1938)
362(尾は66)144ズールーランド by Austin Roberts(1951)
雄(7)339−355157−175ザンベジ by Edouard Foa(1899)
雌(5)340−349161−172ザンベジ by Edouard Foa(1899)

 クロサイとシロサイの立場も逆になった。Edouard Foa は早くも1899年にサイは既に棺桶に片足を突っ込んでいる(one foot in the grave)と書いている。南アフリカでは1824−1879年、東アフリカでは1880−1890年に多数のクロサイが殺されたという。
 それでも1966年頃の推定ではまだ13500頭ほどいた(現代の記録・動物の世界)。1980年の調査でも14000−24000頭もいた(今泉、1984)。それが1990年には3000頭ほどになり(Taylor)、1995年には2000頭そこそこにまで落ちた(Carwardine、1995)。現在ではやや増えて4230頭(2007年)といわれる(cites.org)。クロサイが生息する主な地域は、南アフリカ、ジンバブエ、ナミビア、それにケニヤとタンザニアである。

 以前は動物園で見られるサイはほとんどがクロサイだったのだが、今ではなかなかお目にかかれなくなった。こんにちではシロサイよりもクロサイの方が珍しい動物なのだ。

 2000年12月18日、オハイオ州のコロンバス動物園で1頭のクロサイが死んだ。1951年に生まれて間もない子サイが生け捕られ、スイスのバーゼル動物園を経て、1954年にコロンバスにやってきた。49歳というのはクロサイの長寿記録だという。推定2400ポンド(1090kg)くらいの雄だった。この頃(2000年)世界で飼われているクロサイは235頭で、野生下での推計は2700頭となっている。

 広島市の安佐動物公園で39年間飼われているペアのクロサイは、雌が44歳、雄も43歳(2010年9月現在)で世界一の長寿夫婦という。同園によると、世界動物園水族館協会(スイス)が管理するデータベースで、世界69動物園で飼育している487頭のクロサイの中で、ハナ(雌)は最高齢、クロ(雄)は2位になるという。いずれも体長約3m、体重約1.2トン。
 2頭は1971年、ケニアからやってきた。体つきなどからハナは5歳、クロは4歳と推定された。夫婦でこれまでに10頭の子をなし、世界2位の多産記録を持つ。2頭は現在、高齢のため一般公開されていない。餌を食べるのも、木陰で昼寝するのもいつも一緒(飼育員)だそうだ(朝日新聞)。

 2016年7月、雌のハナはまだ健在である。50歳、クロサイの長寿記録だ。これまでに10頭の子を産んだ。99年に「引退」して動物公園の奥に移り、公開は年数回に。現在は泥浴びをしたり、角を岩で研いだりして落ち着いた生活を送る(毎日新聞)。


インドサイ全長(cm) 肩高(cm)備 考
394(尾は74)175胴囲295cm、by Rich and Lydekker(1901)
401(尾は61)185胴囲361cm、by Rowland Ward(1903)
421(尾は66)184by Rowland Ward(1903)
430(尾は66)194胴囲366cm、by Rowland Ward(1903)
体長381188by Colonel Pollock
体重は雄(肩高178cm)で2070kg、雌(肩高160cm)で1608kg(スイス Basle 動物園、1959)。
   ドイツとスイス(Basle)の動物園で飼育されている11頭の測定では:
    雄(4)1821−2300kg、雌(7)1833−2000kg。(Zoo Biology, 2005)


 インドサイはシロサイと同じくらい大きい。東京多摩動物公園で飼われていた大きな雄は4歳の時、すでに肩高185cm、体重1700kgになっていた。


2008年7月に死んだ東山動物園のインドサイ(体長3.2m、体重約2t)。36歳だった。
 インドサイは2008年、日本の動物園では7頭が飼育されている。多摩動物公園(3頭)、横浜の金沢動物園(2頭)、名古屋の東山動物園(2頭)。



2016年、山口県の秋吉台自然動物公園サファリランドにやってきたインドサイ。西日本では初公開。雄でまだ2歳だが、既に体重は約1.4tという(毎日新聞)。

 ゾウやカバに較べてサイが非常に少ないのは不思議でもあるが、アフリカのサイはまだ事情が良い方なのだ。アジアの3種のサイに関してはもっと悲観的である。現代の記録・動物の世界(1966)によれば、インドサイは約600頭だった。1973年には900頭以上となった(今泉)。しかしインドサイによく似たジャワサイともなると自体は絶望的である。。
 雌には角がないといわれるジャワサイ(剥製)

 ジャワサイはベンガル、アッサムからビルマ、タイ、インドシナ、マレー半島、スマトラ、ジャワにまで分布していたが、次第に各地で絶滅へ向かう。タイでは1897年から消息が絶え、スマトラでは1925年に7頭が撃ち止められたのが最後という。
 マレーシアのロックの調査では(1937年)生息数は66頭。しかもビルマ(4)、マラヤ(6)、タイ(8)、インドシナ(18)、スマトラ(6)、ジャワ(24)と分散している。1960年には生存が確認されるのはジャワだけに限られ、24−80頭という(動物の世界)。

 現在ではインドサイがだいぶ回復して2800頭(インド北部、ネパール)、ジャワサイ60頭で変わらず、スマトラサイ(ビルマ、タイ、マレーシア、スマトラ、ボルネオ)は若干増えて300頭(irf.org)。

 2006年9月、世界保護基金(WWF)はウジュン・クロン国立公園でジャワサイの子4頭が誕生していると発表した。1頭は母親と共にいるところを、他の3頭は足跡が確認された。またベトナムの Cat Loc で5頭から8頭の生息が確認されているとも伝えている(AFPBB)。

 ジャワサイはインドサイに近縁でよく似ているが少し小さく、体長2.5−3m、肩高1.4−1.7mほど。

 2008年5月、めずらしいジャワサイの映像が世界自然保護基金によって公開された。ジャワサイの最後の聖域、Ujung Kulong 国立公園内に設置した隠しカメラがとらえたもの(AFPBB)。
※ わたぴーさんから知らせていただきました。

HOME