哺乳類は新生代更新世に頂点に達した。この時代の獣には大物が多い。ゾウもシカもヤギュウも、カバもそうだった。大きなラクダもいた。肉食獣でもクマやライオン、そしてハイエナも巨大になった。サイもまたこの時代に最も繁栄した。ロシアの草原に現れたエラスモテリウムは真正のサイ(つまり角をもった新しいタイプのサイ)で最大の種類だった。
エラスモテリウムは当時森林が広がっていたヨーロッパまでは分布を広げなかったようである。見渡しが効き、隠れるところも少ない草原では大きいことは身を守る強力な武器である。肩高2mを超え、体長は4.5mに達した。当時最強の肉食獣であったホラアナライオンでも手が出なかったかもしれない。
↑ 南ロシアのスタブロポリで見つかった Elasmotherium sibiricum の骨格。体長4.1m、背の隆起までの高さは2.5mもある(Stavropol’ Regional Museum)。
エラスモテリウムのユニークな点はまっすぐに伸びた1本の大きな角だ。普通、サイの角は鼻に近いところにはえているが、エラスモテリウムの角は額の真ん中辺りにあった。
サイの角はよく知られているように皮膚の変化したもので中に骨の芯はない。だから化石としては残らないのだが頭骨に角の跡は残されているので、それから角の大きさを推定できるが、エラスモテリウムの角は1.8mもあったといわれる。もっとも太い角が必ずしも長かったとは限らないが。
一角獣(ユニコーン)を想わせるこの大きなサイ、エラスモテリウム属は、200万年以上前に出現し、5万年前くらいまで生存していた。フランスから中国まで分布したが、Elasmotherium sibiricum は更新世中期から後期におもに南ロシアに棲んでいた。
エラスモテリウムが2万9000年前まで生存していたことが、2016年3月、ロシアの学者チームにより発表された。カザフスタンで保存状態の良好な頭骨の化石が見つかり、同地域に移り住んだ個体は従来の説よりはるかに長く生存していたことが判明したというCNN)。
※ ac7059さんから知らせていただきました。
更新世前期には黒海周辺に E. caucasicum が棲んでいて、これはさらに大型だった。体長4.8mに達し、体重は3.5〜4.5tもあったといわれる。
↑ Azov Historico-Archaeo-Palaeontological Museum
ウーリーライノセロス(毛サイ)
Coelodonta antiquitatis
マンモスと同じ時代、ヨーロッパには全身長い毛に覆われたサイが住んでいた。首にはたてがみもあった。体は明るい褐色をしていた。今のアフリカのサイのように2本の角を持っていた。ここまではっきりわかるのは冷凍になった死体がいくつか発見されているからだ。角は2本あり、現在のサイの角よりも大きかった。
氷河時代の人類はマンモスをはじめ多くの動物を捕獲したが、サイはあまり狩猟されなかったようだ。当時の人類のゴミ捨て場らしき遺跡からはいろいろな動物の骨が見つかっているがサイの骨はごく少ない。これはサイがかなり危険な動物であり、群も作らずに生活していたので狩り自体が難しかったからかもしれない。
体長(cm) | 肩高(cm) | 発見された地域 |
---|---|---|
358 | 153 | 西ウクライナのカルパチア山麓・スタルニ村で見つかった遺体 |
355 | 153 | 同 上 |
320 | 150 | ヤクートのチウラブチャから出土した骨格 |
↑ウクライナ西部のスタルニ村の地ろう採掘場から出た毛サイ(ポーランドのクラクフ博物館)
1929年にウクライナのStarunia で見つかったほぼ3万年前のウーリー・ライノセロスは若い雌だった。その遺体には内臓や皮膚が保存されていた。皮膚は僅かな断片に過ぎなかったがそこには毛も残されていた。
ロシアの科学アカデミー動物学博物館に保存されている10本の角は70−138cm(平均98cm)もある。根元の直径は10−23cm(平均17cm)である。
←コエロドンタの姿は冷凍になった遺体だけでなく、洞窟に描かれた壁画からも伺える。
ロシアのカザン大学地質学博物館と科学アカデミー動物学博物館にあるコエロドンタの頭骨の長さは76−86cmである。今のシロサイと同じくらいだ。
←ロシアのヤクーツクで見つかった頭骨。74cm(大阪市立自然史博物館)
1900年にドイツで46万年前のウーリーライノセロスの頭骨が見つかっている。しかし53個にも断片化していたため100年以上も手つかずのままにおかれていた。毛サイの化石としては最も古いという。この頭骨はアジア種の Coelodonta tologoijensis と名付けられた。
毛サイは250万年ほど前にヒマラヤ北方に初めて出現した。そして長い間中央アジアの草原に棲んでいたが気候の寒冷化に伴ってヨーロッパに−45万年ほど前に−移動したと考えられている(BBC)。